第2話 代替テスト
小学校の運動会というと、今は春に行われることが多いようだ。近所にある小学校も5月だ。
私の頃は秋だった。10月何週目かの日曜日だったと思う。
その時は、進学塾の日曜日のテストは休むこととなった。
小学校の振替休日に「代替テスト」と呼ばれる後追いテストを指定された校舎で受けるのだ。
代替テストの教室にもアルバイトの大学生が配置される。いわば試験監督員だ。
運動会の翌日、いつもの通い慣れた校舎と違って私はテスト開始間際の入室となってしまった。
混み合う中、教室の後ろの方に見つけた空席についた。
すると、遠く黒板の前に、問題用紙の束を教卓の上で持ち上げるK大医学部の姿が目に飛び込んで来た。
彼はスラリとした長身だったから、遠くからでもすぐに判る。
整髪料でまとめられたウェイブのかかった黒髪、色白で掘りの深い顔、細くて切れ長の目。
普段と違って見えたのは、笑みが浮かんでいない薄い唇だけだった。
いつもと違う教室での遭遇から妙な満足感に呑まれてしまったのか、その日のテストの出来はサッパリだった。
夕刻、私はいつもの教室に出向いた。
入室しようと廊下を進んで行くと、K大医学部とバッタリ出会した。
「今日、2度目だな」
薄い唇の端に笑みが浮かんでいた。
不意な一言だった。が、私は満面の笑みを返し、強く頷いた。
私は彼を近くに感じた。
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