第11話 勇者パーティー……え。

「ぐぬぬ……荷物持ちロクトめッ」


 いやだからそんな睨まれても困るんだが!

 かといって横目にパーティーメンバーを見るけど、誰も否定しない。

 なんで!?

 俺はいずれこのパーティーを追放されるはずじゃないの!?

 追放されてから美少女ハーレムを築くんじゃないの!?


 てか俺は空気で、シオンがホノカとマールンさんをはべらしているって表現の方が正しいだろ!


「お待たせいたしました、シオンさ〜ん。ゴブリン退治の精算が終わりましたので……って」


 受付嬢さんがシオンを呼びにきたみたいだ。

 しかし、この異様な雰囲気にすぐさま気づき、視線をオロオロ……。


「ん? ゴブリン退治だと?」


 ふと、受付嬢の言葉を復唱したオートミール。

 その瞬間、険しい表情がニヤリ……と笑みを浮かべたものに変わった。


「ハッハッハッ! おい、ロクト! お前がお荷物のせいでロクな依頼が受けられないみたいなじゃねーか!」


 荷物持ちとお荷物。ロクトとロクな。

 中々上手いことを言っているな。


 じゃなくて。


 戦闘中は荷物持ちの俺のことを庇わないといけない。

 だからゴブリン退治しか受けられないとオートミールは思っているみたいが……。

 今日は元々、難易度を少し落とした依頼を受けるつもりだったのだが。


 そんなことなど知るはずもないオートミールは、まるで弱点を見つけたとばかりに饒舌になる。


「今時ゴブリンなんかショボい依頼受けてるなんでなぁ! この冒険者ギルドでぶっちぎりのトップの強さと言われているパーティーが聞いて呆れるぜ! ハッハッ!!」


 オートミールがわざとらしく大声を出しているせいで、冒険者ギルドにいた冒険者たちが何事かとわらわら集まってきた。


「なんだなんだ〜」

「まーた荷物持ちロクトが絡まれてるんじゃね?」

「まあ釣り合ってないといえば、釣り合ってないけどなぁー」

「つか、なんでアイツにこだわるんだろうなぁ。他のやつでも別にいいだろ」


 なんて声が周りの冒険者からも聞こえてくる。

 まあ否定できないけどさぁ……。


「それくらいにしようか、オート」


 シオンが俺の前に立ち、オートミールを正面から見据える。

 それだけでも圧を感じるのだろう。


「ゔっ……」


 オートミールがあからさまに嫌な顔をした。

  

「今回のゴブリン退治の依頼を受けようと提案したのはボクさ。文句があるのなら、リーダーであるボクが聞こう」

「………チッ」


 シオンが出てきてから、オートミールはバツの悪そうに顔を顰めているだけ。


「それと君。ゴブリン退治が今時ショボいって言っていたね」

「な、なんだよっ。だってそうじゃねぇかっ! ゴブリン退治なんて低ランクの冒険者が受ける依頼だろっ」


 ゴブリン退治は、初心者冒険者がまずこなさないといけない依頼だが、別にゴブリン退治を受けることが低ランク冒険者の証というわけではない。


 こういう勝手なイメージがあることもゴブリン退治が人気のない原因なのだろう。


『いやー、本当にありがとうございます!!』


 悩まされている人はたくさんいるのにな。


「全く……君はそうやって何事にも上から目線だからいつまで経っても強くなれないんだよ」

「な、なんだとッ!」


 オートミールに鋭い目つきを向けられても、シオンは淡々とした言葉を続ける。


「どの依頼を受けるのか選ぶのは自由だ。依頼には難易度があるからね。しかし、被害には大きいも小さいもない。ボクたち冒険者にとってゴブリンを倒すことなど容易いが、村人にとっては十分脅威な存在だ。そしてその被害は掲示板に貼られている依頼の数を見れば分かる。困っている人がいるのなら助けにいく。それがボクたち冒険者だろう? どんな立場になろうと、それだけは忘れてはいけなよ」


 シオンが堂々と言い放った。


 遠巻きに囲んでいた冒険者たちは、シオンの発言に賛同して頷いたり、拍手をする音も聞こえる。

 中には、今日はゴブリン退治の依頼を受けよう、と話す声も聞こえた。


 いずれにしろ、オートミールはもっと恥をかいたということ。


「チッ、シオンめ……ッ」


 オートミールが歯を食いしばる。耳まで真っ赤になっていた。


「それじゃあ行こうか、みんな」


 シオンは髪をかきあげ、キリッとした表情を浮かべる。

 シオンは実力だけではなく、口論も強いからな。


「しーちゃんにいいところ全部持っていかれたー」

「うふふ。わたしたちのリーダーなのですから、美味しいところは差し上げましょう」


 俺も立ち上がり、シオンについていく。

 

 これで終わりかと思われたが……。


「おい荷物持ち勝負しろ! お前がそのパーティーに相応しくないことを俺様が証明してやるッ!」


 オートミールは恥をかいたままでは終われないという感じだった。

 すると……オートミールは背負っていた剣を躊躇することなく、勢いよく抜いた。

 

「アイツ馬鹿かっ」

「おいおい死ぬぞ……」

「やべぇって……」


 さすがに周りからも制止する声が上がっているが……興奮状態で聞こえてないのか、オートミールは剣を鞘に収めるどころか、矛先を俺に向けてきた。


「冒険者は戦えなければ無能だ! お前は荷物持ちだ! だからお前は無能のはずだッ」

 

 それは、俺が一番分かっていることなのだが……。


 だからと言って、こんなに言われるほど恨みを買うこともした覚えもない。

 これも追放ファンタジー世界特有のものなのか?


「……なに、あれ。私、切り刻んでもいい?」

「殺してしまうのは犯罪になるので、ヒールはお任せください」

「……はぁ、全く。せっかくボクがカッコよく収めたというのに……」


 前を向けば、何やらシオンたちの目の色が変わったような———


「―――何をしている」


 騒つく冒険者ギルド内においても聞こえた、その凛とした声。

 声の主は、冒険者ギルドの2階からちょうど階段で降りてきた———燃えるような赤髪を靡かせた女性。


 ただの女性ではない。


「ギ、ギルドマスター……!」


 誰かが焦ったようにそう言った。

 その場にいた誰もが緊張した面持ちで彼女の次の言葉を待っている。


「ほーん。アタシのギルドで暴れるとは……どんな強いやつなんだろうなぁ?」


 ギルドマスターは俺とオートミールの中間の位置ぐらいで足を止めた。


 ギルドマスターは俺とオートミールを交互に見る。

 ただ、見られているだけというのに……心臓が締めつけられそうなほどの緊張感と圧迫感。


 そして……ギルドマスターはオートミールの方に視線を向け、口を開けた。


「おい、オート。お前は他人に価値を決めつけられるほど強いのか? 偉いのか?」

「い、いや、その……っ」

「お前は他人に価値を決めつけられるほど強いのか、偉いのかと聞いている。質問にはちゃんと答えろ」


 シーン、と静寂の中。ギルドマスターの声だけが響く。


「つ、強くも偉くもありません……」


 あれだけ威勢が良かったオートミールがあっさりそう言った。


「そうか。じゃあしのごの言わずに依頼こなしてこいやっ!!」


 ギルドマスターが手を振りかざしたと思えば、オートミールのケツを思いっきり引っ叩いた。


「あひっんっ!? くっ、荷物持ちのロクト覚えてやがれよっ!」


 情けない声と捨て台詞を吐き、オートミールは涙目になりながら走り去っていった。


「ほらお前らも! うちの冒険者ギルドは大量の依頼が舞い込む。暇じゃねーんだぞ! さっさと依頼受けてきやがれ!!」


 ギルドマスターがパンパンと手を叩いて促す。 

 それを合図に、集まっていた冒険者たちが掲示板や受付の方に散っていく。


 普段もクールで厳しそうだが、口を開けばさらに厳しいのがうちのギルドマスター。


「ギルマスは今日も怖いなぁー」

「厳しいですけど、言っていることは正しいことが多いですから憎めないタイプですね。私はああいうタイプ好きですよ〜」

「さて、ボクたちもお叱りを受けないためにも、もう2つ依頼をこなすとしようか」

「その前にみんなお腹減っているだろ? 昼飯用に一応サンドイッチ作ってきたからどこかで食べようぜ」

「賛成ー! 早く食べよ〜!」


「……。ごほんっ」

「ん?」


 ギルドマスターが俺たちを追い抜いて……前に立った。


「シオン、マールン、ホノカ、ロクト。お前たちに伝えたいことがある。一緒にアタシの部屋に来てくれ」


 なんだが嫌な胸騒ぎがするが、ギルドマスターにそう言われて無視するわけにもいかず。


 ギルドマスターの部屋がある2階へ。

 そしてその5分後。



「お前たちに————候補の話がきている」

「……え」

「「「お断りです」」」


 勇者パーティーという単語をうまく飲み込めていない俺を除き、3人はというと笑顔で即断っていたのだった。

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