五 関ヶ原、開戦でゴザルの巻

 鈴木インサニティが病院に搬送された数時間後、徳川家康がとうとうキレた。


「秀忠のヤロー、まだ来ねえのかあのヤロー。まさか逃げたんじゃねえだろうなバカヤローこのヤロー」


 ヤロー成分マシマシでキレ散らかす家康を、家臣たちが必死でなだめる。


「LINEの既読はついてますから」


「今出たところと言ってます」


「そば屋じゃねえんだバカヤロー」


 キレる家康、思い余って刀を抜いた。


「こうなったら全員叩っ斬ってやる。ムシャクシャしてやった、誰でもよかった」


「やる前に言うことじゃないです」


「うるせえバカヤロー」


 刀を振り回す家康から逃げる家臣たち、混乱のあまりウマモドキに乗って逃げるやつ鉄砲を撃つやつシンバルを鳴らすやつなどなど、何でもアリの大混乱。


 その騒ぎを聞いた周りの陣営は開戦と勘違いして、次々に兵を進めてほら貝を吹く。繰り返すこのホラリズム、ああプラスチックみたいな貝だ。


   †


「始まったぞ」


 オペラグラスで関ヶ原の様子を窺いながら、石田三成サイドの総大将である毛利輝元もうりてるもとが言う。


 総大将とはいっても名前だけのポジションで、実際のところは三成が全部仕切っているのは周知の事実。輝元自身もそれは自覚している。


「だが、ここでワシが大活躍すれば、誰もが名実ともに総大将だと認めるじゃろうて」


「おっしゃる通りです」


 イエスマンたちに持ち上げられてノリノリの輝元、全軍に向けて指揮する。


「出陣じゃあ」


 ところが先頭にいる吉川広家きっかわひろいえが、ずっと動かないせいで後ろの連中もみんな進めない。


「何をしちょる」


 イラつく輝元が電話する。戦況が有利なうちに進軍したいから、口調が荒くなるのも無理はない。


「メシ食ってます」


「今かよ」


「さっきウーバー届いたばっかりでして」


「ンモー、さっさと食えよ」


 待ってる間にも戦況はどんどん変わっていく。輝元のイライラはつのるばかり。


   †


「決めたぞ」


 戦が始まってからもずっと迷っていた小早川秀秋が、ついに声をあげた。


「治部少輔につく」


「ええっ」


「やったあ」


 家康からワイロをもらっている平岡頼勝はショックだし、三成からワイロをもらっている稲葉正成は大喜び。


「でも、戦況は家康公の方が有利ですよ」


「我々が加勢すればまだひっくり返せる。やっぱあの人には恩があるし」


「わーい」


 正成がバンザイする一方で、頼勝は床を転がってだだをこねる。その足が床に置いてあった加湿器に当たった拍子にスイッチが入り、辺りにシンナーが充満した。


「アヒャア」


 シンナーの蒸気をまともに吸ってラリラリになった秀秋、両手にカタナを持って陣を飛び出す。


「じぇんぐん、とちゅげきいいい」


「ああっ、そっちは味方の軍勢ですぞ」


 正成が止めようとするけど、自分もラリっているからまともに動けない。結果として秀秋の率いる兵たちが、三成サイドに襲いかかる事態に。


   †


「なんか知らない間に始まってんじゃねえかバカヤローこのヤロー」


 事態に気付いた家康が指揮を出して、三成サイドへ一斉に襲いかかる。


 三成直属の兵たちはマフィンの食中毒でまともに戦える状態じゃないし、輝元は広家たちがまだ食事の途中で兵を出せない。


「なんでそんなに時間かかるんだよ」


「シジミの味噌汁でして」


「ンモー、今食うもんじゃねえだろ」


 そうこうしている間にも家康たちの兵は迫り、三成も「もはやここまでか」と観念しかけたその時。


 関ヶ原の上空に巨大な円盤が現れたかと思うと、小西行長とその兵たちがウマモドキに乗って出てきた。


「宇宙フラッシュ」


「うわあ」


 行長はハワイで買ったマカダミアナッツ入りのチョコレートをむさぼり食いながら、宇宙人から伝授された宇宙フラッシュを撃ちまくって敵味方関係なく壊滅させる。


「わははははは」


 行長は辺りを縦横に駆け回り、尻からボロボロと卵を産み落とす。聖母マリアの処女懐胎を思わせる貴重な産卵シーン。


「なんか様子が変だぞ」


「目が怖いよあのヤロー」


 ヒソヒソ話していた三成と家康も、ウマモドキの群れと卵から生まれたミニ行長たちに踏みつぶされて凄惨な最期を迎える。


 こうして戦を制した行長は朝廷より征夷大将軍に任じられ、そこから先の歴史は皆さんご存知の通り。関ヶ原の記録はここに幕を閉じる。

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