王都編

sideホノカー1

 私たちのパーティーには、荷物持ちの男の子がいる。 


 彼の名前は、アズマ・ロクト。

 年齢は私と同じで17歳。私は親しみを込めて『ろっくん』と呼んでいる。

 

 ろっくんはこの世界では珍しい黒髪に黒目。中肉中背……でも最近はちょっと筋肉がつき始めた気がする。

 私と特訓したことがあるもんね。


 荷物持ちと言っても、することは荷物運びだけではない。

 家事、料理もろっくんの役割である。


 だから、ろっくんの朝はみんなよりも早い。


「今日は味噌汁と焼き魚と……野菜も食べてもらわないとな。バランス大事だし。ご飯はちょっと豪華に炊き込みご飯にしてやるか。たくさん作っても、ホノカが喜んで食べてくれるだろうし。だろ、ホノカー?」


 ろっくんが今朝も私たちのために料理を作ってくれている。


 スムーズな包丁捌きはずっと見ていられる。

 「ジュワー」と焼いたり「ぐつぐつ」と煮込んだりする美味しそうな音は、耳に心地よい。

 出来上がってきた料理は匂いからもう絶対美味しいと確信できる。


 そしてなにより、ろっくんは楽しそうに料理をしている。

 見ているこっちまで楽しくなる。


 なぜ傍で見ている風のことが言えるのかだって?

 だって私も早起きして、ろっくんが料理を作っている姿を見ているから。


 私は、ろっくんが料理をしている姿を見るのが好きだ。


 見ていると、温かさと安心感がある。 

 これがきっと、家庭的という感じなのだろう。


 ……私にはその感じが新鮮だった。



 私は生まれてすぐに親に捨てられ、孤児院で育てられた。

 奴隷として売られるよりは遥かにマシだ。それもあるし、何より両親の顔なんて覚えてないので親を憎んでいるという感情はあまり無かった。


  しかし、唯一の居場所であった孤児院にはいつまでもいられるわけではなかった。

 私のように生まれてすぐに捨てられてしまった子や親が蒸発した、夜逃げしたなどの理由で途切れることなく子供はどんどん来て、孤児院はいつも満杯状態。


 この国では15歳になれば成人扱いされ、どこへ行っても働くことができる。

 そして、その年齢になると孤児院の先生たちからそろそろ出ていってほしいという冷たい視線を向けられ始める。

 寂しいことではあるが、仕方ないこと。

 

 私は15歳を迎えた時。孤児院を卒業して1人で生計を立てていくため……冒険者となった。 


 それから1年後。今のパーティーメンバーと出会った。


 みんなといるのは楽しい。

 孤児院のみんなといる時も楽しかったけど、それよりももっと楽しい。

 自分が思っている以上に、新たな居場所と苦楽を共にする仲間ができたことが嬉しいのだろう。


 1個歳下なのに立ち振る舞いや話し方がしっかりしていて、でも胸のことになると年頃なのか気にしている、リーダーのしーちゃん。

 

 エルフ族でおっぱいが大きく、包容力があって時にはお母さん。時にはお姉さんで親しみやすい、まーさん。


 荷物持ちと料理や家事をしてくれて、気軽に話せて楽しい、ろっくん。

 

 この3人とパーティーを組んで冒険し始めて半年経ったが、飽きる気がしない。

 もちろん、大変なこともあったけど全体を通して振り返っても、楽しいという感想が真っ先に出てくる。


 まあ恋愛とか諸々のことになるとちょっと面倒臭いことになるけど。


 これからもずっと、このメンバーで冒険し続けたい。

 

 そんなある日の朝だった。

 今日は普段よりも遅く起きた。

 この時間なら、ろっくんはもう料理の盛り付けに入っている頃だろう。


「俺はパーティーを追放されて、能力が覚醒して、隣の国に移動してハーレム無双するぞぉぉ! おおおおおおお!!」


 ドアを開けようとした時。そんな声が聞こえた。

 最初は、私が寝ぼけているだけなのかと思っていた。


 でも……。


「……ある日能力が覚醒して、そのチート能力で魔物を瞬殺! そして何故か行く先で魔物に襲われがちな美少女を助けて惚れられたい! モテたい! そんなハーレム無双がしたいんだ!」


 ああ、なんだ。私が寝ぼけていたわけじゃなかったのか。


 ろっくんにもそういう願望があるらしい。

 男の子だもんね。

 前半の内容は一旦置いといて……。


「ろっくんはを作りたいの?」


 一番気になるのはそこ。

 だって私は、ろっくんのことが好きだもん。

 好きな人は誰だって独り占めしたいと思うのが普通でしょ?


「いや、そのっ、ハーレムというのは男の憧れで……」

「男の憧れとかはどうでもいいんだぁ。ろっくん自身は、ハーレムがいいのって聞いてるの」

 

 思わず、強く聞いてしまった。


「そ、そりゃあ……ハーレムの方がいいです!」

「……そっかぁ。ハーレムって具体的に何人?」

「え、えと……3人以上……とか?」

「3人以上……。そっかぁ……」


 私、まーさん、しーちゃんで3人。

 うん、満たせているね。


「私的には独り占めしたかったけど……まあろっくんが望むならいっか」


 ろっくんが言うことが最優先。

 それにこのメンバーなら、きっと楽しいだろうし。


「ハーレムだったらもうすぐできるんじゃないかな」 


 私の言葉にろっくんは目を輝かせた。

 そんなにハーレムがいいのかぁ。まあ男の子だもんね。


「……ハーレムかぁ。ハーレムはもうすぐしたらんじゃないかなぁ〜」


 ろっくんの後ろを歩いている時にもう一度、呟く。


 ……そう。しーちゃんが実は女の子だったと気づいて。

 現状が女の子だらけのパーティーの中で1人だけ男ということを自覚してもらって。

 それからメンバー全員が、ろっくんのことが好きだと知ってもらって……。

 

 それでみんなで結婚すれば、ろっくんの望むハーレムの完成だね。

 



「おっ。おはようホノカ。今日からいよいよ王都に遠征だなっ」


 今朝も早起きして1番にろっくんのふにゃっとした笑顔を目に焼き付けることができた。


「おはよう、ろっくん。今日もよろしくね〜」


 ハーレムもいいけど……。

 2人っきりの時にはろっくんのこと、たっぷり独占させてね?




◇◇


「ロクトはうちの馬車に乗るんだよ!」

「いいや! ロクトはオレの馬車に決まっているだろうが!」

「くっそ、諦めが悪いやつめ……。このままじゃ埒が開かないないぜ……」

「お前の方こそだろうが……。ったく……」

「……ならここは、ロクト本人に俺たちのどっちがいいか選んでもらおうぜ」

「望むところだっ!」

「「どっちがいいんだ!!」」


「いや、おっさんたちに取り合いされても嬉しくないので争うのやめてくれません?」


 朝っぱらから俺は何を見せられているのだろうか……。


 馬車で王都に向かおうと、乗り場に行けば……目の前でいきなり御者のおっちゃんたちによる俺の取り合いが始まった。


 まあおっちゃんたちは俺ではなく……俺の【収納】の能力が目当てだけどな。

 

 王都には特に運ぶ物資が多いらしく、普通は往復しなければいけないところを、俺を連れて行けば大量の物資を一回で運ぶことができるからな。


 俺って便利だなぁー。


「ろっくん、また取り合いされてるの〜?」


 ホノカが俺の隣からひょこっと顔を出す。


「ああ、全く嬉しくないけどな」

「人気者も大変だね〜。でも私たちにも出発時刻っていうのがあるから……2人とも、早くジャンケンして決めてほしいなぁ?」

「「ジャンケン……ぽん!!!!」」


 おお、その手があったか。

 ジャンケンにより、一瞬で決まった。


「かぁぁぁぁー! クソがっ!!」

「じゃあロクト! 馬車の用意して待ってるぜー! 荷物はいつもの保管庫にあるからよろしくな〜!」


 ジャンケンで負けたスキンヘッドのおっちゃんは悔しそうに膝をつき、逆に髭を生やしたおっちゃんはウキウキで馬車に向かった。


「はーい……。あれが美少女なら嬉しいんだけどなぁ……。てか、あれ? シオンとマールンさんは?」


 2人が見当たらない。

 

「2人はもうちょっとしたら戻ってくるよー」

「そうか」


 まあ事前にしとくことがあるのだろう。


「あっ、今日の馬車もろっくんの隣は私だからねっ」

「おう、そうか。ホノカが隣なら話が尽きないな」

「いひひ〜。今日は寝かせてあげないよー」


 俺の言葉に嬉しそうに笑うホノカ。


 今日はいつもよりなんだかご機嫌な感じだ。

 そんなに王都に行くのが楽しみなのかな?




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