第21話 部屋割りと悩める影

 集合時刻の16時になる頃には、みんな噴水広場に再度集合していた。

 

「これから宿泊場所に行くけど……先に言わないといけないことがあってさ」

「どうされました〜?」

「何かな?」


 マールンさんとシオンが俺に注目する。

 ホノカはというと、俺が今から言うことを察したように軽く頷いていた。


「宿なんだが……実はシングルベッドの部屋を2つしか取れなくてさ。悪いんだけど、1つの部屋と1つのベッドを共有してもらう形になるんだ」


 せっかく王都に来たのに、部屋が狭くなって申し訳ない。


 そんな感情が顔に出ていたのか……マールンさんとシオンを見ると、柔らかい笑みを浮かべていた。


「ロクトさんが悪く思うことはありませんよ〜。今日の王都はとても混んでましたし、宿を取ってくださっただけでもありがたいです」

「そうだね。泊まれる宿があるだけでありがたいね。むしろ、節約になっていいじゃないか。調整して最終日にはお小遣い増加とか出来るだろうし」


 2人は怒る様子などなく、そう返してくれた。


 優しすぎるだろ! ここは普通ならば罵倒するところなのに!!

 いや、これこそが普通なのか? 追放ものに頭を焼かれすぎて標準が分からなくなってきた。


「それに一緒の部屋に誰かいると話し相手になるし、2人で色々とできるからいいよね〜」


 ホノカも笑みを向けてくれた。


 やっぱり俺のパーティーメンバーって……全員いいやつしかいない!


 これが追放する系のパーティーだったら。


『はぁ? シングルの部屋2つしか取れなかった? 宿取りもまともにできないのかよっ!』

『アンタはもちろん野宿よね? 無能なんだからっ』

『あっ。宿代は全部お前持ちだからw よろしく〜』


 こういう発言になりかねないというのに……。


 俺のパーティーはなんてホワイトなんだ。まるで追放された後に入るような理想のパーティーで……。


 あれ? もしかして一生追放されないパーティーに入った可能性ある?

 ま、まさかなぁー。あははー。


「それで部屋割なんだが、俺とシオン。ホノカとマールンさんでいいか? 部屋はさすがに男女別にしないとヤバいだろうし」


 俺の提案に3人は一度、顔を見合わせてから。


「私はそれでいいよ〜! やっぱり男女で分かれないとねー」

「そうですね。男女で分かれた方が気が楽でしょうし〜」

「ああ……なるほどね。ロクトのご指名とあれば、ボクもその部屋割りでいいよ」


 こうして、部屋割りはすんなり決まったのだった。



◇◇


「はぁ〜〜! 疲れた〜〜!」


 チェックインしてから2階にある部屋に入るなり……俺はベッドにダイブした。

 シオンにはベッドダイブの許可は取ってある。


「ふふ。ホノカの食べ歩きに随分と振り回されたようだね」


 シオンはというとベットの端に座り、俺を微笑ましく見ていた。


「そうだなぁ。ホノカのやつ、ずっと食べていて凄かったぞー。まああの食べっぷりは隣で見ていて飽きなかったけど。てか、王都広すぎるだろ。人多すぎだろ。大人数の中を掻き分けて歩き回って疲れたけど……俺も楽しかったよ」


 仰向けになり、シオンに笑みを返す。


「ロクトもホノカも楽しんだようで良かったよ」

「おう。それでシオンたちの方はどうだったんだよ。何かあったか?」

  

 シオンのことだから、王都でも女の子からのナンパとか。あとイケメンだからと嫉妬して絡んでくる野蛮なやつとかいたに違いない。


 実際、みんなで歩いている時に周りを見たら、道行く人……特に女性はシオンに見惚れるように止まっていたり、チラチラ見ていたりしていた。


「ううん。何もなかったよ」


 シオンはいつも通りの爽やかな浮かべていた。

 大した問題は起きなかったみたいだ。

 

「そっかぁ。まあ何事もなく1日目が終われそうで良かっ……ふわぁ」


 言い終わる前に大きなあくびが出た。

 ベッドに寝転んだことで急に眠気が増してきたみたいだ。


「ふふ、眠そうだね。今日はみんなで外食する予定だし、その時間になったら起こそうか?」

「そうだな……そうしようかなぁ……」

「うん、そうした方がいいと思うよ。もう目が閉じそうだし。ふふっ」

「ん……じゃあそうする。おやすみー……」


 瞼が完全に閉じ、意識も遠のく。


 だから……シオンが最後に何か言っていたことは聞き取れなかった。





「おやすみロクト。夜はまた忙しくなるだろうから、今のうちにゆっくり休んでね。本当の好きとは、行動で示すものだからね」

 

 シオンは、眠ったロクトに毛布を掛け、


 ―――ちゅっ。

 と。ロクトのおでこに軽くキスを落とした。




◆◆

 

 ロクトたちが短い時間しかいなかった王都冒険者ギルド。

 夕方になっても、たくさんの冒険者で賑わっていた。


「勇者パーティー候補になっている奴ら、お前らどんぐらい調べた!」

「俺は2つ!」

「俺の次のターゲットは……あっ! あの眼帯つけたスキンヘッドだ!」


 その中には躾をされた結果、勇者パーティー候補を一生懸命調べている三馬鹿冒険者の姿もあった。


 その他にも———人物もチラホラ……。


「ああ……お母様の病が治せる冒険者様を早く見つけなければならないのに……」

「ふむ。我が騎士団に勧誘したい冒険者は……中々見つからないものだな」

「勇者パーティーには……やっぱり荷物持ちが必要。でもそんな都合のいい役職の冒険者なんているのかなぁ」


 いずれの人物も、悩める様子であった。



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