第2話 めちゃくちゃいいこと言ってくれる同年代美少女

「おはよう、ホノカ。気にするな。ただの独り言だ」

「そうなの? 朝から元気な独り言だね。ふわぁ〜〜……」


 まだ眠そうな目を擦っている茶髪を肩まで垂らした女の子が現れた。


 彼女の名前は、ホノカ。 

 今は起きたばかりとあり、テンションがやや低めであるが、普段は明るくて人懐っこいやつだ。

 俺とホノカは同年代ということもあり、気軽によく話す仲である。


「眠いならもう少し寝ていても良かったんだぞ」

「眠いけどお腹ぺこぺこだからさぁ〜。それにろっくんの料理姿を見ないことには……わっ! 今日の朝ごはんはなんか豪華だね!」

 

 眠そうなホノカだったが、料理を見た瞬間。瞳がキラキラと輝いた。

 そういう反応をもらえると、今日は早起きして気合い入れて料理を作った甲斐があった。


「お前ら昨日の討伐めちゃくちゃ頑張っていただろ? それも夕食が食べれないぐらいヘトヘト疲れるまでさぁ。だから朝は腹ペコだろうと思って……たくさん作ったぜ」

「さすがろっくん〜! じゃあ早速……いただきます〜!」

「あっ! お前っ」

 

 俺がドヤっと胸を張っている間に、ホノカはそそくさとパクッと一口。昨日から特製のタレにつけておいたお手製チャーシューを一切れ食われた。

 

「ん〜〜! おいひ〜〜! これ確かチャーシューっていう料理だよね? 私これ好き〜。今日は味濃いめだね。これはご飯が何杯でもいけちゃうし、野菜を巻いても合いそうだよー!」

「はいはい、良かったな。ったく……早起き特権だからな」

「はぁ〜い」

「だからって、2回目は許してない」

「あいてっ。痛いよ〜」


 ホノカの頭に軽くチョップを落とす。 

 彼女は大袈裟に痛いふりをしていながらもペロッと舌を出して笑っていた。

 

「食ってないで手伝ってくれ」

「はいはい〜。お皿出すねー」

 

 ホノカは軽い足取りで食器棚の方へ行った。

 

 俺とホノカは同い年。仲も良い。

 だが、俺と違ってホノカは凄い。

 ホノカは双剣使いであり、前衛アタッカーとしてパーティーで重要な役割を担っている。


 それに比べて俺は、戦闘中はみんなの後ろにいて守られているばかり。


 これは……いい比較対象になる!!


『ホノカは優秀だが、それに比べてお前は何もできないな! 同い年でもこれほど実力差が出るとは……。無能なお前は追放だッ!』

 

 というお決まりの追放パターンに持ち込めるかもしれないからな! 


 そして無能だと追放された俺は、新たな地にて能力が覚醒し、ハーレム無双劇の開幕ってわけ!


 考えただけでワクワクするよな〜!!


「ろっくんお皿持ってきたよ〜……って、なにニヤニヤしてるの? いいことでもあった?」

「ああ、早く追ほ———じゃなくてっ。いやぁ〜。凄いなぁ、と思っていただけだ」

「私がろっくんと違って凄い?」

「ああ。ホノカは俺と違って有能。それに比べて俺って無能だよなー」

「……。ふーん」

「ん? ホノカ?」 


 先ほどまで明るかったホノカの顔が、妙に険しくなったような気がしたが……気のせいだよな。

 うん、気のせい気のせい。


「続きを聞かせて欲しいな〜」


 今はにこっ、と笑っているのだから。


「ほらっ。ホノカは強い魔物とかどんどん倒して活躍しているだろ? それに比べて俺は戦闘面では全く役に立たないからさ。だからホノカは俺と違って凄いって話だ」

「うーん、私を褒めてくれるのは嬉しいよ? ありがとう。でもろっくんだって活躍しているよね? ろっくんの【収納】は、ろっくんが作った美味しいご飯が温かいまま保存できるし、野宿する時もテントや毛布がすぐ取り出せるし。あとは、倒した魔物だって収納できる。めちゃくちゃ便利だよ〜」


 俺は違うところで活躍しているとフォローした上で褒めてくれるホノカ。


 まあ俺は荷物持ちだし、便利って言ってもらえるってことは役割を真っ当できているということで嬉しいけどさ。


「でも結局、戦闘面では役に立ててねぇじゃないか。それなのに、魔物討伐の報酬は俺もみんなと同じ報酬額ってのもなぁ……」


 むしろ俺の分は少なくしてくれとリーダーにも言ったこともある。

 が……メンバー全員に却下された。

 

 めちゃくちゃ強いみんなと荷物持ちの俺が対等な扱い。

 嬉しいんだけどな!

 仲間だし、平等な関係で嬉しいんだけど……それだと追放されにくいんだよなぁ。

  

「やっぱり俺って活躍できてないし、みんなとも釣り合っていない気がするんだよ」

「……」

「ホノカだってそう思うだろう?」

「思わないよ」

「えっ、なんで!?」


 荷物持ちポジションに優しすぎないか!?

 仲間想いなのは嬉しいけど、追放ファンタジーらしく不満の1つ2つあってもいいと思うのだが!?


「ろっくんは戦闘面のことを気にしてるぽいけどさぁ……冒険者ってなにも戦闘だけではないと思うんだ〜。ろっくんみたいな"ありがたい存在"っていうのも大切だと思うのですよ」

「ほ、ほう?」


 ホノカが真面目な口調で話し始めたので、俺も真面目に聞く。


「たとえば……ろっくんは収納すること以外にも、料理が得意だよね?」

「おお、得意だけど……」


 前世はめちゃくちゃ料理、家事をやらされていたからな。

 そして今はこのパーティーの家事全般担当ですからね。


 と、ホノカは俺との距離を詰めて言う。


「生きるためにはご飯は必要。そのご飯を作ってくれる人も必要。作ってくれたご飯が美味しかったら嬉しいし、いっぱい食べちゃう。力も湧くし、ご飯の時間が楽しみになる。料理って戦闘には全然関係ないけど、日常の中では必要不可欠だよね。そして、料理を作ってくれる人がいるってことは決して当たり前じゃない」

「お、おう……」

「だから私、ろっくんにはいつも感謝しているんだよ。いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとうっ」


 言い終わり、満面の笑みを向けてくれるホノカ。


 なんか……めちゃくちゃいいこと言ってくれるなぁ!

 思わず聞き惚れてしまうほど、すっごい嬉しいんだけど!!


「こちらこそ、いつもたくさん食べてくれてありがとうな! じゃあ俺……このパーティーにとって重要な役割になれているのかな?」

「なれてるよ〜。むしろパーティーの中心だよっ」

「おお! じゃあ俺も……凄い?」

「ろっくんは凄いよ。だから、もっと自分に自信持って」

「おお!」

「ふふーん。じゃあ私、今日も美味しいご飯ができてるよって、みんなを起こしてくるね〜」

「おう、頼むわ!」


 ホノカが部屋を出たので、俺はまた1人になる。

 

「今日も1日パーティーのために頑張れそうだなぁ〜!」


 自然と笑みが溢れ出して……。

 ……ん?


「あれっ!? 俺の追放されたい欲がどっかいきそうなんだけど!?」



◆◆


「困るんだよなぁ〜。ろっくんが自分を卑下しちゃうのはさ」


 ゆっくり歩きながらホノカは呟く。

 その表情に……笑みはなかった。


「ろっくんはさ、戦闘中は活躍なんてしなくていいよ。むしろ余計なことは何も考えずに、大人しく私たちに守られててほしいよ。だってろっくんが怪我しちゃうのは嫌だから。かと言って、ろっくんが自分の不甲斐なさに落ち込んじゃうのも嫌。それでもし、私たちの迷惑になると思ってパーティーを抜けることになったら……私、もうろっくんの前で笑顔になれなくなっちゃうよ」


 今も笑みが浮かんでいないホノカだったが……おもむろに唇に指を当てにぃ、と口角を上げた。


「ろっくん……ろっくんは私がずーっと守るから安心してね。……体も、心も」

 

 ロクトが追放されなそうにない原因。

 どうやらホノカがその原因の……1人になりそうだ。

 

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