第13話 魔王を倒せば英雄だが、それ以外は違うよな?

 ギルドマスターに話すまで逃さないとばかりの強い視線を向けられている3人。


「……」

「……」

「……」


 誰も話すことなく数十秒が経った頃。

 3人がお互いの顔を見合わせたと思えば……身体を寄せ、小声で話し始めた。

 

「え、誰から言う?」

「わたしは何番目でもいいですよ〜」

「でもみんな同じ意見だし、ボクが纏めて言おうか?」

「「どうぞどうぞ」」

「ふふ」


 意見が纏まった3人は背を正して、ギルドマスターの方を向く。


「代表して、リーダーのボクが言わせてもらいます」

「大体お前が言っているだろうが、シオン。……はぁ、じゃあどうぞ」


 茶番劇にもなんだかんだ付き合ってくれたギルドマスターだが、再び真剣な目に切り替わり、シオンを見据える。


 一方、シオンはというといつも通りの爽やかな笑みで語り出した。


「ボクたちは魔物を討伐して恩人になる分にはいいけど、英雄になりたいわけではないからです」

「なんだその、面接で言う時みたいなやけに真面目でカッコつけた文章は。それが一番の本音か……?」


 ギルドマスターが目を細める。


「ふふ。それに、魔王なんかよりも攻略したい人がいるので」

「……それは、ロクトのことか?」

「分かっているじゃないですか、ギルドマスター。ボクたちが勇者パーティーになることを断る理由が」


 シオンがにっこり笑うも、ギルドマスターは険しい顔をしていた。

 というより、どこか呆れている様子。


「お前ら……まだ仲良しごっこのままなのか。少しは発達していないのか?」

「ギルドマスター。そこは進展って言いません? 別に発達が胸を連想させるからと言うわけではなく」

「ギルマスー。その話はタブーだよ。しーちゃんはまだ、ろっくんに男だと思われている段階なんだから〜」

「かというわたしたちの好意も、ロクトさんには全く伝わっていませんけどね」

「だねぇ〜。ろっくんはなーぜか、自己評価が低いからねぇ〜」


 うんうん、と頷く3人。

 それを見てギルドマスターは浅くため息をついた。


「お前たちの恋路には口出しするつもりはないが……お前たちの実力には口出しはする。一応言っておくぞ。お前たちのパーティーはバランスが整っている。魔法剣士のシオン。魔法使いのマールン。双剣使いのホノカ。そして荷物持ちのロクト。このメンバーなら、魔王討伐も現実的だ」


 ギルドマスターがここまで実力を認めた発言をするのは、限られたパーティーのみだ。

 それが貴重な発言だと分かっているのかシオンも少し嬉しそうに笑う。


「お褒めに預かり光栄です。でもあくまで話がきたのは、勇者パーティー候補……。ということは、勇者パーティー自体は存在しているということですよね? じゃあまだ、焦って答えを出す期間ではないですね」

「お前たちが先伸ばしする場合は、そのままうやむやにして、なかったことにするだろうが」

「ふふ。バレましたか」

 

 シオンは笑みを向ける。


「ったく……。勇者パーティーになるのがそんなに嫌か。……ロクトを、危険な目に遭わせたくないから勇者パーティーになることを断るのか? 確かに魔王討伐となれば、さすがのお前たちでも荷物持ちのロクトを庇いながら戦うのは……」


 ギルドマスターが少しは同情の目を向けて————


「いえ。ロクトはボクたちが守るので傷ひとつ付かないですよ」

「うん。ろっくんは絶対に私が守る……」

「そうですね。ロクトさんを守るのは自信がありますね〜」


 3人はキッパリそう言った。


「めんどくせぇなぁ、お前ら! さっさと勇者パーティーになってこいよ! 魔王討伐しちまえよ!!」


 ギルドマスター、渾身のツッコミ。


「まあまあ落ち着いてください、ギルドマスター。ボクたちだって考えているんですから」

「お前……最初からの流れでよく考えているなんて言葉が出たなぁ……」

「本当に考えていますから聞いてくださいよ。ちゃんと深い深〜い理由があります」

「じゃあ言ってみろ」

「ボクたちは……その後のことを心配しているんですよ」

「その後のこと?」


 ギルドマスターは眉を顰める。


「はい。その後のことです。もし魔王を倒したら、ボクたちは勇者パーティーとして有名になる。そうなれば、今よりももっと多くの人の目に触れる。今よりも……荷物持ちというだけでロクトのことを馬鹿にしてくる人が出てくる。釣り合わないと言ってくる人が出てくる」


『な、なによっ。1人だけ荷物持ちの地味なやつがいるんだから、笑っちゃうのは仕方ないでしょっ。ふ、ぷぷ……今でも笑えるわ』


『まーた荷物持ちロクトが絡まれてるんじゃね?』

『まあ釣り合ってないといえば、釣り合ってないけどなぁー』

『つか、なんでアイツにこだわるんだろうなぁ。他のやつでも別にいいだろ』


『冒険者は戦えなければ無能だッ。お前は荷物持ちだ! お前は無能だ!』


 実際そういう人たちと出会い、対応してきたシオンだからこそ、言葉に重みが出る。


「さすがのボクたちでもそういう文句や罵倒は未然に防ぎきれないし、そもそも外見や一部の情報だけで第一印象を決めてしまうのは、生きている者なら仕方がないこと……。だが、それは面倒だ。なら、今のままの方がいい。むしろ、今のままがいい。今の冒険スタイルがボクたちには合っていると思っている」


 これ以上の話し合いは不要とばかりに、シオンは勢いよく立ち上がった。


 ホノカとマールンはというと、ギルドマスターの次の言葉を待っていたため座ったままだ。


 ギルドマスターは一度頷くと、シオンを見上げる。


「……なるほどな。随分と仲間想いなんだな。いや、片想いか?」

「いずれ両想いになりますからご安心を。あっ、結婚式の代表スピーチはギルドマスターにお願いしたいですね」

「ふん、やかましいわ」


 このまま話は終わるかと思われた。

 だが……ギルドマスターは再び口を開いた。


「なぁ、シオン。世界を陥れているのはなにも魔王だけではないだろう? 魔王の手下……だってそうだろう?」

「……。なにが言いたいんです、ギルドマスター?」


 シオンから爽やかな笑みが消える。


「ふっ、お前さっき言ったよな? 恩人になる分にはいいが、英雄にはなりたくない……と。あれもきっと、お前の本音の一部なのだろうな。先ほどの話とも繋がることだし」


 ギルドマスターは、続ける。


「魔王幹部だって立派な討伐対象だ。しかし、魔王幹部を倒したところで所詮は、魔王討伐の旅路の途中に過ぎない……。最終的な討伐対象は魔王なのだからなぁ。つまりは、。魔王を倒したパーティーこそが、一番目立つであろう勇者パーティーなのだからなぁ」


 ギルドマスターの言葉を聞き、シオンは黙り込む。

 

「それに、魔王幹部を倒した時にも膨大な報酬が渡されるらしいぞ。今後はなにかとなってくるだろう? お前がさっき言った、結婚式とやらにもなぁ?」

「……つまり、勇者パーティーになっても魔王幹部だけを倒せば、ボクたちとしては美味しい話ってことですか? ボクたちが何かと理由をつけて途中で魔王討伐の旅を辞めても、勇者パーティー候補という代わりはいくらでもいますもんね」

「ふっ、分かっているじゃないか。さすがシオンだな」

「………」


 シオンは再び黙り込み……。


「……はぁ。もう、どうしようかなぁ」


 先ほどから淡々と言葉を述べていたシオンからは似つかわしくない、困ったような声色。


「ありゃ。あのしーちゃんが口論で負けたよ、まーさんっ」

「驚きですね……。さすがギルドマスターということですね」


 ホノカとマールンが驚きの表情をしていることから、このことがどれだけ珍しいことか分かる。


「……分かりましたよ。でもこの話は一旦、持ち帰らせてもらいますから。ロクトの意見もしっかり聞きたいですからね」

「ふっ。そうしろ。話し合いで決まらなくとも、魔王幹部を討伐しながらゆっくり考えればいいさ」

「はぁ、ボクとしたことが……。じゃあみんな、行こうか。どうせロクトは迎えに行った方が早いだろうし」

「はーい。じゃあねー、ギルマス〜」

「失礼しました」


 3人が部屋を出ていく。

 しばらくして、ギルドマスターは椅子に深く腰掛け、天を見上げた。


「ロクト……お前、色々と早く気づいた方がいいぞ。それに、お前がパーティーを抜けたいなんて言い出したら……アイツらどうなることやら」


 ギルドマスターは苦笑いを浮かべるのだった。



◇◇


 一方、その頃のロクトはというと。


「ロクトさんの【収納】は便利ですね〜。すごいです〜」

「そ、そうですかね?」

「はい〜。ロクトさんは、つよつよのすごすごさんですよ〜」

「そ、そうですかぁ〜?」


 ぶりっ子気味な受付嬢にやたらとたくさん褒められてデレデレしていた。


 それを目撃して不機嫌になるパーティーメンバーまで、あと30秒———

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