第17話 王都冒険者ギルドで両手に胸
活気に溢れている中央通り抜けた先に……やたらとデカい建造物が現れた。
「ここが王都冒険者ギルドだね」
ほぇーと建物を見上げる俺たちに、シオンが笑みを向ける。
俺たちが拠点している街の冒険者ギルドの数倍はデカい。大勢の冒険者が出入りしていた。
中に入れば、さらに冒険者たちで賑わっていた。
こちらにも酒場が併設しており、テーブルで談笑している冒険者たちは皆、立派な鎧や武器を装備している。
いい装備を揃えられるということは、しっかり依頼をこなし続けてきた証拠。強い証拠だ。
この冒険者の中から、勇者パーティー候補が輩出されるのも納得できる。
ただギルドマスターが言うには……。
『王都冒険者ギルド出身の勇者パーティーは妙にプライドが高く、自らの実力に過信気味でなぁ……』
プライドが高く、自信過剰気味な冒険者が多いらしい。
けど、王都冒険者ギルドにいる冒険者が全員そうであるってわけじゃないと思うし。
『クソッ。お前みたいな荷物持ちごときが美女たちをはべらせやがって……』
オートミールみたいに嫉妬してすぐに絡んでくる奴なんていないよなー。
依頼が張り出されている掲示板にも多くの冒険者が集まっていた。
俺たちも後ろから眺める。
「はへぇー。依頼の数も桁違いだなぁー」
「冒険者の数が多いからこそ、大量の依頼を引き受けても捌けるというですね」
「私たちも記念に1個ぐらい依頼を受けてみる?」
「みんなが受けたいならボクはいいよ。でも、ボクたちが拠点としていたイーカンアーカン街とは、依頼内容が随分と違うみたいだね」
シオンのその言葉を受け、依頼の内容をよく見る。
てか、俺たちの拠点としている街ってそんな面白い名前だったんだな。次からどんどん使っていこう。
俺たちの拠点としていたイーカンアーカン街の冒険者ギルド依頼はほとんどが魔物討伐が占めていた。
一方、王都冒険者ギルドに貼られている依頼を見ていくと……盗賊団の壊滅や警備、護衛関係などなど、王都ならではの依頼が多いように感じる。
「どうする? もう少し偵察していく?」
「私はもう十分かなっ」
「今日はこれくらいでいいのではないですか?」
「滞在日はなにも今日だけじゃないしな。ちゃんとした視察はまた別の日でもいいんじゃないか!」
「ふふ。みんな早く自由行動がしたいみたいだね。じゃあ今日の視察はこれで終わろうか」
視察という視察はほぼしてないが、それでもみんなの意見を優先してくれるリーダー優しい!
そうなれば、俺たちは王都冒険者ギルドの出口を目指そうと……。
「ねぇねぇ! あの人めっちゃかっこよくないっ」
「あのエルフ美女……おっぱいでけぇー……」
「ポニーテールの子は笑顔が可愛いなぁ〜〜」
酒場側にいる冒険者たちのそんな声が聞こえてきた。
いや、王都冒険者ギルドに入った時から妙に周りがざわざわ騒がしくなり始めたと思っていた。
そうだよ。
俺以外全員、イケメンと美女だったわ。
改めて俺のパーティーメンバーについて紹介しよう。
髪をポニーテールに纏めており、にこにこ笑顔が素敵な、ホノカ。
エルフ族であり、その艶やかな金色の髪から時より見える細長い耳と巨乳からは目が離せない。離してくれない、マールン。
紺色ショートカットで、美少年と美女を程よく融合させたような中性的なイケメン。さらには対応も発言も全てがイケメンな、シオン。
字面だけでもう強い。
そして。
黒髪黒目のロクト。
……うん。
俺だけ字面が弱い。
この場違い感すごい。
「……なあ、シオン。ちょっと2人と腕を組んでみてくれないか?」
「え?」
「えいっ」
「うふふ〜」
シオンが疑問を浮かべている間に、ホノカとマールンさんがすぐさまシオンの腕に自らの腕を絡めくっついた。
「おお……」
パチパチパチ……と思わず小さく拍手。
イケメンの両隣に美女2人……絵になるわー。
「どうだ、シオン。両手に花……いや、美女の感想は?」
「あー……うん、そうだね。うん……凄いね」
シオンの笑みは引き攣り気味だった。
「あっ、すまん。嫌だったか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど……。胸が」
「胸が?」
もしかして胸が痛いのか!? どっか悪いのか!?
「もっとくっつこうかっ。しーちゃん〜」
「ええ。もっとくっつきましょうか、シオンさん」
ホノカとマールンさんがしがみつくようにぎゅ〜〜っと密着する。
「うりうり〜♪」
「うふふ〜♪」
2人とも、満面の笑みというかニヤニヤしている。
なんかイチャイチャし始めたぞ。
でも意外と安心して見ていられるというか……この間に挟まってはいけないというアラートまで鳴っている気がする。なんでだろう?
「うわっ、集まるとほんとイケメンと美女だなぁ……」
「でも、あの黒髪のやつだけなんか冴えなくね?」
「あれだよっ。荷物持ちってやつだよ」
「荷物持ちであの3人と一緒のパーティーとは羨ましい奴だなぁー」
俺にも視線が集まっている気がした。
どうせ、地味とか荷物持ちとか言われているんだろうなー。
「うふふ、それなら……」
「マールンさんどうしました?」
マールンさんが俺の方をじーっと見ているのに気づいた。
と思えば、シオンから離れて俺の方へスタスタと歩いてきて。
「こうすれば、私たちはただならぬ関係ですね。ふふっ」
マールンさんが顔を寄せて、そう囁いてきた。瞬間、俺の腕がグッと引っ張られて、その巨乳に埋まった。
柔らかくも弾力のある感触がダイレクトに伝わり……俺におっぱいという幸せを伝えてくる。
「ちょっとマールン? さすがに周りの目があるから————」
「あっ! まーさんズルいっ。私もー!」
ホノカもシオンから離れて……反対側に抱きついてきた。
胸も押し付けられた。
ホノカの胸は小ぶり……というか、十分大きいよな。
マールンさんのせいでおっぱいの感覚がバグってしまった。
いや、今のこの状況に頭がバグっているんだ。
「いひひー。これは両手に花ってやつだよね〜」
「両手に胸でもありますね〜」
なんで荷物持ちの俺が両手に胸になっているんだ!?
「アイツがはべらせている側かよ!」
「ちくしょう! 羨ましいやつだなぁ!」
主に男たちの視線がさらに増えた気がする。殺気も向けられている気がするんだけど!?
あと俺ははべらせてないから!!
「……ロクト」
シオンを見れば、笑みを浮かべているはずなのに……明らかに不機嫌なオーラを感じる。
さっきまでの優しいリーダーはどこへ……?
「ロクト……後から覚えておいてね? なんでも言うことを聞いてもらうんだからね?」
「ひっ」
そうだったよ! なんでも言うことを聞くがあるんだったよ!
怖くて思い出さないようにしていたけどさ!!
「てか、先に言っておくけどなんでもは無理だぞ! 情けなくてごめんだけど! 俺、大金持ってないし、痛いのは嫌だし、できることと言ったら料理か家事ぐらいなんだけど!?」
俺が奥義として使ったし、男に二言はないと言っても……できないこともある!!
「安心してよ、ロクト。君に大金を使わせることも、酷いことをするつもりもないさ」
「そうそうー。むしろ、ろっくんにとっても私たちにとっても良いことしかないと思うよー」
「わたしたちみんが幸せになりますよ〜」
「なるほど。それなら……えっ」
なんかますます怖いんだけど!?
「ほーん。見たことねえやつらが目立ってんなー」
「それに随分いい女を連れてんじゃねーか。けっ、良いご身分なことで」
「新入りにはきっちり王都の躾ってやつをしてやらないとなぁ……くっくっくっ」
一方、酒場の一角で。
やけにニヤつき、喉を鳴らして笑う数人の冒険者がロクトたちに狙いを定めていた。
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