第24話 ただ者ではなさそうな金髪美女

「おい、お前いけよっ」

「ばっかっ。俺じゃ無理だよ。大体あのお嬢ちゃんの頼みつーのは……」

「でももし助けることができたら、見返りはすげぇだろうなぁー」


 ニヤニヤした笑みに、ソワソワと期待したような雰囲気の人たち。

 しかし、誰1人として目の前の金髪美女に話しかけることはしなかった。


「ちょっと失礼しますね〜」


 野次馬を掻き分けてマールンさんが進んでいく。

 俺も後を追う。


 そうして……金髪美女の少し前で止まった。


「こんにちは。綺麗なお嬢さん」

「っ……」


 ビクッと怯えるような瞳で、金髪美女が俺たちを見据えた。

 そんな彼女を怖がらせないようにと、マールンさんは微笑み。


「まずは自己紹介をしますね。わたしは治癒魔法と防御魔法を得意としております、マールンと申します」

「お、俺は荷物持ちのロクトです。どうも……」


 一応俺も挨拶しておく。


「よろしければ、お話を聞かせていただけませんか? わたしたちならあなたの力になれることがあると思うのです」

「あ……」


 マールンさんの言葉と微笑みに金髪美女は驚きつつも、どこも安心した様子で……。


「あ、あの……」


 今、震えた口から言葉を———


「おっと」

「えっ!?」


 言葉を発する前に、マールンさんの方へと倒れ込んだ。


「す、すいません……」


 金髪美女は立ち上がろうとして……うまく足に力が入らないのか、顔を顰めていた。


「あらあら。もう大丈夫ですよ。今はわたしの胸の中で落ち着きましょう」


 マールンさんは金髪美女の背中に手を回し、優しく包み込むように抱きしめた。


「大丈夫ですから」


 耳元でも優しく一言。

 マールンさんが微笑み、優しく撫で上げれば、心まで癒されていくように金髪美女は瞳を蕩けさせていく。


「……あ」


 金髪美女の目がだんだんと閉じていき、身体も楽にしたかのように動きが止まった。

 いや、これは……。


「あらあら。眠ってしまったみたいですね」

「そ、それって大丈夫なんですか?」


 眠ったというか、気絶に近いような……?

 

 マールンさんは金髪美女の顔色を伺う。頬を優しく触ったりもしていた。


「この感じですと、疲労によるものだと思いますね。それにしても、随分とお疲れのようですね。目の下にクマがくっきりと……。それに脈も弱いですね」

「ほ、本当ですね……」


 金髪美女をよく見れば、確かにその綺麗な目の下には濃いクマがあり、顔色も優れない。


「これほどになるまで動いて……。このお嬢さんにはよほどの事情があるようですね」


『お願いします! なんでもしますからどうか!!』


 先ほども切羽詰まった様子だった。

 マールンさんの言う通り、彼女にはよほどの事情があるだろう。


「何はともあれ、一旦宿に戻りましょうか」

「そうですね」


 ここでは、たくさんの人の目があり落ち着けない。

 マールンさんから金髪美女を譲り受け、俺は彼女を背負うことに。


「……か、軽い」


 ヒョイっと簡単に背負えてしまったのだ。

 この子、ちゃんとご飯を食べてるのか?


 そんな違和感を抱きながらも歩き始めた。


 【収納】の能力は使わないのかって? 

 確かに人を一時的に収納することはできるし、その方が楽だが……。


「おお、金髪のお嬢ちゃん。あのエルフの美女が面倒見るみたいな」

「てか、あのエルフ美女おっぱいでけぇ!」

「隣の男誰だよ! くそっ、羨ましい!!」


 周囲で見ていた人が左右に分かれて、道ができている。そんな人たちから物凄い視線を受ける。


 大人数の場所で、こんな綺麗な金髪美女がいきなりいなくなったら、誘拐したと思われるでしょうが!!



◇◇

 

 ひとまず俺たちが泊まっていた宿のベッドに金髪美女を寝かせた。

 ただその表情は何かにうなされるように険しいものだった。


「事情を聞く前に彼女の身体回復が必要ですね」


 治癒魔法のスペシャリストであるマールンさんに任せれば安心だな。


「俺は何か手伝うかとはありますか?」

「ロクトさんはタオルとぬるま湯。それと何か手軽に食べられるものの用意をお願いします」

「了解です!」


 マールンさんが言ったものを【収納】から出す。

 タオルと桶に入ったぬるま湯。それと手軽に食べれるものとして、カットフルーツ。

 こういう緊急事態に備えてあらかじめ用意して【収納】に入れていたのだ。


「ふふ。ありがとうございます。さすがロクトさんです」


 マールンさんはにこっとした笑みで褒めてくれた。


「さて、私の方も治癒魔法の組み合わせが終わりましたので……早速発動したいと思います。疲労回復、状態回復、睡眠促進……この3つでいいでしょう」

 

 マールンさんは簡単に言っているが、とんでも単語が並んでいる。

 疲労回復? 状態回復? 睡眠促進? 

 どれも欲しすぎるだろ!!

 しかも、それらを組み合わせての詠唱は————


「≪ヒール≫」


 マールンさんは目を閉じて、掌をかざしながらたった一言。

 

 すると、金髪美女の全身が淡い光に包まれ……すぐさま効果が現れ始めた。


 目の下のクマはなくなっていき、顔色も良くなり、表情も穏やかになり、安定した寝息も聞こえてきた。


「はい。これで大丈夫でしょう」


 マールンさんが微笑んだのと同時に、金髪美女を包んでいた淡い光は消えた。


「終わりましたか?」

「はい。これで彼女が起きた時には元気いっぱいになっていますよ。睡眠促進の魔法もかけたので、しばらくは熟睡して起きないと思いますが」

「それは良かった。たくさん寝るのは大事ですからね! でもそれだと……」

「ええ。このお嬢さんの事情とやらを聞くのはもう少し先になりそうですね」


 すやすやと気持ち良さそうに眠る金髪美女を2人して眺める。


「シオンさんとホノカさんを呼びまか?」


 チラッと。マールンさんがこちらに視線を送る。 

 2人がいなくても、マールンさんと俺ならば、ある程度のことなら解決できるだろう。


 だが、油断は禁物というもの。

 それに……。


「シオンとホノカにも相談してみましょうか。俺たちのパーティーメンバーは頼りになりますから」

「うふふ。ロクトさんならそう言ってくれると思いました」


 俺の回答など見透かしていたように笑うマールンさん。


「それに」

「それに?」

「みんなで取り組んだ方が早く終わって、マールンさんと王都を探索できると思うので!」

「まあ。それは名案ですね」


 満面の笑みで手を合わせるマールンさん。


「じゃあ魔道具のデンワで2人を連絡を取りますね」

「はい、お願いします。それにこのお嬢さん……ただ者ではなさそうですしね」


 そう言って金髪美女を見るマールンさんの瞳は、何かを察するように真剣なものでもあった。

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