第19話 同年代コンビのデート?

 王都は広いのでとりあえず目についた宿に入り、部屋を取ろうとしたが……思いの外、満室のところが多かった。

 それから数軒回り、やっと部屋が空いている宿を見つけたものの……。


「すまないが兄ちゃん。今日は特にお客さんが多くてなぁー。空いてる部屋はあと2しかないんだよ。しかも両方とも、シングルベッドの部屋だ」

「2つですか……」


 俺たちは4人。シングルの部屋が2つ。

 どちらにしろ、1つのベッドに2人で寝ることになるのか。

 せっかくの王都だから、みんな部屋でもくつろぎたいと思うし……。


「んー、どうするか……」

「ここでいいんじゃない? また別のところを探すとなると、もう埋まっている可能性が高いし」


 隣にいるホノカが言う。

 宿探しにホノカも付き合ってもらっていたが、迷っている時にすぐに意見をもらえるのはありがたい。


「それもそうだな。まあ部屋はさすがに男女で分かれた方がいいよな。俺とシオン。ホノカとマールンさんで」

「……」

「ん? どうしたホノカ?」


 ジト目なホノカが何か言いたそうに俺を見ている。


「いや、なんでもないよー。……しーちゃん思ったより大変だなぁ。部屋くらいは譲ってあげよっ」

「?」


 後半はぶつぶつ呟いていたので聞き取れなかったが、


「じゃあシングルの部屋2つお願いします」


 無事、泊まる宿は取れたのだった。



◇◇


「ん〜〜! この肉マンっていうの美味しい〜! 中のお肉がジューシーでその肉汁をこのパンみたいなのが吸っていてもっと美味しい〜〜!」


 ホノカが頬に手を添えて、幸せそうな笑みを浮かべている。


 宿取りが終わった後は、ホノカの食べ物巡りに付き合っていた。まあこうなるのは、予想通りだったけど。

 

「うん。うまいな! この中の肉もいいのを使っている」


 日本で馴染みのあったフードも、王都となればいい素材を使っていて、ちょっとリッチな仕上がりになっている。

 値段は少し高いが、味はめちゃくちゃ美味い。


「王都の食べ物はやっぱり美味しいね〜。あっ、私はろっくんの手料理が1番好きだよっ」

「はいはい。ありがとうな」


 ホノカは本心でそう言ってくれているのだろう。それは、肉マンを食べた時よりも嬉しそうな顔をしていることから分かる。


「いひひ〜。あっ! ねーねーろっくん! 次はあれ食べよっ」


 ホノカが指差すのは、前方にある大量の串焼きが積み上げられた屋台。

 その豪快なビジュアルから目を惹き、さっきから香辛料をまぶして焼いた肉のいい香りがしていた。


「あのお肉の串焼き絶対美味しいよー!」


 確かにめちゃくちゃ美味そうで気になるが……足を早めようとしたホノカを俺は止める。


「待て待て。肉マンをちゃんと全部食べ切ってからだぞー」

「はぁーい。あーむっ。ん〜〜!」


 ホノカは再び肉マンにかぶりつき、頬をほころばせた。


 ホノカの食べっぷりは見ていて気持ちがいい。

 俺が普段料理を作る時も、ホノカの食べっぷりが良くて、ついつい作り過ぎてしまうこともある。

 

 たくさん食べさせてあげたいが……1日でお小遣いが尽きたという事態にならないよう、俺がしっかり見張ってないと。


「ほら、頬に付いているぞー。あっ、喉乾いたら言ってくれよな。水はいつでも出せるから。あとみんなへお土産で買っときたい食べ物とかもあれば【収納】で保存できるからなっ」

「ありがとう〜。ろっくん、なんだか私のお兄ちゃんみたいだねー」

「そうか?」

「うん。すごい面倒見のいいお兄ちゃんって感じ」

「じゃあホノカは食いしん坊で目が離せない妹だな」

「えへへ〜」


 にへー、とホノカは笑う。


 ……やっぱりこれ、デートというよりは兄妹でお出かけしている感じに近いな。

 でもデートにしろお出かけにしろ、楽しいからどっちでもいっか。

 ホノカもそこら辺は意識してないだろうし。


「にしても王都ってすごいねー」

「だなー」


 肉まん片手に街を見渡せば、依然人で賑わっており、今いる場所は食べ物を扱う屋台がズラッと並んでおり、活気に満ちている。

 商人も行き交う人も、みんな楽しそうな笑みを浮かべていた。


「それに割とな感じだな」


『王都ファニファールは見ての通り、裕福な国だ。金も地位も一攫千金も……なにもかもが存在すると言われている。しかしその裏では、人身売買や盗賊団が動いていたり、貴族の闇など……色々あるんだよ』


 ってシオンが言っていたから、ちょっと構えてしまったけど……。

 今のところは王都冒険者ギルドには強い冒険者がいるし、街はこうして賑わっていて、王都ファニファールはいい場所っていう印象だ。

 

「ろっくんそれ、何かの?」

「ええっ!?」


 俺、フラグ立てているの!? 嫌なんだが!!


「ふふ。冗談だよ、じょーだんっ。まあフラグが立ったとしてしてもすぐ折ったり、未然に防ぐから大丈夫っ」


 ホノカが言うと妙に説得力があるのだが。

 あっ、俺の追放したいフラグは折らないで欲しい!


「シオンとマールンさんも楽しんでいるかなー」

「そうだね。……どうやらあっちに行ったみたいだね」


 ホノカがチラッと一瞬、後ろを見た。


「ホノカ?」

「んーんー! なんでもないっ。あむっ。ふぁい! 肉マン全部食べた! 次の屋台へゴーゴー!」

「え、はやっ! 俺まだ一口しか食べてないんだがっ」

「ほら、いくよ〜!」


 ホノカに腕を引っ張られて、人混みを掻き分けて進む。


 今日は騒がしい1日になりそうだな。

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