第7話 ハーレムはどうやらもうすぐできるらしい!
別に、荷物持ちが嫌というわけではない。
俺の【収納】という能力が本当のハズレスキルというわけではない。
いいことだってある。
たとえば……。
「おーいロクト! ジライ村のゴブリン退治に行くんだろ。ならうちの馬車に乗っていけ!」
顔見知りの御者のおっちゃんに声を掛けられた。
依頼場所であるジライ村は徒歩で行くには遠いので、馬車での移動の方がいいという話をちょうどしていたからタイミングがいいな。
「おーう! 乗ってく! その代わり交換条件な」
「おう、もちろんだぜ。乗車代金は無料にしてやるよ」
こういう時にいいことがある。
何故、馬車の乗車賃金をタダにしてもらえるかって?
それは馬車という乗り物がなにも人だけを運送するわけじゃないからだ。
おっちゃんのところに行けば、背中をバシバシ叩かれた。……地味に痛い。
「いやー。ロクトをいち早く見つけられてよかったぜ。ほら、他の奴らもお前に頼みたかったみたいだしよぉ」
おっちゃんの視線を辿れば、同様に御者が数人いた。
俺がおっちゃんの馬車に乗ることを察したのか、「先に取られたかぁー」や「くっ、俺の方が先に見つけていたのに……」という言葉が聞こえてくる。
「必要としてくれるのは嬉しいが……男にモテても嬉しくない」
御者は大体男。しかも馬を操るということで結構がっしりした身体つきの人が多い。おじさんが多い。
……やっぱりモテても嬉しくない。
モテるならやっぱりおっぱいが大きい美女だよなぁ!
「それじゃあロクト。保管庫へ案内するぜ」
トントン拍子に話が進む。
まあこれもいつもの流れだからな。
「じゃあみんな。俺はちょっと仕事してくるわ。みんなは出発前に何かしとくことはあるか?」
「わたしはお花を積みに行ってきますね〜」
マールンさんがさささ〜と移動。
馬車での移動でも2時間は掛かるし、俺も後からトイレ行こっと。
「ボクは特にないかな。武器もちゃんとあるし、必要なものは基本ロクトが持っていてくれてるからね。暇だし、ロクトについて———」
「シオン様〜〜!!」
「シオン様っ、サインください〜」
こんな朝早くから女性たちの黄色い歓声。
見れば、これから観光に行くのかラフな格好をした女性たちがシオンに手を振っていた。
「……うん。ボクもちょっと行ってくるね」
シオンは騒ぐ女性たちのところに行った。
モテ過ぎるもの大変だなー。
◇◇
「ちょうどジライ村宛に物資を届けないといけなくてよお。なんでもゴブリンたちが柵を壊したり、畑を荒らすみたいで大変らしいぜ。まっ、お前らが退治するってならこれからは大丈夫だろうけどよ」
おっちゃんと保管庫に行けば、木材や資源が大量に積まれていた。
これを今から馬車に積むのは大変だろう。しかも量が量だし、これだと馬車と保管庫を何度も行き来しないといけない。さぞ、めんどくさい。
「じゃあ頼むぜロクト。俺は馬車の準備をしているからよ」
おっちゃんに手を振られ、保管庫には俺1人になる。
まあ俺もすぐに終わるけど。
「≪収納≫」
そう唱えれば、目の前にあった大量の木材や資源がシュン、と。一瞬で消えた。
これが名の通り【収納】の能力。
近距離にあるモノを異空間へと収納できる。自由に出し入れしたりも可能。さらに荷物の重さは感じない。
【収納】の中身については、ぼんやりと入っているモノが頭に浮かぶから今何が入っているのかは把握している。
「これでよし」
さて、俺もみんなのところへ戻って———
「やっぱり収納って便利だよね〜」
俺の脇からホノカがひょっこりと顔を出した。
「おっ、いつの間にいたのか」
足音がしなかった。さすが前衛アタッカーというところかな。
「あんなにたくさんあった荷物が一瞬で無くなっちゃったよー」
「それが俺の能力だからな」
【収納】の能力は荷物運びという面では便利ではある。
便利ではあるが……。
地味……なんだよなぁ。
せっかくの異世界転移。第二の人生。
もっとこう……ド派手にいきたいじゃん!!
チート能力で魔物を瞬殺して。
美少女を助けて慕われて。
気づけば、「えっ、俺またなんかやっちゃいましたか?」っていうハーレム無双したいじゃん!
というか、そもそもは女神様にも非はあると思う。
『それともう1つ。能力を授けましょう。その能力は、異世界にて遺憾無く発揮されることでしょう』
『異世界特有のイベントを得て、能力が覚醒し、現れることでしょう』
あんなこと言われたら誰だって……【収納】という能力じゃあ物足りないと思っちゃうよ!
「ふっ……俺の能力はいずれ覚醒するだろう。刻がくるのはもうすぐだ……」みたいな厨二病になっちゃうよ!
「……はぁ。俺も早く真の能力が分ればなぁ」
ボソボソ嘆いていても仕方ないか。
能力が覚醒するにはまず、パーティーを追放されないと———
「ろっくん、ちょっと待って」
ガシッと。ホノカに腕を掴まれた。
「ぅえ!? どどどうしたホノカ……!」
ちょうど追放されることを想像していたので思わず変な声が出た。
「ろっくんさぁ……最近なんだか変だよ? 何か悩みでもあるの?」
ホノカが眉を下げて俺を見る。
また、心配してくれているみたいだ。
『ろっくんの【収納】は、ろっくんが作ったご飯が温かいまま保存できるし、野宿する時もテントや毛布がすぐ取り出せるし。あとは、倒した魔物だって収納できる。めちゃくちゃ便利だよ〜』
『生きるためにはご飯は必要。そのご飯を作ってくれる人も必要。作ってくれたご飯が美味しかったら嬉しいし、いっぱい食べちゃう。力も湧くし、ご飯の時間が楽しみになる。料理って戦闘には全然関係ないけど、日常の中では必要不可欠だよね。そして、料理を作ってくれる人がいるってことは決して当たり前じゃない』
昨日も俺の【収納】の能力と料理について物凄く褒めてくれた。
それは純粋に嬉しかった。
これからも頑張り甲斐があるってものだ。
でも……やっぱり追放されてハーレム無双してみたい!!
「話して? 今は2人っきりだし……私、ろっくんと同い年だから分かることもあると思うんだ」
ぎゅっと……掴んだ腕にも力が入る。
今からゴブリン退治なのに「実は……追放されたいんだ!」などと言えば士気を下げることになるだろう。
かと言って、ホノカは俺が話すまでこの腕は離さないとばかりにしっかり掴んでいる。
ここは追放という単語を出さずに、俺の願望を正直に話すかぁ……。
「荷物持ちの俺も戦闘で役に立ちたいと思うんだよ。そう、具体的には……」
「具体的には……?」
ホノカがごくりと生唾を飲み、俺の言葉の続きを待つ。
そんな真剣な表情をしないでほしい。
今から言うことは戦闘で活躍しているホノカからしたら————絶対に呆れることだから。
「……ある日能力が覚醒して、そのチート能力で魔物を瞬殺! そして何故か行く先で魔物に襲われがちな美少女を助けて惚れられたい! モテたい! そんなハーレム無双がしたいんだ!」
「……」
言い終わってホノカの方を見れば……まだ真剣な表情のままだった。
「ろっくんはハーレムを作りたいの?」
しかし、ホノカの声がワントーン低い。
やっぱり……呆れてますよねぇ!!
「いや、そのっ、ハーレムというのは男の憧れで……」
「男の憧れとかはどうでもいいんだぁ。ろっくん自身は、ハーレムがいいのって聞いてるの」
ホノカの目が妙に怖い! 怖いよ!!
「そ、そりゃあ……ハーレムの方がいいです!」
異世界でしかハーレムって実現できないし!
「……そっかぁ。ハーレムって具体的に何人?」
ハーレムの具体的な人数って考えたことなかったな。
ただ美少女にモテたいってことだけしか考えてなかった。
かと言って、シオンのようにどこに行ってもモテモテなのは対応が大変だよなぁ。
「何人?」
うん、これもちゃんと答えないといけないみたいだ。
「え、えと……3人以上……とか?」
「3人以上……。そっかぁ……」
ホノカは一度瞼を閉じ、重いため息をつく。
間違いなく、俺の言動に呆れている様子。
いや、むしろこれは呆れられて逆に追放されるチャンスなのか?
「私的には独り占めしたかったけど……まあろっくんが望むならいっか」
何かブツブツ言ってるよ! 俺には聞こえないよ! 怖いよ!!
「ど、どうしたんだホノカ……?」
「ううん。なんでもないよ〜」
あっ、いつもの明るい笑顔に戻った。良かった——
「ただ……」
「ただ……?」
まだ何かあるの!?
「ハーレムだったらもうすぐできるんじゃないかな」
「ほ、本当か!」
ハーレムができるのは嬉しい! でも、なんでホノカにそれが分かるんだろう?
はっ! もしかして俺が気づいていないところで俺のことを好きな子がいるとか!
ぜひ教えてほしい!!
「とりあえずこの話は一旦お終い。みんなそろそろ集合してると思うし戻ろっか」
「そうだな!」
続きはゴブリン退治が終わってから聞こう。
うおおおお! やる気出てきたぁぁ!
まあ俺がやる気出したところで所詮は荷物持ちなので、戦闘中は何の役には立たないんだけどな。
「……ハーレムかぁ。ハーレムはもうすぐしたら出来上がるんじゃないかなぁ〜」
前方を機嫌良く歩くロクトに、ホノカのその意味深な言葉は届くことはなかった。
◇簡単な人物紹介◇
ホノカ・アレッド
よく食べよく動く元気っ子双剣使い。
一見おバカ系かと思えば、ロクトがネガティブな発言をしたりすると、やたらと励ましたり、全肯定したがる。
ロクトの悪口などを言われると目のハイライトがよく消える。
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