三 小早川秀秋、迷いすぎるでゴザルの巻

 徳川秀忠が車内で待たされている頃、小早川秀秋こばやかわひであきは徳川家康と石田三成、どちらの軍勢につくかまだ決められないでいた。


「うーん、どうしようどうしよう」


 一応は関ヶ原に向けてウマモドキを進めているものの、ずっと腕組みしながら考えていたせいで、電柱にぶつかるしジジイの自転車に当て逃げするし落とし穴に落ちるしと散々な有様。


「何を迷っておられます。状況的に有利なのは明らかに家康公。わざわざ負け戦を選ぶ必要はありません」


 家老の平岡頼勝ひらおかよりかつが言う。こいつは家康から金をもらってる。


「いいや、治部少輔じぶのしょう(三成のこと)に受けた御恩を忘れましたか。ちょっと不利なくらいは気合いでカバーです」


 もうひとりの家老・稲葉正成いなばまさしげが言う。こいつは三成から金とクルーザーとゴルフ場の会員権をもらっている。


 実際のところ、戦力は家康の方があるものの、秀秋がつけばまだ三成にもワンチャンある状況。だからこそ家康も三成も、家老にワイロを送って自分の陣営に引きこもうとしている。


 とはいえ決めるのは秀秋。家老たちの説得にも熱が入る。


「腕力があるのは何と言っても家康公ですぞ。ガチでやったら治部少輔なんてワンパンです」


「治部少輔には知性があります。家康公はぶっちゃけバカですから、サクッとダマされてバタンのキューです」


「家康公の方が金持ちー」


「治部少輔の方が奥さん美人ー」


「家康公はR-1で優勝したー」


「アップルの創業者は治部少輔ー」


 収拾がつかなくなってきた。しかも最後の方ウソだし。


「どうしよっかなあ。うーんうーん」


 まだ決められない秀秋に、頼勝と正成が両サイドから迫る。超うぜえ。


「ご決断ください」


「どっちにつくんですか。どーっちどっち」


「ぐぬぬ」


 困った秀秋、半ば逆ギレ気味に言い放つ。


「どっちにもつかない」


「えっ」


「えっ」


 予想の斜め下を行く発言に、両サイドのふたりも動揺を隠せない。


「ど、どういうことですか」


「説明してください」


「だーかーらー、家康公と治部少輔の2つしか選択肢がないと思わせるのがトリックなワケで、本当は他にも選択肢はあるってこと」


「どういうことでしょう」


「よくわかりません」


 ふたりとも明らかにピンときてない。


「で、具体的にどうなさるワケで」


 頼勝が尋ねる。逆サイドでは正成もうなずく。


「我々はインディーズでやっていく」


 秀秋の答えを聞いても、ふたりはポカーンと口を開けたまま。秀秋は構わず続ける。


「そもそも世間じゃあのふたりが2強みたいに言われててるけど、それでもどっちにも頭下げたくないやつとか、シンプルに嫌われてるやつとかはいるワケじゃん。そういう行き場所のないやつを集めて第3勢力を作って、電流爆破みたいなあいつがやらない独自の方向性を出せば、両方に対抗できると思うんだよね」


 長いセリフを言いきってグッタリする秀秋に、ふたりは両サイドからサクッと言い放つ。


「それはないわー」


「引くわー」


 あれだけ熱弁したのに、全然刺さってない。


「そんなあ」


 秀秋の軍勢がどうするのか、結論はまだ出ない。

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