第5話 何故か追放されない男の物語

「———明日の依頼は少し難易度を落とそうと思うんだ。昨日の戦いの疲労が1日では取りきれないと思うからね。かと言って、みんな油断しないようにね?」

「分かってるよ〜。瞬殺でしょ」

「はい、もちろんです。瞬殺しましょう」

「うん、みんな分かっているね」


 うちのパーティーメンバーは怖いなぁー。しかも、こうやって宣言する時には本当に瞬殺するからなぁ。


 夜も更けてきた頃。

 寝る前に明日のことについて打ち合わせをしていた。

 俺はというと、荷物持ちだし戦闘中は特にやることもないんだけどな。


「ロクトも戦闘には参加しないとはいえ、油断しないんだよ」


 俺の内心を読み取ったようなシオンの発言。


 もちろん俺だって、みんなが守ってくれるとはいえ油断はしない。


「おう。みんなが瞬殺してくれるだろうから大丈夫だ!」

「ふふっ。そうだね」

  

 シオンはふんわりとした笑みを浮かべる。


「ろっくんは絶対私が守るから大丈夫だよ」


 俺の隣に座るホノカは何故かマジな目をしている。

  

「ロクトさんや皆さんには傷一つ残しませんよ。うふふ〜」


 マールンさんは俺たちを微笑ましそうに見ている。


 この3人が俺のパーティーメンバーである。

 そしてこの3人のうちの誰かに、俺は追放される……のだろう。

 うん、今ずくにでも追放してもいいんだよ!


「さて、明日の打ち合わせはこれで終わりにしたいと思うけど……。ホノカとマールンはちょっと残ってほしい」

「俺は?」

「ロクトは明日に備えて寝ていいよ」

「分かった。おやすみー」


 俺はさっさと席を立つ。

 「なんで俺だけ省くの!?」とは聞き返さない。きっと荷物持ちの俺には話せないような深い内容をこれから話すのだろう。


 速やかに自室に戻り、ベッドに寝転ぶ。


「荷物持ちは異世界では省かれがち……俺は理解があるんだ」


 そう。理解があるから……早く追放してくれてもいいのよ?



◆◆


 ロクトがいなくなってしばらくして。


「さて……」


 シオンは一息つき……ホノカとマールンを交互に見た。その瞳は妙に真剣だ。


「長話になりそう? なら、何か食べてもいい? 確かろっくんが作ったドーナツがあった気がするしー」

「ダメですよ、ホノカさん。あのドーナツはロクトさんが3時のおやつ用に作ってくれたものなのですから」


 席を立とうとするホノカの肩をマールンが優しく抑える。


「え〜〜。どうしてもダメ〜?」

「ダメです。それに、こんな夜更けに食べてしまうと身体に悪いですよ」

「そこは大丈夫だよ、まーさんっ。私、前衛アタッカーで結構動くからカロリーはエネルギーになっているし! だから太らないと思うし! それに、栄養なら胸にいくはずだから〜」


 ホノカが胸を張る。それにより、ぷるんっと胸が揺れた。

 

「あらあら〜。若い考えですね〜」


 ばるんばるん。

 マールンが対抗するように身体を少しだけ揺らせば、その巨乳が大きく揺れだした。


 最後の1人、シオンはというと……。


「2人とも……ボクに喧嘩売っているのかな? いいよ。買おうじゃないか」

「あー……そろそろ本題に入ろっかっ」

「そうですね。シオンさんがわたしたちを集めた理由を早く知りたいですし」

「……はぁ。じゃあ話すね」


 やれやれといったシオンの表情が……真剣なものへと変わった。


「ロクトについて確認したいことがある」


 シオンの声にも真剣さが帯びる。目は据わっている。


 ロクトという単語が出て、ホノカもマールンも一瞬で表情が切り替わった。

 先ほどの和やかな会話など一切感じさせないほどのピリッとした空気感になる。


「ふふ。一気に緊張感が増したね」

「もったいぶらずに早く言って」

「ロクトさんに何があるというのでしょうか……」

 

 ホノカとマールンがシオンに向ける瞳が鋭くなる。


「そんなに殺気立たないでほしいなぁ。ただの確認だからさ。みんなは———ロクトのことは好きかい?」

 

 シオンが恥ずかしがることも、躊躇うこともなくサラっと告げた。


「……」

「……」


 予想外の質問に、ホノカとマールンは目を丸くする。


「ああ、ボク? ボクはロクトのことが好きだよ」

「しーちゃんにはまだ何も聞いてないけどー」

「聞きたかったんじゃないのかい? たくさんの女の子に言い寄られても、告白させされても何故ボクが見向きもしないのか……。その理由は、ロクトことが好きだからってことを」

「一から十まで自分で言っちゃうんだ」

「ボクは自分の気持ちには正直だからね」

「うふふ〜。わたし、シオンさんのそういうところ好きですよ〜」


 呆れたようなジト目のホノカ。

 見守るように微笑むマールン。

 キリッと決め顔をしているシオン。

 

「それでどうなのかな? ホノカとマールンはロクトのことが好きなのかい?」

「好きだよ。しーちゃんの何倍も好き。実力では負けているけど、ろっくんへの想いは負けてないから」

「わたしもロクトさんのことは頑張り屋の男の子と思っていましたが……今は異性として意識していますよ」


 思った通り即答なホノカとマールンに、シオンの口角が上がる。


「じゃあ決まりだね」

「何が?」

「何がでしょうか……?」

「ロクトを他のパーティーには……。いいや。ボクたち以外には渡せないってことさ。ふふ」





「むにゃむにゃ……。追放……されれば俺もさいきょー……ふへへっ」


 何も知らないロクトは、今日も今日とて追放されたい欲まみれである。



 これは、追放ファンタジー世界(?)に転移したと思っている男が何故か追放されない物語。


 何故なのか……?

 それが明かされる冒険は———もう始まっている。




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