四 鈴木インサニティ、アゲアゲのパーリナイでゴザルの巻

 鈴木すずきインサニティがどんな人物だったのか、詳しいことはよくわかっていない。元々は商人だったとかクイズ王だったとか諸説あり、中にはウマモドキだったなんて説まである。


 しかし、インサニティが石田三成に接触するようになった理由はわかっている。妻の父親が自転車に乗っていた時に当て逃げされて、まとまった額の治療費が必要になったからである。


 インサニティは三成から金をもらう代わりに、手品や小粋なパーティージョークを披露して、合戦が間近でピリピリしていた武将や足軽たちの心を癒していた。家康につかなかった理由は憶測の域を出ないが、三成の陣営の方が家から近かったからじゃないかなあ。


 そんなインサニティが、ある日三成に命じられた。


「こっそり家康んとこ行って、あいつらの行動を邪魔してきてよ」


「めっちゃ危ないじゃないですか」


「その代わり報酬はいっぱい出すからさあ。治療費の他にも、子供が私立の中学を受験するからお金いるんでしょ」


「どうしてそれを」


「イヒヒ」


 こうして断れなくなったインサニティは、夜中にこっそり家康サイドの武将たちが拠点にしている寺に忍びこむと、寝ている足軽たちにバレないようにこっそり加湿器にシンナーを入れて回った。



【危険】絶対にマネをしてはいけません



 そして蒸気になったシンナーが拡散したタイミングで、大音量で音楽を流し始めた。


 昼間でも苦情が出るレベルの轟音に叩き起こされた武将や足軽たちは、ぶちキレて止めようとするけど、充満したシンナー蒸気の効果で視界がグニャア。


 フラつく足で寺を出ると、月明かりの下で三成から派遣された足軽たちが踊り狂っている。輪の中心にはターンテーブルがあって、インサニティがDJプレイの真っ最中。


「なんだこれは」


 いきなりの大音量に加えて脳内はシンナーでグニャグニャ、そこへ楽しそうに踊る足軽たちを見たら、もう戦なんてどうでもよくなってくる。


「うおお」


 次々に駆け寄って、踊りの輪に加わる。そこへショットグラスを差し出すインサニティ。


「テキーラ飲むっしょ」


「イェー」


「マフィン食うっしょ」


「イェー」


 盛り上がりは最高潮。


「うるさくて眠れないんですけど」


「黙らせてよ」


 近くで陣を構える武将たちが、三成に苦情を言ってくる。とはいえ頼んだ手前、あんまりインサニティに強くも言えない。


 直接言うしかないと思って三成が出向くと、敵も味方も一緒になって、地面に這いつくばってもだえ苦しんでいる。


「マフィンが腐ってました」


「何やってんのオマエ」


 回りっぱなしのターンテーブルからレコードの針を外せば、辺りには静寂。


「医者と保健所を呼んでください」


 うずくまって頼みこむインサニティに、三成は告げる。


「いいけど、報酬は半分な。味方の方が被害大きいし」


「せち辛い」


 その後インサニティの子供が私立の中学を受験できたのかは定かでないし、下人の行方は誰も知らない。

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