第15話 実は……愛が重い女たち
それから王都への遠征資金を貯めるために、俺たちは魔物討伐をこなした。
ジャイアントオーク、ワイバーンの群れ。時にはダンジョン……。
討伐難易度高めの魔物たちを次々と倒していくメンバーたちは見ていて圧巻だった。
俺? 俺は相変わらず後ろで守られていた。
だって荷物持ちだし! 【収納】の能力しか持ってないし!
みんな守ってくれてありがとう!!
そして今日も……。
「今だよホノカ!」
「これで……トドメッ!」
シオンが魔法でオオグマの脚を凍らせながら目元を狙って火の玉を放っている間に、ホノカが斬撃を飛ばす。
オオグマは反撃する隙も与えてもらえず、斬撃を浴びせられ続け……轟音とともに、その巨体を地面に倒れ伏した。
今日もまた、魔物討伐に成功したのであった。
「みんなお疲れ様! 水がいいか? スポーツドリンクがいい? それとも……」
【収納】を発動させ、スタンバイ。
どんな要望でもこいっ。
「私っ、アイスー!」
「ホノカさんはあれだけ動いたのに元気ですね〜。わたしは冷えたお水でお願いします」
「ふぅ。ボクも水かな。あっ、氷も入れてくれたら嬉しいよ」
「アイスと冷えた水と氷入りの水ね〜」
【収納】の能力は、収納した時の状態で保存されているので、アイスや氷は溶けずに冷たいまま出てくる。
さらに、事前にコップに入れとけば、コップに入った状態で好きな温度の飲み物が出てくるのだ。
ランチョンマットも敷いておき、休憩スペースも確保!
「あー、アイス美味しい〜〜!」
「んっ。はぁ……お水が美味しいですね〜」
「冷たいまま……しかもすぐに飲めるのはありがたいね」
ほっと一息ついているみんなを見て、俺もいい仕事をしたなぁと小さく思っておく。
追放されたがっているのに【収納】の能力は存分に使って貢献するなんて意外だって?
そりゃ存分に使うだろ。
今ある能力を最大限に活かさなければ、俺は本当に何もできない無能になってしまうからな。
それに、いくら俺が追放されたい欲まみれだとしても、他人に嫌な思いや傷つけていいわけではない。
てか、追放ファンタジーって大体、真面目に仕事しているのにも関わらず、それでもなお「何もしてない!」「無能!」とか批判されて追放されてしまう。
俺もてっきりそうなると思っていたが……思いの他、メンバーが荷物持ちは荷物持ちとして割り切って評価してくれているため、追放されそうな雰囲気が一向になかった。
俺の追放されたい願望がメンバー全員にもしかして知られている? ってくらい追放してこない。
しかしそれも……今だけかもしれないな。
『お前たちに————勇者パーティー候補の話がきている』
もしシオンたちが勇者パーティー候補の話を受ければ、俺は間違いなく足手纏いになる。
『魔王討伐はボクたちでも厳しい旅になる。ロクト……荷物持ちの君を守りながらの戦いだとパーティーが全滅しかねない。悪いが……君をここで追放する!』
代表してリーダーのシオンに、そう言われてもおかしくない。
チラッと控えめにみんなの方を見る。
「アイス食べたら今度はしょっぱいものが食べたくなっちゃったよ〜」
「私は程よい甘さのものが食べたくなってきましたね」
「ボクは辛いのものが食べたいな。みんな気分がバラバラだね。今日は珍しく外食でもするかい?」
「んー、外食はいいかなっ。ろっくんのご飯が美味しいしー」
「そうですね。ここは頑張ったわたしたちのワガママをロクトさんに聞いてもらいましょうか」
「ふふ。ロクトはいつもモテモテだね」
このわちゃわちゃした楽しい雰囲気が見れなくなるのは寂しくなるけど……俺は俺で追放された後は、能力を覚醒させてハーレム無双旅を楽しませてもらう。
その頃には、3人は勇者パーティーとして手の届かないほど存在になっているのだろう。
今みたいにいつでもどこでも気軽に声を掛けるのですら、難しいだろう。
むしろ、俺のことなんて忘れて———
「ろっくん」
「ロクトさん」
「ロクト」
気づけば、みんなが俺を見ていた。
「おう、ちゃんとみんなの好きなもの作ってやるから任せとけ!」
追放されるその日まで。俺は荷物持ちとして精一杯やれることをしよう!
◇◇
そしてその夜。
いつものように、寝る前に打ち合わせをしていた。
「じゃあ来週からは王都に行くということでいいかな?」
「はーい! 行く行く〜!」
「異論はありません」
「みんなが行くなら俺も行くぞ。荷物持ちなら任せろ!」
意見もこうして纏まったので今日の打ち合わせはこれで終わりだろう。
「さて、打ち合わせはこれで終わりにしたいと思うが……。ホノカとマールンはちょっと残っていてほしい」
「俺は?」
「ロクトは寝ていいよ」
「分かった。おやすみー!」
俺は理解のある荷物持ちなのだ。
さっさと部屋を出ていく。
俺が寝た後には、みんなが大事な話を始めるのだろう。
「それにしても王都かぁ……。王都っていえば、何かとイベントが起こりがちなテンプレの場所……。なにか、起こる……すゃぁ……」
今日も俺はすぐに眠りに落ちたのだった。
◆◆
「さて……」
ロクトがいなくなってしばらくして。
シオンは一息つき……ホノカとマールンを交互に見る。
その瞳は妙に真剣だ。
「勇者パーティー候補の他に……ボクたちには考えなければいけないことがあると思うんだ」
「だねぇ……」
「ですね……」
3人は互いの顔を見合い、頷き……。
「(ろっくん)(ロクトさん)(ロクト)に全く好意が伝わっていない」
3人とも自覚はあったようだ。
「ロクトのメンタルケアを優先し過ぎて、すっかりアプローチをするのを忘れていたね。あのギルドマスターに指摘されるくらいだから、よほど仲が進展してないみたいだよ」
「そもそも、ろっくんのことを荷物持ちってだけで馬鹿にするやつが多いんだよ〜。……ほんと、何度刻んでやろうと思ったことか……」
「まあまあお2人とも〜。そのメンタルケアがあってこそ、ロクトさんはこうしてパーティーに残ってくれていることですし、効果はありましたよ〜」
マールンの微笑みとその言葉に、2人は納得したように頷く。
なお、追放されたがっている当の本人とはすれ違いが起こっている。
「でもアプローチって具体的に何するの? ろっくんに好きー! って告白したらダメなの?」
「ホノカさん。それはLOVEではなく、LIKEの方で受け止められるかと……」
「ロクトならあり得るね。そもそも、ボクたちを意識する女性として見てない可能性があるし。ボクなんか、未だに女だと気づかれていないし……」
シオンがため息。
しかしシオンは自分から明かそうとはせず、ロクト自らに気づいて欲しいと考えているので、まだまだため息は続きそうだ。
「アプローチ方法は各々で考えるとして……。ちょっと視点を変えてみようか。みんなは最終的に———ロクトにどうなってほしいの?」
シオンはまず、ホノカに視線を向けた。
「私がろっくんを馬鹿にするやつ全員処分するからぁ……ろっくんは何も気にすることなく、私のために料理や家事とかぜーんぶ尽くして欲しいなっ。もちろん、私もろっくんに尽くすよ〜。この身全て捧げてね」
「前半は物騒だけど、後半はホノカらしくていいね」
「えへへ〜。ありがとうー」
ホノカは満面の笑みであった。
シオンは次にマールンに視線を移す。
「ロクトさんは年齢の割には性欲がない感じが……。あっ、いえ。おっぱいだけには分かりやすく反応してくださいますね。そんなロクトさんを……人生経験豊富なわたしによって、もっと頭の中を真っピンク色にしたいですね〜。あと、結婚したいです」
少し赤くなった頬に手を当てるだけで、マールンの巨乳は揺れ出した。
「……マールン。とりあえず胸を揺らすのはやめよっか? 前半はともかく、最後の結婚はみんなのゴール地点だよね」
「じゃあ最後! しーちゃんはどうなの?」
ホノカとマールンがシオンに注目する。
「そうだね。まずロクトにボクが女だと知ってもらって……」
「シオンさんの場合、そこから始まりますもんねぇ。大変な道のりになりそうですね〜」
「……それから、貧乳派に堕とすよ。ふふふ」
シオンが黒い笑みを浮かべる。
「一番気合入ってるじゃん」
「わたしたちまで敵認定されそうですね」
「胸の恨みは怖いね〜」
「胸の恨みは怖いですね〜」
ホノカとマールンが手を握り合いながら、わざとらしくそんなことを言う。
「まあいずれにしろ……ボクたちに堕ちてもらうまでは、絶対離すつもりはないけどね」
「ふふーん」
「うふふ……」
「さぁ、来週からの王都視察が楽しみだね。もちろんロクトの……『なんでも言うこと聞く』は存分に使わせてもらわないとね」
シオン、マールン、ホノカの表情がそれぞれ変わる。
それは……内に秘めている愛の重さが表れているような、そんな妖艶な表情。
追放されたい欲にまみれたロクト。
実は、愛が重いパーティーメンバー。
お互いにお互いの本性を知った時、果たして冒険や魔王討伐どころなのか……?
第一章終わり
—————————————
第二章は王都編になります。
戦闘シーン強化やそれぞれのキャラについても掘り下げていくのでよろしくお願いします<(_ _)>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます