第18話 2人1組。これはデートでしょうか?

「———集合場所はここにしようか」


 王都冒険者ギルドを出て、迷いなく進んでいくシオンの後をついて行き。


 たどり着いたのは、噴水広場。さすが王都とあり、噴水も豪華な作りで広場はデカい。

 ここだったら集合場所に最適だな。


 それで、今からは自由行動……。


『安心してよ、ロクト。君に大金を使わせることも、酷いことをするつもりもないさ』

『そうそうー。むしろ、ろっくんにとっても私たちにとっても良いことしかないと思うよー』

『わたしたちみんが幸せになりますよ〜』


 変なことはしないから安心して良いよ! みたいな雰囲気醸し出していたけど……。

 いや、逆に怖いわ!? 

 今からどんなことを聞けって言われるんだろっ。胃がキリキリするよ!!


「王都で使ってもいいお小遣いは、ロクトから受け取ってね。それじゃあロクトお願い」

「お、おう……。≪開放≫」


 シオンに言われ、収納の中から巾着袋を4つ出す。中身はもちろん硬貨である。


 うちのパーティーのルールとして、別の街で買い物などする時はお小遣い制にしている。

 理由は、お小遣いにしないと使いすぎてしまうから。

 

「まず、ホノカ。無駄遣いするなよー」

「わぁい〜! 無駄な遣い方はしないよー。ぜーんぶ私のお腹を満たしてくれるからねっ」


 うん、ホノカの王都でのお小遣いの使い道が全部食べ物だということが分かったな。


「はい。マールンさんも」

「ありがとうございます〜。全額魔法書にぶち込みますね〜」

  

 隠すことなく言った!! 

 まあ使い方はそれぞれだし、お小遣いだから限りがあるから大丈夫だろう。


 ちなみ無駄遣い常習犯は、ホノカとマールンさんだったりする。


「シオンもどうぞー」

「ありがとう。ボクは温泉や美容品関係に使おうかな」


 シオンなら計画的に使いそうだな。


「最後は俺と……。俺は色々見て回って、欲しいと思うものがあったら買うかぁ」


 王都ならば、ビビッと刺さるものが何か見つかるかもしれないしな。


「それぞれ自由行動していいよ……と言いたいところだけど」

「ん?」


 シオンが言葉を止めた。

 と思えば、周囲に視線を向けた。

 

「見ての通り、王都はすごく広い。街並みも似たような感じだ。だから、途中で迷子になってしまうかもしれない」

 

 ふむふむ。確かにな。


「だから———2人1組で行動するのはどうかな? その方が1人で迷子になるよりは、安心できるだろう?」

「私はいいよ〜」

「私も異論はありません〜」


 ホノカとマールンさんがすぐに返事した。

 

 まあ俺も賛成だけど。

 それにみんな何かしら買うって言っているし、俺の【収納】が役に立つならぜひ使ってほしい。


「俺もいいぞ。それで、組み合わせはどうする?」


 順当にいくんだったら、俺とシオン。ホノカとマールンさんの男女で分かれてのペアだけど。


「うーん、そうだねぇ……」


 シオンが俺たちを見る。

 そして何故か、後ろも一度見て少し考えたような顔をして。


「シオン?」

「……。うん、じゃあ今日のところは、ボクとマールン。ホノカとロクトで分かれるのはどうかな?」


 まさかの男女混合ペア。


「まあシオンが言うなら俺はいいぞ」


 ホノカとマールンさんも先程のようにすぐに賛成と言うのかと思えば……。


「しーちゃんはそれでいいの?」

「あら、意外ですね〜」


 2人とも、なんだか驚いている。

 なんでだ? ……あっ。

 

『ロクト……後から覚えておいてね? なんでも言うことを聞いてもらうんだからね?』


 さっきはなんでか怒っていたもんな!

 そりゃ1番に俺とペアを組んで、なんでも言うことを聞かせるよなっ。


 シオンを恐る恐る見ると……。


「うん、いいよ」


 シオンは穏やかな笑みであった。


「なら私は遠慮なく楽しませてもらうよっ」


 ホノカが俺の隣に来た。

 マールさんはシオンの元へ。


 これで今日過ごすペアに分かれたな。


「集合時間は、16時にしようか。あの大きな時計台はどこからでも見えるから、時間管理は大丈夫だね」


 シオンの視線を辿れば、周囲の建物よりも一際高い塔に備え付けられている巨大な時計があった。

 今は9時を差している。


「さてと、長々と話してごめんね。今からは自由時間だから、2人とも楽しんでね」

「ホノカさんロクトさん。楽しんでくださいね。あと感想も聞かせてくださいね〜」


 お互いに感想を言い合うってことか。


「2人も楽しんでなぁ〜!」


 シオンとマールンさんの後ろ姿が遠くなって……俺はホノカの方を向いて口を開く。


「さて、ホノカよ。ちょっと提案があるんだが」

「提案? あっ、なんでも言うこと聞くの取り消しは受け付けないよー?」


 ジト目なホノカに見つめられる。


「いや、それはちゃんとやるから……」


 自分で言い出したことだしな。


「なら良かった。それで提案ってなに? 私にできることー?」

「ホノカにできるというか、むしろ先に1人で食べ歩きしてきて良いぞって言いたくてな」

「え?」

「大丈夫だ。ちゃんと迎えには……」

「―――ろっくんは私と一緒は嫌なの?」


 不意にホノカの雰囲気が変わった気がした。


「私は、ろっくんの傍にいちゃダメなの? ……なんで」


 ぎゅっと。俺の服の端が控えめに握られる。

 やけに不安そうな瞳で見上げられる。 

 

 なんでそんなに………あっ。


「わ、悪い! 言葉が足らなかったな! 俺は今から泊まる宿を取ろうと思ってさ。でもそれに付き合わせるのも悪いだろう? だから先に食べ歩きしといてもらってもいいぞ、って思って……」


 若干早口になりつつも、言い切ってホノカの顔を伺う。


 あのシオンが迷子になる可能性があるからと、2人1組を提案したのに……理由をちゃんと説明せずにあんなことを言っては、不安になるよな!


「そ、そういうことかぁ。……良かった」


 ホノカもちゃんと理由を聞けて、ホッとしている様子。

 にしても、心配しすぎな気も……?


「私は全然悪いと思ってないよ。だから、ろっくんについていく」

「いいのか?」

「もちろんっ。それに今から16時までろっくんといれるんだから、それくらい気にしないよ〜」

 

 それもそうか。俺も心配しすぎだったみたいだ。


「じゃあ私たちも行こうかっ」

 

 ホノカがテンション高めになってきて、その足取りも軽い。


「こらこら。あまり先に行くなよ。一緒にいないと迷子になっちまうぞー」


 てか、男女2人1組……これはもしやデートというやつか?


「うん。一緒にいるよっ。いっぱい食べ歩きしようね〜」


 ホノカがいつものように天真爛漫な笑みを浮かべている。


 いやいや。そんな訳ないか。  

 俺はまだ荷物持ちだし、能力も覚醒してないからな。



◆◆


「ロクトさんと1番にをするのは、てっきりシオンさんかと思っていました〜」


 マールンが微笑みながら隣にいるシオンに話しかける。


「ボクだって1番が良かったさ。2人も、少しは悪ふざけがすぎたと反省してくれて、ボクに1番を譲ろうとしてくれていただろうし?」

「うふふ〜。そうですねぇ〜」


 マールンが笑うだけでもその巨乳は揺れる。


「まあボクがこの組み合わせにした理由は、もうすぐ分かると思うけどねぇ」

 

 シオンは後ろに視線を向ける。


「……ロクトはいないし、覚悟してね」







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