sideホノカー2

 孤児院を卒業した後、私は外の世界をたくさん見た。

 少し街の外れにあった孤児院の敷地内の光景しか見たことがなかった私にとって、外の世界の建物や人や物で溢れている光景は新鮮で衝撃で感動的だった。


 それから、色んな人との出会いと気づきがあった。

 困っている人を助けたら、その人が鍛治職人だったらしく装備を貰ったり、魔物に襲われそうになった時に周りと比べ自分の身体能力が優れていることに気づいたり。

 私は人と話すことが割と好きな方だということにも気づいた。

 

 生計を立てるために、冒険者に無事になることもできた。

 冒険者ならば、パーティーを組んだ方がいいみたいな話もあったが、外の世界に慣れるために。外の世界を堪能するためにしばらくはソロで活動した。


 街ごとに変わる光景に魅了され、探究心が湧き、冒険者しての活動拠点を転々とした。

 

 イーカンアーカンという栄えた街に活動拠点を移していたそんなある日。


 夕飯にするにはまだ早い時間の酒場に、私は1人でいた。


「うーん。お金が足りないなぁ……」


 冒険者という職業は色々と出費が多いが……中でも私の場合は、食費が多かった。


 孤児院では、先生たちが作ってくれたご飯しか知らなかった。

 少し乾いたパンと干し肉という食事であったが、私たちは無償で育ててもらっている側。

 文句や不満などはなかった。それ以上の贅沢を望まなかった。


 でも、外の世界は凄かった。

 豊富な種類の料理。出来立てで熱々でお金を払えさえすれば、いつでも食べられる美味しい食べ物で溢れていた。


 食べるものに興味などなかったはずなのに、いつの間にか食べることが生きがいになるほど虜になっていた。


「これも外の世界の食べ物が美味しいせい……というのはさておき。本当にどうしようかなぁ……」


 うーん、と唸り悩む。


「美味しいものを食べたいなら冒険者の稼ぎを増やすしかない。でもソロでこなせる依頼には限界がある……。パーティーを組んでないとできない依頼とかたくさんあるからなぁ……」


 パーティーを組む。

 

 チラリと視線を向けると、その先には4人の冒険者が……なんだかギグシャクした様子でいた。


「俺が1番活躍しただろ! だから俺が報酬の取り分が1番多くても文句ないだろうが!」

「いやいや! 報酬はみんな平等でしょ! パーティーで戦ったのだから!」

「でもそれじゃ貢献度的には不平等じゃね? ほら、治癒魔法士とか今回は出番なかったんだし?」

「わ、わたしは戦闘メインではないので……。ですが、治癒魔法士が後ろにいるから皆さんが戦闘に集中できると思います……!」

「あ? それってわたしのおかげって言いたいのか?」

「ちょっとやめなさいよっ」


 お金関連で揉めているようだ。


 会話は次第にヒートアップしていき、ついには怒鳴り声が飛び交うように。

 さすがに酒場の店員の注意も入り、そのパーティーは不満そうな顔で酒場を出た。


 外の世界に出ていろんな人と関わるのが楽しい反面、人間関係が面倒くさいというのも分かってきた。

 冒険者業など特にだ。

 実力や報酬の優劣がつけられる。さらには、身分で差別されたり……。

 

 私が孤児院育ちという過去を打ち明けでもしたら、それだけでも蔑まれそうだ。

 まあ当分は話すつもりないけど。


「パーティーねぇ……」


 他人と関わる上で揉めてしまうことは仕方ないとしても……。

 純粋に冒険者活動が楽しくできるパーティーが存在したらいいのになぁー。


「「はぁ……」」


 と、ため息。

 しかしため息は1つではなかった。

 誰かとため息が重なったのだ。


 見れば、斜めの席に座っていた男の子。

 服の上に胸当てを装備している。その最低限の装備から駆け出し冒険者という感じであった。

 私も同じ駆け出し冒険者だけど。


「あ、すいません……。ため息デカかったですか……?」

「い、いえ! 私の方こそため息大きくて!」


 お互いにぺこぺこ謝る。

 でもよくよく考えれば、そんな謝ることでもないような……?


 それは男の子の方も思ったみたいで、お互いに顔を見合わせて……ふっ、と笑みが溢れた。


 それから、男の子の方が口を開く。


「えと、俺はアズマ・ロクトって言います。一応名乗っておきますね」

「じゃあ私も。私はホノカって言います」

「ホノカさんと俺、なんか同年代っぽいですね。俺は16歳ですよ」

「私も16だよっ! あっ、敬語……」

「良ければ敬語なしでいきません? 同い年なんですから」

「そうですね。じゃなくて……そうだねっ。じゃあ名前も呼び捨てで!」

「おう。じゃあホノカで」

「うんっ。私は……ろっくんかなっ」

「ろっくん?」

「そっちの方が親しみやすいからっ。いひひ〜」

 

 初対面のはずなのにろっくんは話しやすくて、すぐに打ち解けられた気がした。


「それで、ろっくんはなんでため息をついていたの?」


 だから今度は私から口を開く。

 すると、ろっくんは眉を下げて困った様子で……。


「俺、パーティーを組みたいんだけど……俺の持っている能力って【収納】だからさ。中々パーティーに入れてもらえないよなぁと思って。一応、料理とかもできるけどさ……」


 ろっくんもろっくんでパーティーを組むことに悩んでいるようだ。


 その次の言葉を、私はすぐに出した。

 

「じゃあ私とパーティーを組まない?」

「えっ、いいのか!」

「うんっ。お互いに合わなかったら解消してもいいお試しパーティーでもいいからさっ」


 迷っていたパーティーを組むことを、自分からあっさり決めたのだった。


 それから、私とろっくんはパーティーを組んで活動を始めた。

 私が戦闘担当でろっくんは荷物持ちと戦闘以外のサポート役である。


「さっきの動き凄いな! 魔物の攻撃を頭上でかわすやつ! ホノカは運動神経抜群だなぁ〜!」


 ろっくんは事あるごとに私を褒めてくれた。

 キラキラとした瞳で、無邪気な子供のようにはしゃいでいてくれた。


 でもそれは私もなのだろう。


「ろっくん凄いね! あんなに大量の荷物を一瞬で収納しちゃうなんて!」


 私もろっくんの【収納】の能力を便利で凄いなと思った。


 そして、ろっくんは料理がとても上手だった。

 ハンバーグに唐揚げにローストビーフのサンドイッチにアイスクリームに……見たことがない聞いたこともない料理。しかも全部美味しかった。


 わたしは食べ物にさらに夢中になった。

 それと同時に、そんな凄い料理を生み出すろっくんの調理姿にも夢中になった。


 これが胃袋を掴まれたってことなのかな?


「ねーねーろっくん! 今日のお昼ご飯はなぁーに!」

「待て待て! 今作っているからくっつくな!」


 お互い初対面。同じ駆け出し冒険者。

 分からないことだらけの中なのに、毎日が凄く楽しかった。


 いつしかお試しパーティーが正式なパーティーとなり。


 ろっくんのことをもっと深く知りたい。

 私のことも深く知って欲しい。

 なんて、感情も湧き出てきた。


 それからまーさんとしーちゃんと出会い、パーティーを組み———

 

「それは恋というものですよ。うふふ」

「間違いなく恋してるね」


 2人にそんなことを言われるほど、私はろっくん自身にも夢中になっていた。


『……ある日能力が覚醒して、そのチート能力で魔物を瞬殺! そして何故か行く先で魔物に襲われがちな美少女を助けて惚れられたい! モテたい! そんなハーレム無双がしたいんだ!』


 そして今、ろっくんにそんな願望があったなんて初めて知ったけど……ろっくんが望むならハーレムでもいいと思った。

 だって私は、ろっくんのことが好きだから。

 ハーレムでもなんでも、これからもろっくんの傍にいれるならそれだけで楽しいから———


 ……なのに。



 

「ホノカお前……はしゃぎすぎだぞ?」


 私に押し倒されているろっくん。それでもなお、口から出てきたのは……私のことをまるでとして意識していない発言。

 ろっくんのハーレムには、私は入ってない依然のような発言。


 寝巻は下は短パンで太腿がしっかり見えているし、胸がわざと見えるように第二ボタンまで外しているというのに……。


「……それでも意識してくれないんだ」

「え?」


 きょとんとした表情のろっくんに、ちょっとムッときて、馬乗りしている体勢で少し体重をかけてみる。


「お、重い……」

「重くないもん」


 愛以外は……なんてね。


「ぐふっ!? こらっ! 乗っかっている状態でぴょんぴょんすんな!」


『ホノカさん。それはLOVEではなく、LIKEの方で受け止められるかと……』

『ロクトならあり得るね。そもそも、ボクたちを意識する女性として見てない可能性があるし。ボクなんか、未だに女だと気づかれていないし……』


 まーさんとしーちゃんの言っていたことが、やっと腑に落ちた気がした。


 このままの流れで告白しても、襲っても、ろっくんには逆効果な気がする。


 恋って面倒だ。


 でも今は2人っきりなのだから……奥手になんてなってあげない。

 

「ろっくんはハーレムを作りたいって言っていたけどさぁ……私をハーレムの一員に入れようとは思わないの?」

「……え?」

「だって私、女の子だよ」

「お、おう? そりゃそうだけど……」


 少し動揺した様子のろっくん。

 だけど、私のことはまだパーティーの一員という見方なのだろう。


 だから、次の言葉。


 ―――私じゃダメかな?


 なんて、伺うような可愛げのあることは言ってあげない。

 

「―――私にしてよ」


 はっきりとした口調でそう言った。


「えっ」


 ろっくんは目を丸くして驚いている。


「お試しでパーティーを組んだあの時みたいに、今は保留でもいいから。でもこの先、私のことを少しでも女として見てくれるなら、私のことをハーレムの一員にするって頷いて」


 ろっくんは目を見開き、さらに驚いていた。

 

 ぎゅっ。

 いつの間か、シーツに添えていただけに手に力が入り、握るようになる。


 それだけ不安で、それだけろっくんのことが好きで———


「わ、分かった」

 

 コクン、と。ろっくんは戸惑いながらも頷いた。

 

 これでちょっとは関係が進展できたかな?


「今日のところはこれぐらいにしてあげるよっ」

 

 馬乗りになっている状態から起き上がり、ベットの端に座る。

 ろっくんも起き上がり……私の様子を伺うように見ている。 

 ろっくんのこと、少し置いてきぼりにしちゃったけど……それはろっくんがあまりにも鈍感すぎるから、おあいこでいいよね。

 

「ふふ。それじゃあろっくん! 打ち合わせの時間まで私と遊んでもらうからっ。ほらほら。収納からトランプってやつ出して遊ぼうよー」

「お、おう」


 ろっくんは戸惑いながらも、トランプを出した。


 

 駆け引きとか難しいことは私には向いてない気がする。

 だって私がろっくんを好きになったのは美味しい料理で胃袋を掴まれたし、一緒にいると楽しいからっていう単純な理由だから。


 私がろっくんと2人っきりの時は、こうして楽しい感じで独占することにしよう。


 それでいいと思う。

 だってハーレムだもん。


 ろっくんのことを自覚させて、分からせるのが上手いであろう2人に……後は任せよっ。



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