第3話 シートマスク
止まらない再生回数、増え続ける登録者とコメント。
OD装い動画の配信から二日でゆーにゃは1万人のフォロワー、登録者を抱える配信者になった。
どうやら、初めてコメントをくれた男性が『ビジュ最強のメンヘラ配信者ゆーにゃを助けたい』と投稿したのをきっかけに拡散が拡散を生んでいる様だ。
(キモいとか思ってごめんなさい)
こうしている間も再生数、登録者の数の伸びは止まる気配がない。
このままあと数日静観する事も考えたが、これは『ありがとう、辛い気持ちに負けたけど、みんなと繋がっているからまた頑張りたい』的な事を発信する方が効果的なのではないかと考え、早速準備に取り掛かる。
『みんなと繋がりたい』『もし同じ様に不安になっちゃう人、独りで悩んでる人がいたらコメントして欲しい』『ゆーにゃとみんなだけじゃなくてゆーにゃを応援してくれている人同士でも支え合える様なそんなきっかけとかにこのチャンネルがなったら嬉しい』
(ちょっと良い子過ぎるかな…)
学校の勉強は適当にしかしないが、興味のある事、なりたい自分になる為の勉強については勤勉だから本当に良く調べ更に、メンヘラが、いや、愛されるメンヘラでいる為にどう発言するべきかを徹底してシュミレーションした。
メンヘラを装うには自虐と攻撃と過剰な感謝のバランスがとても重要で、そこに加えてアイドル性というか応援したくなる直向きな姿勢も見せていく必要があるという結論が私なりのゆーにゃというキャラの答えだ。
今のゆーにゃは“超感謝モード”で登録者のみんなが神様かの様にひたすらに崇拝し、そんなみんなの力で“ポジティブに頑張れる”状態である様に振る舞う必要がある。
正直、キャラクターの感情の起伏まで覚えていられないので、紙の手帳にゆーにゃのメンタルの状態を数値化して書いて記録をつけて始めた。
この手帳にはゆーにゃがどういったメンタルで何を発言したかも大まかに書いているだけでなく、今後のゆーにゃのメンタル予定の計画も書き込んでいる。
紙の手帳は小学生の時以来だが、スマホに記録してうっかり流出しては困るのでアナログな方法をとる事にした。
自分で決めた事なのに、ゆーにゃのメンタルの乱高下予定は凄まじさに少しビビってしまう。
メンヘラも様々なタイプが存在するという事を理解した上で一番ドラマチックなキャラになりそうな感情の起伏の激しいタイプにしようと決めたわけなのだけれど、リアルにこういう状態なら恐らく正気ではいられないと思う。
私はファッション的に装っているだけだから、とても冷静にひとつひとつ発言しているが、この様な感情の起伏を衝動的に全世界に顔を出して晒している人がいるのかと思うと少し引いてしまっている。
と、いうか、私が調べた範囲ではそもそもメンヘラな人はSNSと一定の距離をとった方が良いのではないか?とすら思う。
私の頭が冷める程、ゆーにゃのアカウントの数字は伸び、盛り上がった。
OD動画の後の感謝配信後も数日したら軽く自虐的になり、少しポジティブに戻るという状態の周期を作る配信をした結果、ゆーにゃのアカウントを作成してから4週間で3万人、8週間で5万人に届きそうなところまでフォロワー、登録者共に伸びていった。
毎日の様に届く新しいコメントやDM、その中に1つ星が輝くかの様に認証バッチのついたアカウントからのDMがあった。
(信じられない…本当に本人?)
目を疑うその内容はメイク動画への出演依頼で、しかもDMの送り主は登録者80万人の人気美容系配信者“コミドリ”さんからだった。
失礼がない様にDMに返信したいという気持ちと人気配信者の動画に出れるというまたとないチャンスへの興奮と緊張で何度も返信の文を読み返し、震える指先で返信を送った。
コミドリさんからのいつ来るか分からない連絡を画面を見つめながら待つ。
とても長く感じているが、時間でいうと15分程度しか経っていない。
(気まぐれで連絡してくれただけで、やっぱり無しなんて言われないよね…)
自分でも信じられないが、画面を見つめたまま1時間近く何もしていない事に気が付き、メイク動画ならいつもよりスキンケア念入りにしなきゃと、去年のクリスマスに買ったコフレに入っていたデパコスのシートマスクを探そうとした時、待ち侘びた連絡が来た。
『明日、カフェで打ち合わせ出来ますか?』
素早く返信をした。
テンポ良く打ち合わせの時間と場所が決まり、人気配信者との打ち合わせという予定をスマホのカレンダーに登録し、メーターを振り切る勢いで上がり続けるテンションとは裏腹に、ひとつ、とてつもなく大きな問題が頭の中で膨らんだ。
(何を着て打ち合わせに行こう…)
指定されたカフェはホテルの中に入っているカフェで家族でアフタヌーンティをしに行った事があるから雰囲気は知っている。
メンヘラ服で行くのには激しく抵抗感がある。
けれど、コミドリさんはメンヘラ配信者のゆーにゃにオファーをくれた訳で…
あと二時間もすれば明日になってしまう…メイク動画の打ち合わせの日に寝不足で顔のコンディションが悪いというのは避けたい。
とりあえず、お風呂に入って、シートマスクをして寝よう。
高価なシートマスクをするつもりでいたが、初めて使う化粧品で肌に合わず…というのは避ける為、いつものシートマスクを使ったけれど、いつもしているSNSチェックはせずにスマホを早々に伏せた。
シートマスクを外した顔はすっかり有名配信者の仲間入りをしたかの様だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます