第12話
早足で昇降口へ向かうと、思っていた通り大きなダンボール箱2箱がそこに置かれていた。
出入り口を塞ぐように立ちふさがっている自衛隊員たちの姿は相変わらずあるけれど、物資がそこに置かれているので近づいても大丈夫そうだ。
「食べ物の他になにかないかな」
圭太がそう呟いて箱に近づいてときだった。
後からやってきた数人の男性とたちが圭太の体を無理やり押しのけて箱に飛びついた。
はじき出された圭太は尻もちをついて渋い顔をしている。
「おい、なにすんだよ!」
声をかける先で男子生徒たちは我先にと食べ物を奪い取っていく。
「そんなに取ったら、他の人の分がなくなっちゃう!」
思わず声をかけると1人が手をとめて振り向いた。
その顔には笑みが張り付いていて一瞬たじろぐ。
「それなら心配しなくていい。もう感染してない生徒の方が少ないんだ。俺たちがいくら食料を奪っても、まだまだ残ってる」
「え、嘘でしょ」
もう感染者の方が数が多いってこと!?
私は驚きのあまりその場で硬直して動けなくなってしまう。
男子生徒たちは自分たちの両手に持てるだけの食料を取ると、すぐにどこかへ走り去ってしまった。
きっと、感染者が来ないような場所に隠れているんだろう。
私は彼らの姿を見送った後、ダンボールに近づいた。
中を確認してみると、サンドイッチやおにぎりやお茶ががまだまだ残っている。
誰も取りに来ていないということだ。
「くそっ。乱暴なことしやがって」
やっと立ち上がった圭太が500ミリのお茶を一本取り出して一口飲んだ。
残念ながら、この物資の中には食料以外のものは入っていないみたいだ。
「さっきの人たちが言ってたこと、本当なのかな」
「感染者の数のことか? さぁ……どうかな」
箱の中の食料が減っていないのは別のところから食べ物を調達しているからか、それとも感染者が増えて食事を取れない者が増えたからか。
それがわからなければ数もわからない。
「今日のところはみんな持参した弁当とかもあるし、食堂にも食べ物はあるだろうし。そんなに気にすることはないと思うけど……」
圭太がまた難しそうに眉間にシワを寄せる。
「今必要なのは食料じゃなくて、武器かもしれないな」
最悪の自体を想定して、圭太はそう言ったのだった。
☆☆☆
それから圭太は1つだけおにぎりを食べて行動を再開していた。
ずっと同じ場所にいてはいつ感染者に襲われるかわからないから、できるだけ学校な有為を動き回っていた方がいいと判断したのだ。
もし感染者と鉢合わせしても、2人いるから別々に逃げることも相談して決めた。
逃げた先で襲われたとしても、私は感染しているから食料にされることはないからと。
それじゃあ圭太はどうするの?
感染していない圭太が感染者に捕まってしまったら、そのまま食べられてしまうんじゃないの?
そんな不安を伝えると、圭太は薄く微笑んで黙り込んでしまった。
圭太は自分を犠牲にして私を助けるつもりでいるのだ。
その優しさに胸が熱くなり、同時に自分だけ感染してしまったことがひどく申し訳なくなる。
「大丈夫。悪いのはウイルスなんだから」
圭太はそう言って私の手を握りしめてくれた。
「なにか、武器になるものを持っていた方がいいな」
「そうだね」
探しにきたのは体育館だった。
体育館が学校と隣接して作られていて、一旦外へ出る必要もないので自衛隊員に合うこともない。
分厚くて重たい体育館の扉を少しだけ開いてみると、中からバスケットボールの音が聞こえてきた。
笑い声も漏れてきて私と圭太は目を身交わせる。
薄く開いた扉から硬めで様子を確認してみると、10人ほどの生徒たちが集まってバスケットをしているのが見えた。
「遊んでるのか?」
圭太が目をパチクリさせて呟く。
「そうみたい。どうする? 入っても大丈夫だと思う?」
「もう少し様子を見たほうがいいかもしれない」
一見害はなさそうだけえれど、彼らが感染者かどうかがわからない。
私は彼らに気が付かれないように息を殺して様子を見守った。
体育館内では時折誰かが得点を入れて、その度に大きな歓声が湧き上がる。
試合がどんどん進んで休憩に入ったとき、1人の男子生徒が扉付近までやってきて腰をおろした。
汗でベッタリと張り付いたシャツが面倒なのか、そのまま一気に脱いでしまった。
その瞬間、思わず声を上げてしまいそうになって両手で口を塞いだ。
男子生徒の体にはびっしりと赤い斑点が出現していたのだ。
「この人たちも感染してる!」
小さな声で圭太に言うと、圭太は青ざめた顔で頷いた。
この場所に非感染者が入っていけば、食料にされることは間違いない。
つまり、圭太は入っていくことができないということだ。
「仕方ない。別の武器を探そう」
体育館倉庫ならバッドがあると思って来たけれど、他の場所にもなにかがあるはずだ。
圭太はそう思ったんだろう。
でも、どこでなにを探すのか具体的なことが決まっている方がいいに決まっている。
闇雲に探しものをしたって、簡単には見つけることができないから。
「でも、私なら取りに行くことができる」
「薫?」
圭太の顔に心配の色が差す。
けれど私はそれに気が付かないふりをして扉の前に立った。
わざと腕まくりをして赤い斑点が見えるようにする。
「おい、やめろよ」
圭太が静止するのも聞かずに私は扉の隙間に指を差し込み、一人分の大きさに開いていた。
ガラガラと大きな音が体育館内に響き、彼らの視線が一斉に私へ向かう。
その視線に射すくめられそうになるけれど、必死に笑顔を浮かべた。
「なにしてるの?」
質問する間に10人ほどの生徒が私を取り囲んでいた。
その目は品定めするような目で、心臓がバクバクを高鳴り始める。
大丈夫。
まだ感染者が感染者を食べる自体にはなっていないはず。
だから私が食べられることはない。
自分自身にそう言い聞かせても背中にジワジワと冷や汗が滲んでいくる。
恐怖で膝が笑ってしまって、立っていることがやっとだ。
1人の女子生徒がマジマジと私のことを見つめ、そして「感染してる」と、他のメンバーに告げた。
「なんだ。あんたも感染者か」
途端に張り詰めていた空気が緩まり、彼らにも笑顔が浮かぶ。
「う。うん。感染してる。あなたたちも?」
「私達も全員感染しているよ。ここで食料が来るのを待ってるの」
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