第27話 森の生活

 ───森をさまようリヨク。


 ここに住み始めてから、1ヶ月ほど経った。

 毎日やる事があって、楽しい日々。


 ──「えーっと、これと──これと──これと──」

 リヨクは葉っぱの手紙に書かれたレシピを確認しながら、植物の皮でできた袋に、花や葉や実を摘み入れていく。


 友達? もできた。


 ──「やぁ! これ、食べれるかな?」

 頭を横に振る猿たち。


「……じゃあやめとく。ありがとう!」


 この猿たちは友達──いや、ぼくのファン?

 いつもぼくのヒーロー劇を見に来てくれる。


 リヨクの森での1日は、

 朝、カラスの鳴き声と共に起きると森を探索しながら食料集め。

 昼、家に戻りご飯を食べた後、家の近所で日が暮れるまでヒーローごっこ。

 晩、家の中でご飯を食べた後、探索している時に見つけた変わった形の石と石を戦わせて遊ぶ。


 ぼくは毎日、飽きることなく何度もこの作業を繰り返していた。


 ヒーロー劇を終え家に帰ってきたリヨク。


 ──「ただいまー」


 ぼくは家に誰もいなかったとしても、防犯のために言うことにしてる。

 この森で人にあったことある?

 いや、ない。

 なら意味なくない?

 じゃあ、福寿草に言ってるってことにするよ。


 この1人2役の会話も日常茶飯事だ。


「蒸した《レル》の実に、《アカマヒョルテ》に付着していたゼリーを溶かしてかける──はい、ヤパルミュレルの完成。いただきます。はむっ」

 作り方を覚えてから毎日食べてる。けど、まったく飽きない。


 リヨクは、腹を満たした後、石学の授業で作った石の箱を持ってベッドに向かった。

 石の箱から取り出した、変わった形の石のコレクションをベッドの上に並べると、前回やった物語の続きを繰り広げる。


「おれの名はブラック。この軍団をまとめる最強の悪者だ」

「おれの名はグリーン。かかってこいブラック」


 リヨクは、左手で大きな黒い石と小石を操り、右手で中ぐらいの緑色の石を操る。


 黒い石を持つ手を振りながら「これでもくらえ」と言うと、大量の小石をかき集め、緑色の石を囲う。


 ──敵兵として扱われていた小石は、物語が進むにつれて、黒い石が放つ技としても機能するようになる。

 このような自由奔放な役割の転換は、物語の創造者であるリヨクの遊びの中での流動性を示唆している。


 次にリヨクは、小石に埋もれた緑色の石を掴みながら、用意していた30cmほどの蔦を持ち、黒色の石に蔦を絡ませていく。


「ほう……あれをくらってまだ生きているとは……しかし! こんな弱い攻撃、何回おれに攻撃してもおれを倒すことはできない!」


 リヨクは、黒い石に絡み付かせた蔦を解き、擬音を吐きながら2つの石をぶつける。


「コンッ。コンコンコンッコンコンコンッ」


 石と石とがぶつかり合う音がしばらく続く──やがて「やるな……」とつぶやくと、黒い石はリヨクの手からポトっとベッドに落ちた。

 リヨクは、石をベッドの端に寄せると、力尽きたように眠りについた。




 ──流れるように時は過ぎ、ここに来てからもはや何日経ったかわからない。


「へーんしん! 《成長リベク》」


 最初は腕や足に絡みつかせるのがやっとだったが、今ではコツを掴み、芝で全身を覆い──


「仮面戦士リヨク、グリーンアーマーモード!」


 ──リヨクは、緑色の鎧を完成させた。


「《成長リベク! 》グリーンアルテメット(アルティメット◎)」

 リヨクは細長い葉っぱを生長させ、剣のようにピンとさせた。


「さぁ、こい!」

 大きな茎木に向かって葉っぱの剣を構える。


 ──「やぁ!」

 茎木に傷がついていく。


「とどめだ!」ズバッ!


 茎木は切り倒されてはいないが、どうやら勝ったようで、リヨクは「《逆成メヘム》」といい、葉っぱの剣を消した。


「パチパチパチパチ!」

 森の猿たちが拍手した。


「どうもどうも」


 リヨクは、一列にならぶ猿たちに果物をもらうと、次々に握手していった。


「また明日ー! 次はついにボスだよ」

「ウキー!」


 リヨクは、猿たちが去るのを見送ると、森を探検しはじめた。

 朝昼晩のルーティンが少し変わったのだ。


 この実、食べれるやつかな……。

 ──「あ、いたいた。おーい、この実食べれる?」


 猿は、頭を横に振った。


「ありがとう!」

 リヨクは、その実を持って帰るのをやめた。


 ──「これ使えそう」

 リヨクは、人型の石を拾うと、ポケットの中にしまった。

「今日は新キャラの登場だ」


 家に戻ったリヨクは、箱から石を取り出し、ぶどうを食べながら戦わせはじめた。


 植物術フィランハ石術ネランハ押力マテナ引力ジオを駆使し、レベルアップした攻防が繰り広げられる。

 石の形も、どれも人型だ。


 ──「あー、楽しかった」

 森探索で集めた石のコレクションで遊び終わったリヨクは、ご飯を食べ、福寿草に手を合わせる。


「毎日楽しい…お猿さんファンもできて…自由だし…けど、オウエンと一緒なら、もっと楽しいと思うけど……はぁ……」


 メヒワ先生からもらった手紙を見る──〝毎晩、前向きな言葉をかけて寝てみてください。気が向くと運を与えてくれます。〟


「毎日、声かけてるよ……」まだかな……。




 ──次の日。


 リヨクはいつものように、猿たちに見守られながらヒーロー劇を披露する。

 森のギャラリーは増え、猿や鳥、リスなどは茎木から。

 鹿やうさぎ、たぬきなど、他の動物は地上から観戦していた。


 ──「うっ、うっ、うっ」

 静かにそびえたつ茎木にボコボコにされていくリヨク。


「くそっ、流石ボス。手強いな……」


 ──「ぐぁんゔぁへ!」


 リヨクは聞こえてきた声援に「おう」と言うと、口を拭い、茎木に斬りかかる──スバッ!


 森のギャラリーに拍手され、リヨクは、まあまあまあと言った感じで、少し照れながら葉っぱの剣を逆成メヘムする。


 ──「かっこ、よ、かっら!」

「いやー、ありが……ん⁉︎今……喋って……」


 声がした方をゆっくりと見るリヨク。


 ──黒髪の少女が立っていた。


「え……きみは……」

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