第23話 ほんわかエルフさんは、聞き上手

「今日はボクとホノカ。マールンとロクトで別れて王都探索といこうか」


 昨日と同じ噴水広場にて。

 シオンにそう言われて、俺たちは解散。


「今日はしーちゃんと一緒かぁ。よろしくねっ」

「ああ、よろしく。先に言っておくけど、ボクはロクトみたいに食べ物巡りばかり付き合わないからね。昨日見つけた温泉スポットにホノカにも付き合ってもらうから」

「温泉いいねー! 部屋の浴室はシャワーだけだったし、温泉で全身温まりたーい!」


 俺たちとは反対方向に進むホノカとシオンの会話は楽しそうなものであった。


 ホノカは……いつもと変わらない感じだな……。


「うふふ。2人とも今日も元気ですね。わたしたちも楽しみましょうか」

「そうですね」


 マールンさんの微笑みに、俺は笑みを浮かべて返す。

 

 そう。楽しい時間の始まりのはずなのだが……。


「……」


 つい無言になってしまう。


 俺は、一夜明けてもホノカの言葉が頭から離れないでいた。

 

 ホノカは俺がパーティーを組むきっかけをくれて、初めて仲良くなった冒険者でもある。

 明るくて、無邪気な子供みたいで、料理を作るといつも美味しそうに食べてくれる。かと思えば、俺のことをよく励ましてくれたりという面倒見の良さもある。


 そんな気を許せる友達のような存在だと思っていたホノカが……。


『ろっくんはハーレムを作りたいって言っていたけどさぁ……私をハーレムの一員に入れようとは思わないの?』


 彼女の口から、そんな言葉が出てくるなんて。


『だって私、女の子だよ』


 ホノカが女の子なのは知っている。

 いや……あの言葉は性別のことを言っていたわけでないな。

 

 私のこと、女として見ていないの?


 そうとも取れるような発言。

 ホノカのことを女として。

 異性として。

 好きな人として……。


 意識……。


 あの時は、保留にしてもいいという言葉に甘えて頷いた。

 果たして、それで良かったのか……。


「ロクトさん?」


 俺の異変に気づいたようで、マールンさんが心配したように顔を覗いた。

 

「ロクトさん……何か悩み事ですか?」

「あっ、いや、なんでも……」


 と、続けようとした自分の口を強引に閉じた。


 なんでも……なくはないよな。

 だってそう言い切ってしまったら。


『―――私にしてよ』


 あんなに真剣で。でも不安そうな瞳で俺を見ていたホノカが嘘だったみたいになるじゃないか。

 

 昨日のことを無かったことにするほど、俺の心境に変化がなかったわけじゃない。 

 あの時、全然意識しなかったわけじゃない。


 俺は少し息を吸い……言い直す。


「なんでも……あります」

「うふふ。なんでもありますか。それは、わたしにお話できることでしょうか?」


 マールンさんに話を聞いてもらえるなら心強い……けど。


「いえ……これは俺1人で考えることなので!」


 次はハッキリと言った。


 ホノカが俺を押し倒してまで伝えたことなのだ。

 他人に漏らしていいほど、軽いものではないと思う。

 だから俺も……1人でちゃんと考えないと。


 でもハーレムの一員って……それだと俺、ホノカに追放される可能性はなくなるのかな?


「そうですか……。しっかり考えていい答えを出せるといいですね。それこそ、ロクトさんは毎晩悶々として眠れなくなるぐらいに」

「ええっ!?」

「ちょっと揶揄ってみただけですよ、ふふっ。誰かの助言が欲しいと思った時には、ぜひわたしを頼ってくださいね」

「は、はい」


 マールンさんには結局、昨日のホノカのことは何も話せなかったけど……それでも、こうして話せるだけでも良かったと思った。

 マールンさんは聞き上手なんだよなぁ。


 と思えば、マールンさんが俺のことを真っ直ぐ見てきて……。


「ですが、この時間だけは。悩みは一旦頭の端に置いていただいて……わたしと今日を楽しんでもらえますか?」


 マールンさんのその言葉に、俺は大きく頷いたのだった。




 それから、マールンさんがリクエストした珍しい魔導書があるという図書館に向かっている途中。


「ん? なんかみんな……ソワソワしてます?」


 俺は違和感に気づいた。それはマールンさんも同じで、周囲を見渡し……。


「……そうですねぇ。何かあるのでしょうか」


 祭りや大きな何かがあるわけではなさそうなのに……道行く人たちは何やらソワソワと落ち着かない様子。

 もう少し進むと、そんな人たちが増えてきた。

 その視線が向かう先には……。


「お願いします! なんでもしますからどうか!!」


 女性の声。叫ぶに近い切羽詰まった声が聞こえてきた。


 端正な顔立ちをしており、透明感のある白い素肌。

 しっかり手入れされていると分かる、肩辺りまで伸びた金髪が輝いている。


 思わず視線が釘付けになってしまう美少女がそこにはいた。


 微笑めばもっと魅力的だろう。


 そんな彼女の表情は、焦りと不安に満ちているように見える。


「あらあら。あんなに綺麗な女性がなんでもするとは……いけませんね。そもそもなんでもするという発言自体が悪用されかねないですし〜」

「ですね……。俺も気をつけよう」


 奥義とかでも気軽に使ってはいけないな!


「ロクトさんのなんでも言うことを聞くは永遠に取り消しできないとして」

「えっ」


 なんか今凄いことを言われた気がするのだが!?


「あの方のお話……聞きましょうか」


 



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