第12話 一旦振り返ろう。勇者パーティー!?

 さすがに展開が早すぎる。

 一旦、振り返ってみよう。


 そう、まずギルドマスターから呼び止められたところから———


 ………。

 …………。

 ………………。


「シオン、マールン、ホノカ、ロクト。お前たちに伝えたいことがある。一緒にアタシの部屋に来てくれ」


 俺たちの目の前に立ったギルドマスターはそう言った。


 名前を呼ばれた俺たちは顔を見合わせ……集まって小声で話し合う。


「ええ、なになに……誰か怒られることした?」

「お叱りを受けるようなことをした覚えはありませんが……」

「ボクも怒られるようなことをした覚えはないよ。でも最近、ボクのファンクラブができたみたいで、その子たちがギルド職員に何やら抗議していたとか……」

「なにを抗議してたんだよっ。絶対それじゃねーかっ。それに比べて俺は荷物持ちだし、やらかすことなんてないだろう」

「……」

「……」

「……」

「えっ、なんで無言になるの!?」


 荷物持ちって別に「えっ、俺なにかやっちゃいましたか?」ポジションじゃねーだろ!


「おいお前ら……アタシがいつも叱ってばっかりだからって、そんなに警戒するなよ」

  

 ギルドマスターには会話の内容が大まかバレていたらしい。


「じゃあお叱りじゃないんですか?」

「説教ではないが、大事な話ではある。てか、大事な話じゃないと呼び止めないだろ」


 それは確かに。


「なぁに。お前たちが終わる話だ」


 そう言われたので、ギルドマスターの部屋がある2階へ。


「単刀直入に言おう」


 ギルドマスターは真面目な表情になり———


「お前たちに————勇者パーティー候補の話がきている」

「……え」

「「「お断りです」」」


 勇者パーティーという単語をうまく飲み込めていない俺を除き、3人はというと笑顔で即断っていたのだった。


 振り返り終わり。


「うん、すぐに答えは出せたみたいだね。帰ろうか」


 シオンが立ち上がれば、マールンさんとホノカも続けて立ち上がる。

 

「ロクトさんの作ってくださったサンドイッチも早く食べたいですし〜」

「ねぇねぇろっくん! サンドイッチって、私の好きなあのお肉たっぷりのやつもある〜?」

「ホノカが好きなのは、ローストビーフを重ねたサンドイッチだよな。もちろん作ってあるぞ」

「やったー!」


 ホノカは両手を挙げて大喜び。

 

「ロクトさん。わたしの好きなサンドイッチはなんでしょうか?」

「たまごサンドですよね? それもマヨネーズと卵を和えたものではなく、だし巻き卵を挟んだ、和風たまごサンド。もちろん作ってきてますよ」

「うふふ。正解です〜」


 マールンさんも嬉しそうに微笑んだ。


「ロクト。ボクの好きなのは?」

「シオンは具材はシンプルなものでハムとチーズだが、ホットサンドにするのが好きだよな。そして合わせる飲み物はホットカフェラテ」

「ふふ。ロクトはみんなの好みを把握してくれているね。嬉しいよ」


 シオンが爽やかに笑う。


 そりゃ、毎日料理作っているからパーティーメンバーの好みぐらい覚えとくだろ———


「って、呑気に好みのサンドイッチの話をしている場面じゃないだろ!」

「主に話してくれていたのはロクトだけどね」

「ロクトさんはいい子ですから〜」

「みんなの好みを覚えてるなんて、さすがろっくんっ」

「確かに文量が多かったのは俺の方だけども! それよりも今、勇者パーティーとかとんでもない単語が出てきたんだけど!?」

 

 この世界には、世界を混沌に陥れているという魔王が存在している。

 

 ただ、存在していると言ってもどこか他人事だった。


 だって、クラス転移で王国に勇者召喚されたというわけでもなく、女神様から世界の危機を救ってくださいと頼まれた覚えもない。


『異世界特有のイベントを経て、能力が覚醒し、現れることでしょう』


 俺が女神様に言われた重要そうな言葉はこれぐらいだもん!


 けどここで王道の勇者パーティーの話が出てくるということは、今後に何か関係してくるのかもしれない……。


「なぁ、シオン。ちゃんと話を聞こうぜ。そしてちゃんと悩もうぜ」


 ここはパーティーのリーダーであるシオンに問いかける。


「ん? 勇者パーティーの候補の話だろう? 聞いていたさ。そして考え、答えを出した」

「すぐ答えが出たね〜」

「考える暇もありませんでした」

「いや、一秒も考えずに即断っていた気がするんだけど!?」


 あとマールンさんの考える暇がなかったはもう、考えずに即答したってことなのよ!


「もっとちゃんと考えた方がいいと思うぞ! ほ、ほらっ!」


 俺はギルドマスターの方へ視線を向ける。


「………はぁ」

「あのギルドマスターが、両手で頭抱えて重いため息ついてるし!」


 こんなギルドマスター見たことないよ!


「……お前らはそういう奴らだったなぁ。単刀直入に言ってはいけないタイプだった……」

「判断が早いことはいいことだと思いますけどね」


 ぶれないシオン。ホノカとマールンさんも後ろで頷いている。

 その様子を見て、ギルドマスターは再び重いため息をついた。


「……とりあえず、一旦座れ」

「え〜。ろっくんのサンドイッチがー」

「座れ」

「あの和風たまごサンドの味を一度知ってしまったら戻れませんね〜」

「一旦座れ」

「ボクもホットサンドとホットカフェラテの組み合わせを初めて知った時は、衝撃的だったよ」

「いいから座れ。ホノカ、マールン、シオン……いい加減座れッ!」


 シオンがドアノブに手をかけ、マジで帰るつもりだった3人。


 しかし、ギルドマスターがブチ切れる寸前みたいな雰囲気になると……仕方ないと、おとなしく元の定位置に座った。


「……はぁ。じゃあ一から話すぞ」


 それからギルドマスターが勇者パーティー候補の話がきた経緯を語った。


 数週間前から王都冒険者ギルドから視察に来ている人たちがいるとか。


 勇者パーティーとはみんなよく知っていると思うが、魔王を討伐するために結成された、大体最強クラスの力を持つ冒険者パーティーのこと。

 その勇者パーティーは、王都冒険者ギルドで輩出されることが多かったみたいだが……。


「王都冒険者ギルド出身の勇者パーティーは、妙にプライドが高く、自らの実力に過信気味でなぁ……」


 王都の冒険者ギルドには行ったことがないけど、なんとなく予想できてしまう。

 これも前世の創作物の影響かな?


「ロクト」

「え、はい! なんですか?」


 いきなり名前を呼ばれて、びっくりしたー。


「最近お前によく付き纏って文句を言ってくるオートも、実は勇者パーティー候補のメンバーの1人だったんだ」


 えっ、オートミールお前そんな強かったんか!?

 冒険者ギルドでやられがちな、ただのかませ犬モブかと思っていたぞ!


「だが、魔王城に辿り着く前にパーティーを解散するところや腕試しのダンジョンで脱落するやつが多くてなぁ。中には、パーティー内で有能だった奴を何故か追放したアホもいる。そこのパーティーはそのせいで一気に落ちぼれていった」


 俺の知らないところで追放ざまぁが始まる予感……!


「だから最近は、勇者パーティーの候補でさえ獲得することが厳しいらしい。そこで、王都冒険者ギルドだけではなく、その周辺からも勇者パーティー候補を集めることにしたとか」


 なるほど。だからここの冒険者ギルドにも視察の人が来たと……。


 そして俺たちのパーティーが目についた。


 言いたいことは話せたのか、ギルドマスターが深く息を吐く。

 横目にパーティーメンバーを見れば、3人はまだ席を立たずにいた。

 さっきので懲りたみたいだ。


 勇者パーティー。

 

 ギルドマスターの話では、その候補の話がきたというわけだが……。


『ここからの先の旅はさらに厳しい旅になる。お前のような荷物持ちがいるとパーティーが全滅しかねない! 無能なお前はここで追放する!!』


 前世では、親の顔よりも見た王道中の王道な追放パターン。


 これは……追放される最大のチャンス到来だ!!


 コンコン

 ふと、部屋をノックする音が。

 

「入っていいぞ」

「失礼します、ギルドマスター」


 入ってきたのはギルドの受付嬢の女性。

 なんか一瞬、目が合った気がしたが、ギルドマスターの方を向き、


「大量の荷物が届いたのですが、私たちだけでは大変で……」

「そうか。じゃあ……」

「じゃあ俺がやりますよ!」


 荷物と聞いて、即座に挙手。


「ふっ。じゃあ頼んだぞロクト」

「任せてください!」


 そうして俺は部屋を出る。

 タイミング良く荷物持ちの仕事が来てよかったぜ。


 ちょうど1人で考え込みたいと思っていたんだよなぁ〜。


◆◆


「……さて。ロクトがタイミングよく席を外してくれたわけだし……お前たちが断る理由を話してもらおうか」


 ギルドマスターが前屈みになり、3人を見据えた。






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