第10話 荷物持ちにポテンシャルはあるのか否か
「……やっぱり荷物持ちって地味だよなぁ」
『ぷくくくっ……1人だけ地味ねぇ〜』
ジライ村の村長の娘さんの言葉を思い出す。
チブサさんだっけな?
心底馬鹿にするように笑われたのはムカついたけど……確かに荷物持ちは地味である。俺も思っている。
その感覚は、ある意味正しい。
でも俺だって、少しでも馬鹿にされないためにも女神様から授かった【収納】という能力について、どれだけの可能性を秘めているのか調べたことがある。
たとえば、どのくらいの量を収納できるかについて。
量については今のところ結構収納できる。限界ってことが今までなかったし、これからも調べてみよう。
ただ、収納できる"モノ"にはちょっと制限がありそうだ。
『ろっくんの【収納】は、ろっくんが作ったご飯が温かいまま保存できるし、野宿する時もテントや毛布がすぐ取り出せるし。あとは、倒した魔物だって収納できる。めちゃくちゃ便利だよ〜』
ホノカが昨日褒めてくれたみたいなことは一通りはできる。
モノ以外にも、荷物持ちの主人公が覚醒した時にありがちな能力。
『どんなものでも制限なく収納できる』
みたいなのを調べてみたこともある。
代表的なのは、魔法。
結論から言えば、俺の【収納】の能力は、魔法を収納することができた。
試しにシオンの火の魔法を収納したことがあるのだ。
しかし……収納に入っていたモノが全部燃えた。
人や魔物から放たれたものは、モノと分類せず、"魔法"や"攻撃"とみなされ、収納に元々入っていたモノにそのままその効果が現れるみたいだ。
つまり。
火魔法なら荷物が燃え。
水魔法なら荷物が水浸し。
魔物の攻撃なら荷物が切り刻まれる。
という感じになってしまうのだ。
それに俺の役割はそもそも荷物持ちなので、荷物を収納しないというわけにはいかない。
ということで、魔法を収納するのは封印にした。
【収納】の能力に限らず、いつか追放されて能力が覚醒した際に、しっかり対応できるようためにも……。
みんなには「荷物持ち以外にも何か身に付けたい!」という名目で色々教えて欲しいと頼んだこともあった。
ホノカに頼んだら、最低限の護身術を教えてもらった。
次はその先も……と思ったが、俺の今の身体能力では最低限の護身術を覚えてこなすことが限界だった。
マールンさんに頼んだら、まず治癒魔法と防御魔法を扱える適正があるか調べることになり……結果、俺には適性がなかった。
落ち込んだ俺はマールンさんに慰めてもらいつつ、「お守りです」と宝石の付いたアクセサリーを貰った。
今も首に下げている。
シオンに頼んだら、マールンさんの時と同じく、まずは魔法を扱える適性があるか調べてもらい……結果、全属性に適性がなくてめちゃくちゃ落ち込んだところを酒場でご飯をご馳走になりながら慰めてもらった。
こうして振り返ると、冒険者としての活動は荷物持ち以外無能過ぎて慰めてもらったことが多いな。
はぁ、とため息が漏れる。
それを3人は勘違いしたみたいで。
「ろっくん。さっきのは気にしない方がいいよ〜。あれ、ろっくんことちゃんと分かってないやつの発言だから」
「荷物持ちと家事全般をしっかりできる方というのはありがたいですからね。まあロクトさんの場合は、それだけではないですが」
「ロクトはボクたちのパーティーには必要不可欠だからね。このままいてもらわないと困るよ」
掛けてくれる言葉に、悪口や罵倒などは一切ない。
ほんと俺のパーティーメンバーはいいやつしかいない。
「ありがとう、みんな」
俺は笑顔で返す。
でもやっぱり……追放されて真のチート能力が知りたいよ!!
◇◇
依頼完了の報告をするために俺たちは再び冒険者ギルドを訪れていた。
「ゴブリン退治の依頼終わりました」
「お疲れ様です、シオンさん〜」
受付嬢にモテモテなシオンを朝のように酒場から見守っていた。
そんな時。
「おい、ロクトッ!」
いきなり俺の名前が呼ばれたと思えば……俺の前に来て、ビシッと指を差してきた短髪の男。
このことから俺と親しいという人物ではないことが分かる。むしろ、敵意剥き出し。
「お前は確か……オート・ミールだっけ?」
「ふっ、そうだ。俺様こそ狼殺しのオート・ミールだ!」
今度は親指を自分に差しドヤ顔のオートミール。
妙にフルネームで呼びたくなる名前である。
オートミールは最近何かと俺に付き纏って文句を言ってくる奴である。
冒険者とか関係なく、人である以上、誰かに嫉妬するというもの。
俺なんかはその対象にされやすく、イケメン、美女がいる実力派パーティーに不釣り合いな荷物持ちがいるとしてよく陰口を叩かれている。
まあ陰口ぐらいは慣れたけど、こうして直接言われる方が逆に対応に困る。
だって、荷物持ちに関しては俺は何も反論ができない。
今日はなんて言おうか迷っていると、こちらに来るシオンが視界に入った。
「みんな。どうやら倒した数が多いから精算に時間が掛かるみたいだよ。終わったら受付嬢ちゃんが呼びにきてくれるって」
「たくさん倒したもんねぇ〜」
「シオンさんとホノカさんは今日も凄かったですからね〜」
「ほんとみんな凄いよなー」
「おい! 俺様を無視するんじゃないっ!」
メンバー同士で会話していたところ、オートミールがギャンギャン犬のように騒ぐ。
「おっと、つい無視してしまったよ。君は確かオートミールだったね。竜殺しならまだしも、狼って種類によって難易度が違うのだけど……グレートウルフのことかい? それとも最上位のブラックウルフのことかい?」
「シオン。そこは真面目にツッコむとろじゃないぞ。ただ、狼って響きがカッコいいから使っているだけだと思うし」
シオンが真面目な表情になっているので思わず、ツッコむ。
「ほんと毎回うるさい……。前方に敵1体……」
「ホノカ。アイツは討伐対象じゃないぞー」
今にも双剣を抜きそうなホノカを宥める。
「あらあら〜。ヒールをかけた方がいいでしょうか?」
「マールンさん。アイツは元気絶好調なので、治癒魔法かけても意味ありませんよー」
治癒魔法をかけようとするマールンさんも宥める。
3人とも、オートミールのことはよく思っていないみたいだな。
「クソッ! お前みたいな荷物持ちごときが美女たちをはべらせやがって……」
オートミールよ。歯を食いしばり、そんな恨めしそうに見られても困る。
ただの荷物持ちの俺がまるで今現在、美少女ハーレムを築いているみたいじゃないか。
「別にはべらせてないわ!」
でもいつかは絶対美少女ハーレム作ってやるっ!
「はべらせているよ」
「はべらせてますね」
「はべらせているねぇ」
「ええっ!?」
まさかのメンバー全員から総ツッコミを受けた。
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