第25話 何故か悩むパーティーメンバー

「お邪魔するよ。本当に女の子を保護したみたいだね」

「わっ! 凄い綺麗な子だね〜」


 魔道具のデンワでシオンとホノカを宿に呼び出した。

 2人が部屋に入り、まず目を向けたのはやはりベッドで熟睡している金髪美女。


「良かった。とりあえずは安静みたいだね〜」

「名前もまだわからないのかい?」


 シオンがマールンさんに目を向けた。


「色々とお聞きする前に眠ってしまいましたから、彼女の情報はまだゼロですね」

「そっか。でも彼女は金色の髪をしているね。それにここは王都ファニファール……。ということは、の身分である可能性が高いね」

「そうなのか?」


 シオンの発言に、思わず眠っている彼女の艶やかな金髪に視線を向ける。

 

「人間で金髪になるのは、貴族か王族の血を濃く受け継いでいると言われているんだ。つまり、遺伝というわけ。でもそれは貴族といえば金髪なイメージがあるというところから来ているし、絶対とは言い切れないけどね」

「へぇー」


 シオンは物知りだなぁー。

 でも確かに貴族や王族というお偉い貴族さんはみんな金髪なイメージがある。なんというか、金髪って品があるイメージだからな。


「ちなみロクトは金髪じゃなくてもいいと思うかい?」

「ん? そりゃそーだろ。金髪だろうが別の髪色だろうが個人の自由だからな。そもそも重要なのはその髪色が似合っているかだ」

 

 俺は金髪は絶対似合わないと思っているから、一生黒髪のままのつまりだ。

 それにこの異世界じゃ黒髪黒目がちょっと珍しいらしいし、フツメンでも特別のままの方がいいじゃん。


「じゃあボクは今の髪色の方が似合っているということかな?」

「シオンの髪色はなんでも似合うと思うけどな。けど、見慣れているのは今の紺色ショートカットだし、そのままでいいと思う」

「そっか。ありがとう」


 シオンは嬉しそうにふわりと笑った。


「お、おう」


 なんか……ちょっと可愛いと思ってしまった。

 頬を少し赤くしただけで可愛いと思わせるイケメン恐ろしや……。


「ろっくんがたらしてる〜」

「え?」


 たらしはイケメンの特権では?


 おかしなことを言う隣のホノカに目を向ければ……何故か頬を膨らましてジト目姿だった。


「ろっくんは相変わらずだね」

「え?」


 ふと、ホノカが息がかかるぐらいに距離を詰めてきた。

 さらには俺の肩にもたれかかって……。


「昨日は私に押し倒されたのにね」

「っ」


 そう囁かれ、俺の心臓は跳ねた。

 反射的にホノカの顔を見れば……にひーっと悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。


「……ホノカ?」


 突然の行動に問いかけるも、なんだが気恥ずかしくなって俺は顔を背けてしまう。


「へぇ。意識してくれてるんだ〜」


 いかにもニヤニヤと笑っていそうなホノカの声色に俺は口籠る。


 ホノカがこうしてくっついてくることなんて今までにもあったとはいえ……今回は訳が違う。


『お試しでパーティーを組んだあの時みたいに、今は保留でもいいから。でもこの先、私のことを少しでも女として見てくれるなら、私のことをハーレムの一員にするって頷いて』


 あの言葉に頷いたのだ。

 意識しない方がどうにかしているだろ。俺だって、男なんだし……。


「ねえ、ろっくん。意識してるの?」


 ホノカが逃がさないとばかりにもう一度聞く。


「わ、悪いかよっ」

「悪くないよ。むしろ良いね。いひひー」


 ホノカは満面の笑みを浮かべるものだからもう何も言い返せない。


「おや……随分な効果あったみたいだね」


 視線を逸らした先にいたシオンは、顎に手を添えて俺たちを見ている。

 なんだかそれさえも恥ずかしくなってくる。


「てか、そろそろ離れろ!」

「いいじゃん〜。ふふっ」


 ホノカを強引に剥がそうとするも、逆に首筋に手を合わしてきて固められた。


 てか、力強っ!? 荷物持ちの俺じゃバリバリ前衛アタッカーをしているホノカには勝てない……くっ。


「はいはい、皆さん。今は眠っている方がいるのですからお静かに」


 しーっと人差し指を口元に当てたマールンさんに注意され、俺たちはすぐさま静かにして頷く。

 ホノカからも解放され、息を整えていると。


「うっ……」

「あら。ちょうど目覚めましたか」


 俺たちはベッドに集まった。

 金髪美女の目がゆっくりと開いて……。


「ん……あ、れ? 私は王都にいたはず……」

「おはようございます。ここはわたしたちが泊まっている宿です」

「……え? あ、あのっ」


 金髪美女はがばっと勢いよく起き上がった。

 しかし状況がうまく飲み込めないのか、視線はキョロキョロと落ち着きがなく、その薄い唇はきゅっと不安そうに引き締められた。


 そりゃ目覚めたら知らない場所に人たちに囲まれていたそうなるか。


 そんな時は適任な人がいる。

 マールンさんはすぐにフォローに入った。


「私たちは突然倒れたあなたを保護しました。私のことを覚えてらっしゃいますか?」

「あ、はい……覚えております」


 金髪美女は頷く。


 良かった。記憶喪失とかにはなっていないみたいだ。


「貴方はマールンさん。と、そちらの男性は荷物持ちの方でしたよね?」

「正解です」


 荷物持ちというワードは覚えやすいようだ。名前が負けたよ!


「彼はロクトさん。そしてこちらの2人はホノカさんとシオンさんです。彼女たちもわたしたちのパーティーメンバーです」

「どうも〜」

「初めてまして」


 ホノカは気さくに手を振り、シオンは紳士的な笑みを浮かべた。


「次はあなたのお名前を教えてもらえますか?」


 マールンさんは微笑むと、彼女の手をそっと取り、包み込むように握る。

 その行動に彼女は……震えが止まった口を開いた。


「私は、ユーニ・アルベスと申します」

「ユーニさんですか。可愛らしいお名前ですね」

「あ、ありがとうございます。そして倒れたところを助けていただいてありがとうございます」

「いえいえ〜。でもあなたの根本的な事情はまだ何も解決してないのですよね?」

「……っ」


 ユーニさんはビクッと分かりやすく肩を震わせた。

 マールンさんが特製のヒールを掛けたのでもう元気なはずなのに……とても辛そうな表情をしていた。


「せび話してください。お力になることを約束します」


 マールンさんの握る手にぎゅっと力が入ったのが分かった。

 ユーニさんはマールンさんの方を見て……俺たちの方も見た。

 

 俺たちは大きく頷いて笑ってみせる。


「……っ」


 ユーニさんは目の端にじわっと涙を浮かべながら。


「私の……お母様をどうか助けてください!」


 深々と頭を下げたのだった。


 それから話を聞けば、深刻な事情だった。

 ユーニさんの母親は現在、原因不明の病に掛かっているらしい。

 その病のせいで、もう3ヶ月以上も十分な食事も睡眠も取れていない状態。寝たきり生活が続いているとか。


 これまでも国中の医師や宮廷魔道士、優秀な治癒魔法士に母親の容体を見てもらったが……病の解明も治せる者もいなかった、と……。


「そんな絶望的は状況に、身内の者や屋敷の者に諦めの雰囲気が漂い始めました。そして母自身も……もう探さなくてもいい、治さなくていいと言っていて……」


 ユーニさんが悔しげに下唇を噛む。


「でも、私と父は諦めることなんてできませんっ」


 ユーニさんがハッキリとそう言えば、静寂が訪れた。


 ……諦めきれなくて当然だよな。家族が原因不明の病で今も苦しんでいるのだから。


「……」


 俺は無言でマールンさんの顔を伺う。


 この場でユーニさんのお母さんを助ける手段があるのは、マールンさんだけ。

 逆に言えば、マールンさんがここで断ったらさらに絶望的ということ……。


 しかし、心配はいらないようだ。


「原因不明の病ですか……。一度お母様と合わせていただくことは可能でしょうか? 容体を実際に確認したいですから」

「は、はいっ。それはもちろんです……!」

「ご承諾ありがとうございます」


 マールンさんは顔色一つ変えず、微笑んだのだ。


 と言うことは……原因不明の病とやらを治せる可能があるということ。


 それは俺たちも察したし……。

 ユーニさんはポロリと、涙を1つ零した。


「……っ、ほんとに、本当にありがとうございます……っ。どこに行っても、誰に聞いても、皆さん難しい顔で首を横に振っていて……。しかし諦めてしまって母が弱っていくのをこのままずっと見るだけはなのはできなくて、嫌で……。死んじゃ嫌で……う……うぅ……ひっぐ……」


 しゃくり上げる喉も。嗚咽を漏らす口も。頬を伝う大粒の涙も……ユーニさんの内に秘めた不安が、やっと表に漏れ出せたみたいだ。


「今まであなたもよく頑張りましたね」

「……え」


 マールンさんはユーニさんを抱き寄せて、優しく頭を撫でる。


 ユーニさんの感情は、さらに溢れ出した。

 静寂な空間が泣き叫ぶような声に満たされる。


「―――2人とも」


 と、シオンが小声で話すことがあるとはがりに俺たちに向かって手招きしてきて。


「隣の部屋に移動しようか」


 シオンの言葉で察して頷く。

 俺たちはできるだけ足音を立てずに部屋から出た。



◆◆


「いやー、ユーニさんのお母さんの病が治る手段がありそうで良かったなー」


 明るく話す俺。

 しかし、シオンとホノカの顔は……何故か浮かない顔。というか、悩んでいる様子だった。


「どうしたんだよ、2人とも。マールンさんが引き受けたんだ。大丈夫だろっ」

「ああ、マールンのことは心配していないよ。ユーニさんのお母様は助ける。けど……彼女は貴族だなと思って。それも、アルベス家……」

「ん? それがどうしたんだよ」

「貴族……原因不明の病……あー、なるほどねぇー」


 ホノカは今の言葉で分かったようで、シオンを見てこくんっと頷いた。


 俺は、さっぱり分からない。


「な、なんだよっ。貴族が関わってはいけない存在ってことか? それとも他の要因で躊躇っているのか?」


『王都ファニファールは見ての通り、裕福な国だ。金も地位も一攫千金も……なにもかもが存在すると言われている。しかしその裏では、人身売買や盗賊団が動いていたり、貴族の闇など……色々あるんだよ』

 

 シオンはそう言っていたしな。


「でも、助けられる命があるなら助けないと!」


 荷物持ちで今は何もできない俺だけど……パーティーメンバーが命を救うのに迷っているなら、俺は迷わず助けると声を上げる。


「……そうだよね。ロクトの言う通りだ。ごめん。人の命が何よりの優先に決まっているよね」

「ろっくんのそういう真っ直ぐなところ、いいねっ。は臨機応変にやればいいしね」

「そうだね。ボクたちのパーティーなら大丈夫だ」

「うんっ」


 シオンとホノカの顔が吹っ切れたようになる。


 さすが頼れるパーティーメンバーだぜ!

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