再起②

 ──リヨクはゆっくりと目を開けた。


 森の中だった──横を見ると少し離れた所に、怪物が倒れている。

 てことはぼく、まだ生きてるんだ。

 手は……治ってる。顔も……治ってる。

 ボロボロになっていた服も、綺麗になっていた。


 ……どうゆうこと?


 ──猿たちも、茎木の皮を体に巻いた状態で、5匹全頭、座っている。


 ──あ!


 向こうからツキと{イス}が歩いて来た。

 近くまでやって来た{イス}に、リヨクは聞いた。


 ──「{イス}が助けてくれたの?」

 {イス}はかぶりを振り、ツキの頭にポンと手を乗せた。


「え!? ツキが? ……どうやって……てか、なんで白いの?」


 {イス}は、(ぼくがツキにあげたのと同じ)白い花を手に持っており、指をねじり、クルっクルっと回した後、ガブッっと食べた。


「え……ツキはその花を食べたってこと?」

 頷く{イス}


「どうして?」


 {イス}はしばらく止まった後、自身が着ている服に穴を開け、修復した。


 白い花は、傷を治す効果があるということはわかった。

 しかし、どうしてツキが白くなると、ぼくの傷が治るのかはわからなかった。


 ──家に帰ると、棚の上に置いていた鉢が、割れた状態で床に散乱しており、白い花がなくなっていた。

 ツキが急いでぼくらを助けようとしたことが伝わった。

 申し訳なさそうにしているツキに、リヨクは「ありがとう」と言い、抱きしめた。


 ──コン……ボンッ……ボンボン……。


 なに者かがドアを殴り続けている。

 開けると、昨日戦友になった5匹の猿たちが、ポーズをとって立っていた──


「もー、ドア壊れるよ」


 ──どれもぼくがヒーロー劇でしたことのあるポーズだった。


 ──「ヒーローごっこがしたいの?」


したいウキー! ……これ、作ってウキッウキッ


 昨日ぼくが成長させた葉っぱの長剣を、1匹はまだ持っており、〝おれも作って欲しい〟と他4匹が言って来た。


「いいよ、下おりるよ」


 ──「成長リベク

 ぼくは細い葉っぱを大きく成長させ、剣にすると、5匹全頭に、配った。


 ──「ファンッ! ファンッ!」

 嬉しそうに葉剣を振り回す猿たち。


 ヒーロー劇が始まった。


 ──「覚悟しろ! 青い怪人! やぁーー!」

 リヨクと猿たちは、青い茎木に斬りかかる。

 ズバッ! ズバッ! ズバッ!


「流石だな! uっ……」

 リヨクは、猿たちの名前を知らない事に気がついた。


 ──「ねぇ、きみたちってさ、名前あるの? ……{イス}につけてもらったりしてないの? ……そう。じゃあぼくが付けてあげる」


 リヨクは、端から順番に、猿たちの名前を付けていった。


 ・『ブー』

 理由:太っている、食いしん坊

 特徴:右側に枝垂しだれた長い髪、太っている、食いしん坊


 ・『サンダー』

 理由:逆だった髪=静電気=サンダー

 特徴:逆だった髪


 ・『ビル』

 理由:身長が高い、首に横並びの四角いあざが、窓に見えた為。

 特徴:パンチパーマ、身長が高い、首に横並びの四角いあざ、おとなしめ


 ・『テンテン』

 理由:そばかすの点々

 特徴:メス、左側に枝垂れた長い髪(『ブー』より毛量が多い)、そばかす、綺麗好き


 ・『ミニ』

 理由:身長が小さい

 特徴:ムキムキ、身長が小さい、ケンカっ早い


 ──猿たちはみんな気に入ってくれたようだった。


 それからまたしばらく、猿たちとヒーローごっこをした後、日が暮れて来たので、家に帰った。


 ──ツキと一緒にごはんを食べる。


「水、おいしい?」


 頷くツキ。


「ツキが人間だったらなぁ……これ、ちょーおいしいから、食べさせてあげたいよ」

 リヨクは、ヤパルミュレルをすくいながら言った。


「はむっ」──「ごちそうさまでした」


 お腹いっぱいになったリヨクは、睡魔に肩を叩かれた気がして、慌てて立ち上がる。


「寝ちゃう前に……」──スタスタ。


 リヨクは、寝る前にする恒例の儀式を始めた。

 福寿草に、ポジティブを言葉をかける。


 ──「今日は楽しかった、猿たちと遊びまくったし、ちょー楽しい……昨日死にかけたけど。ツキが助けてくれたんだ、ぼくって運がいいみたい。

 ──もーぼくは弱くない、弱虫を退治したんだ……。

 ──明日は何しようかな……久しぶりに街に行ってみようかな…ポムヒュースに行ってみる? そんでシユラをぶっ飛ばす? 今のぼくなら勝てるかもしれない。だってあんな大きな怪物と戦って…しかも、倒したんだし……。


 リヨクは、突然生えてきた〝木〟が自分によって引き寄せられたのだと思っており、結果的にそれで怪物を倒したことにしていた。


「ね! ツキ、あれ倒したんだからシユラなんてへっちゃらだよね? ……あ、ツキ、シユラ知らないか……オウエンの事も。オウエンは、ぼくの友達で、おもしろい子なんだ。いつか会えるといいね……あ、明日モモを探しに行ってみるのもいいかもな……どこにいるんだろ…いるとしたらポピュア村かな? ……けどポピュア村に行ったらルエロとタカシがいる……いや、知らないよ、なんか言ってきたらぶっ飛ばしてやる……決まり。明日はモモを探しにポピュア村に行ってみよう! いなかったら…街に行ってなんか食べよう。久しぶりに花氷エーメル食べたくなってきたしね──パンパン」


 言い終わるとリヨクは、福寿草に手を合わせた──。


 リヨクは、神社でお参りするような感覚で、毎晩これを行なっている。

 この手を合わせる行為は、メヒワ先生から貰った手紙には書かれていない。リヨクが勝手に付け足したものである。


 ──ベッドで横になる。


「はぁ……ぼく、昨日死にかけたんだよね……?」

 頷くツキ。

「かっこよかった?」

 頷くツキ。

「そう……ツキ、灯り消すね」

 頷くツキ。

「おやすみ……」




 ──翌日。


「カァー……カァー」カラスの鳴き声。


 カーテンを開け、暖かい光に照らされた青い森を見ながら背伸びする。


 一旦、外に出たリヨクは、空に浮かぶ時計ラフィアを見た。


 花の色が桃色…9時……葉脈が1本赤に染まってるから、9時10分くらいか……まだ早いな……。


 モモがポムヒュースに通っていないと知っているリヨクは、登校時間に被らないよう少し時間をずらす。


 ぼくには運良くこの家があったけど、モモにはない。

 女の子1人で森に長くいれるわけない。

 たぶん、ポピュア村にいる。


 ──20分ほど経ち、リヨクは動き出した。


「ツキ、行くよ!」


 ツキと一緒に、森を進んでいくリヨク──。


 森に約1年住み、割と植物に詳しくなっていたリヨクは、植物の扱い方を復習するように、ツキに説明しながら歩いて行った。


 ──青い森から緑の森、そして崖の下に到着した。


「ふぅ……、ツキ、崖の上は初めて?」

 頷くツキ。

「そっか……じゃ、楽しみだね……」

 後ろを指し示すツキ。

「ん?」

 振り返ると、森の動物たちが勢揃いしていた。

 ──真ん中には{イス}と5匹の猿がいる。


 え…ちょっと行くだけなんだけどな……。

 帰りづらくなっちゃうじゃん……。

 と思ったが、とりあえず手を振った。


 猿たちは泣きそうな顔をしている。


 ──本格的に帰りづらくなった。


 雰囲気に呑まれたリヨクは、「今までありがとう!!」と言い集まってきた森の動物たちに感謝を伝えた。


 ──「はぁ……。よし、行こっか──《成長リベク》」


 リヨクは、芝を絡めながら伸ばし、ツキと共に崖を昇っていく──赤い羽根、ずいぶんと伸びた髪、黒いワンピースがひらひらとなびく──絡みあい太くなった芝はどんどん上まで成長していく──こんな綺麗だったっけ? と思うほど美しい景色。──森に水やりをし終えた、空海そらうみの下に、虹がかかっている。


「ツキ! みて、虹」

 ぼくは、何か良いことがあるような気がした──。

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