第22話 始まりの2人。男女の2人
「はー、食った食ったー」
満腹になったお腹をさすりながら、ベッドに寝転ぶ。
夕食は王都のとある飲食店で済ませたが、中々美味しかった。
「っと……このままだとまた眠ってしまいそうだなぁ。寝る前にはいつも打ち合わせもあるだろうし……風呂にでも入って目を覚ますかぁ」
コンコン。
ちょうど立ち上がった時にタイミング良く、ノックの音がした。
同室のシオンならば、わざわざそうする必要はない。
と、なれば2択。
その2択も簡単だな。
「はいはーい。と……やっぱりホノカだったか」
「私が来ることが分かっていたなんて中々の名探偵だね、ろっくんっ。じゃあお邪魔しま〜す」
キリッと決め顔をしたのも束の間。ホノカは、ドアと俺の隙間を器用にすり抜け。
「ぼふっ! んーー!」
ホノカもベッドダイブを決めていた。
今の彼女は、寝巻き姿である。
そのこともあり、余計に子供がお泊まりではしゃいでいるような光景に見える。
「俺とシオンがそこで寝るんだからな。あんまりベットをぐちゃぐちゃにするなよー」
「分かってるって〜。すりすり〜」
「あっ、こら! 身体をくねらせてめちゃくちゃにするな!」
「いひひー」
仰向けになったホノカが、子どものような無邪気な笑顔を見せてくる。
やれやれ、と思いつつ俺はベッドの端に腰を下ろした。
「ホノカが俺の部屋に用もなく遊びに来たのは分かったが、マールンさんとシオンはどうした?」
「なんか2人で話すことがあるんだってー」
「ふーん。まああの2人に任せておけば大丈夫か」
俺たちのパーティーの頭脳って感じの2人だ。明日の予定とか今後の計画とかについて話し合っているのだろう。
俺とホノカは頭を使うタイプではないので、そういうところは2人に任せている。
「まーさんとしーちゃんが来てから、依頼がスムーズにこなせるようになったもんねー」
「そうだなぁ。最初は俺とホノカの2人っきりだったもんな」
「このパーティーは私たち2人で始めたもんねえー」
ホノカと出会ったあの日からは、もう1年は経つのだろうか。
異世界転移したものの……当然、異世界という地は右も左も分からず。
【収納】という能力しか持たず、見切り発車で始めた旅がうまくいくわけもなく……。
今拠点としているイーカンアーカン街で俺はしばらく途方に暮れていた。
そこで、同じく駆け出しの冒険者だったホノカと出会い、お試しのパーティーを組んだことが始まりだった。
「あの時、ろっくんと出会った私はほんと運が良かったよ〜。まさに運命的な出会いってやつだね」
「大袈裟すぎないか?」
「大袈裟じゃないよー。本当だよ?」
むくっ、と起き上がったホノカが顔を近づけてくる。
「ろっくんは自分の評価が低すぎるんだよー。もっと自分に自信持って! ろっくんはすごいから!」
「お、おう。ありがとうな」
褒めてもらえるのは嬉しいが……。
だが、しかし。男として【収納】という地味な能力よりも、覚醒した能力というのに憧れがある!
だから追放されないと————
「でも、私とろっくんの関係がそのままなのはそろそろ嫌かな」
「え?」
聞き返そうとした瞬間、俺はホノカの手に引っ張られてベッドに勢いよく倒れた。
柔らかいベッドなので勢いがあっても衝撃は吸収されて痛みはない。
だが、状況は一変していた。
仰向けに倒れた俺の上に、ホノカが馬乗りになるような形で覆いかぶさってきて……。
「ホノ……カ……?」
困惑気味に彼女の名を呼ぶ。
これは事故ではない。
ラッキースケベ展開ではない。
ホノカ自らが生み出した状況。
だからこそ俺はホノカを退けて起き上がることはせず、されるがままの押し倒された状態になって次の言葉を待った。
「ハーレムもいいけど……2人っきりの時にはろっくんのこと、たっぷり独占するから」
俺をジッと見つめるホノカの瞳には、何故か熱が込められているような気がした。
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