第6話 荷物持ちってやっぱり……。
翌日。
俺たちは冒険ギルドを訪れていた。
冒険者の生活費になる魔物討伐や薬草採取などの依頼が張り出されるからである。
ちなみ1番高額な依頼はどんな魔物がいるか、魔物の数も未知なダンジョンの制覇である。
「今の時期だからかな? ゴブリン退治の依頼が多く貼られているね」
掲示板にずらっと貼り付けられている依頼を眺めながら、シオンが言う。
「最近は温かくなってきたからね。ゴブリンたちも活発に動き始め出すんだろうね」
「ほんとだ〜。依頼の半分がゴブリンだ。受けてもいいけど……私、ゴブリンは苦手なんだよねぇー。あの見た目とギャァギャァ耳障りな鳴き声とか」
ホノカが顔を顰めていく。
「つまりはゴブリンの全部が苦手ってことだな。まあ分かるけど」
俺もどちらかと言えば、ゴブリンは苦手だ。
創作物だとまだ可愛く描いてあることが多いが、実際に見ると緑の体で人間に近いシルエットなのに口からは涎を垂らし、目は血走っていて結構グロテスク……。
最初の頃は、見た目が衝撃で中々頭から離れず、ゴブリンに追いかけ回される夢まで見たものだ……。
「でもゴブリンって美味しいのかな? ろっくん! 今度ゴブリン料理作ってよ!」
「ええ……嫌なんだが……。俺、今度はゴブリンの中身が夢に出るじゃん」
ホノカが興味津々とばかりにキラキラした瞳になる反面、今度は俺が顔を顰めていく。
ゴブリンの中身とか想像したくもないのだが……。それにゴブリンって絶対美味しくないだろう。
だって、前世の創作物でもオークは調理されることが多くても、ゴブリンだけは食材として出てきた覚えがない。
もし食べたらケツから変なのが出てきてトイレに篭りそうだ。
「わたしもゴブリンは苦手ですね。読んだ本の中でエルフはゴブリンにくっ殺せなどと言わされ、犯されがちでしたから。あと見た目も苦手ですね」
マールンさんが読んでいる本の方が気になるのだけど。
こんな聖母みたいな見た目して、ゴブリンに犯される本を読んでるの?
あとそれ、絶対姫騎士ものですよね。
一旦置いといて……ゴブリン退治は冒険者の誰しもが一度は受けた依頼であるだろう。
逆説的に言えば、ゴブリンくらい倒してもらわないと冒険者は務まらない。
村人や農民など、戦う力を持たない人たちにとっては十分な脅威なのだから。
だからこうして、繁殖期になるとゴブリン退治の依頼で溢れるんだろうな。
俺はゴブリンを倒せるのかって?
実は……分からない。ゴブリンとは戦ったことがないので倒せるか分からないのだ。
荷物持ちの俺だが、それでもゴブリンぐらいは倒せるようになりたいと思っていた。
異世界という魔物が彷徨いているのが当たり前の世界では、戦える力は必要となってくる。
それに、今後能力が覚醒した時にすぐに使いこなせるようにしないと。
しかし……この3人の戦闘スタイルを見れば俺がゴブリンを倒してこなかった理由が分かる。
「ゴブリン退治がたくさん貼り出されているというよりは、売れ残ってしまっている感じもしますね〜」
「ゴブリン退治は報酬が低いからねぇー。やっぱりお金を稼ぐんだったら、オークとかグレートウルフぐらいじゃないと」
マールンさんとホノカの会話を聞き、依頼内容と報酬欄をよく見る。
ゴブリンは冒険者の誰もが倒せる分、他の魔物と比べて報酬が低い。
冒険者たるもの、ただ善人で魔物退治をしているわけではなく、生活費がかかっている。だから報酬が低いと受ける気は起きないだろう。
「ゴブリンはないよな〜」
「そうそう。ゴブリン退治なんざ、実力がないやつが受ける依頼だよ」
他のパーティーの会話が聞こえてきたが、やはりゴブリン退治の依頼を受けようとはしていなかった。
「シオンどうする? 俺はシオンに従うけど」
「私もしーちゃんが決めた依頼ならなんでもいいよ〜」
「わたしもリーダーであるシオンさんが決めた依頼なら」
俺たちが口々にそう言い、シオンに視線を集めていれば、
「じゃあ今日はゴブリン退治にしようか」
シオンが俺たちの方を見て微笑んだ。
相変わらず、イケメンである。
「ボクたちなら一度に複数の依頼をこなせる。それに、ゴブリン退治の依頼が売れ残ってしまうと被害も拡大するし、村人はますます困る。そして、ゴブリン退治をしてくれる人材を探さなければいけないギルド職員の皆さんも大変だろう」
シオンは視線をズラす。
すぐ奥にある受付場所。 そこにいる受付嬢数人にシオンが爽やかな笑顔を向ければ、彼女たちは「きゃぁ!」と黄色い歓声を上げて顔を赤くしていた。
クソ! イケメンが! 今の全部かっこいいしかない!!
「このジライ村のゴブリン退治と……その周辺の町のゴブリン退治からやろうか」
シオンの発言に俺たちはすぐに頷く。
「じゃあボクは受付に行ってくるよ。みんなは椅子に座って待っていてくれ」
そう言ってシオンは受付に向かったが、すぐに数人の受付嬢がシオンと話したいとばかりに集まってきた。
「これは長話になりそうだな」
「しーちゃんはモテモテだからねぇー。じゃあ待っている間に何か頼んでもいいよね!」
「ダメですよ、ホノカさん。メニューは没収です」
俺たちは併設されている酒場のテーブルで向かい合う。
目の前では、メニュー表を取り上げるマールンさんとそれを取ろうとするけど、マールンさんの巨乳に顔が埋まってしまっているホノカの微笑ましいやり取りが繰り広げられていた。
……やはりおっぱいは素晴らしいな。
おっと。ニヤニヤしてしまっていると、気持ち悪いと蔑まれるかもしれないので2人の奥にいるスキンヘッドな冒険者でも見て落ち着こう。
ツルツルてかてかで心が綺麗になるわ〜。今日は快晴だなー。
酒場では酒だけではなく、ガッツリした食事や日用品まで提供している。
ここでご飯を食べてから依頼を受けに行ったり、パーティーで作戦を練ったり、冒険者同士で交流を深めたり……。
「おい、あれ……」
「やっぱりオーラあるよなー」
「一昨日も大活躍だったみたいだぜ」
「王都の冒険者パーティーよりも、よっぽど強いって噂らしいぞ」
はたまた、強いパーティーは目立ったりする。
酒場にいる冒険者たちの視線はこちらに集中していた。
俺たちのパーティーはめちゃくちゃ強いため目立つのだ。
めちゃくちゃ強いじゃ分かりにくい?
じゃあこの冒険者ギルドに所属している冒険者パーティーの中で、ぶっちぎりのトップと言われている俺のパーティーメンバーについて改めて紹介しよう。
察知能力とその身体能力で前衛アタッカーを務める双剣使いのホノカ。
治癒魔法、防御魔法を得意とする魔法使いのマールン。
剣術と魔法をバランスよく使い分けるオールラウンダー魔法剣士のシオン。
字面だけでもう強いことが分かる。
そして。
荷物持ち兼家事全般担当のロクト。
……うん。
俺だけ字面が弱い。
この場違い感すごい。
荷物持ちってやっぱり……追放されるべきでは!!
◇簡単な人物紹介◇
アズマ・ロクト
黒髪黒目の天然アホぅ荷物持ち。
料理、家事スキル高め。
困っている人はなんだかんだで放って置けないタイプ。
だいぶ適当な女神様に『異世界特有のイベントを経て、能力が覚醒し、現れることでしょう』とお告げ貰っているが果たして追放されることで合っているのか……?
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