第21話 ギャフンと作戦①

 ──次の日の朝。


「とりあえずポムヒュースに向かえばいいんだよね?」リヨク。


「うん!」クロスケ。


 リヨクは、クロスケと一緒に緑の街ピプロヌに向かって進み出した。


 ──「リヨクくん才能あっていいよね」


成長リベクは得意だけど、それ以外はぜんぜんダメだよ?」


「でも、予選みてポピュアのみんなすげ〜って言ってたよ」


「えー! そうなの?」リヨクはニヤけながら言った。


「地球でもそんな感じだった?」

「そんな感じって?」

「人気者だった? ってこと」

「んー、まぁね」リヨクは、ウソをついた。

「やっぱりー。ぼくはその逆だよ」

「逆って?」


「いじめられてた……みたいな?」クロスケは苦笑いを浮かべて言った。


 リヨクはクロスケを見る目が変わった。


(ぼくと同じだ……)


「この世界でも同じだよ。まあ、地球よりはましだけどね」とクロスケは言った。


(実は…ぼくもいじめられてたんだ。ぼくも、君の気持ちがわかるんだ、実は…)


 リヨクは、心の中で何度も自分が打ち明ける瞬間を想像した。


 しかし、その言葉は何度も心の奥底に沈んでいく。


「ぼくは、この世界で変わろうと思う」とクロスケは決意に満ちた表情で言った。


 クロスケの言葉を聞き、リヨクの内に秘めていた決意が、静かながらも確かな力となって湧き上がってきた。


 ──(ぼくも、強い自分に変わってやる!)



 ──ポムヒュースを横切ると、〝緑の街ピプロヌ〟と書かれた看板が見えてきた。


「あ、看板! …てことはここを右に曲がって真っ直ぐ行けば着くよ」




 ──緑の街ピプロヌ──


 看板を右に曲がり進んだ先には、緑溢れる活気ある町が広がっていた。


「うわぁ……」


 リヨクは立ち尽くし、この世界に来た時に感じた、心躍る感動を味わっていた。


「うわぁ〜、すごいね」


 クロスケは、くりくりとした目がポロッと落ちそうなほど開ききっていた。


 ──進んでいく2人。


 足元には石畳の道が続き、色とりどりの花々で飾られた露店が並んでいる。


 茎木組みの家々は、柔らかなパステルカラーに塗分けられており、バルコニーには花々が咲き誇っていた。


 町の人々は元気に行き交い、遠くの大きな山々がその美しい背景に静かに聳え立っていた。


 リヨクとクロスケは、緑の国エドーラ通貨ランツを握りしめながら街を見て回る。──


 ──徐々に、異国のメロディが鮮明に聞こえ始めてくると、広い街の中心に、植物の始祖エドラの太い茎が1本。うねうねと地を這っており、ドラム缶のような植物がその茎にそって流れてきた。


 ドラム缶のような植物の中には、人魚がいた。


「クロスケ、人魚っ」小声で言うリヨク。


「はじめてみた……なんか想像とちがう……」クロスケ。


「だね──」


 リヨクは、人魚を初めて見て興奮していたが、近づくにつれ、ドラム缶風呂に入っている田舎のおばあちゃんを思い出し落ち着いていった。


 それからリヨクとクロスケは、『消える中毒ラウーサ』という名のお店に立ち寄り、『花氷エーメル』という名の氷菓子を食べ、オレンジジュース片手に再び図書館を目指して歩き出した。


 ──図書館を目指す2人は、『アダム』と刻まれた不気味な像の前で足を止めた。


 その像の周りには、赤い液体が浮いており、その液体から青い花が咲いていた。


「なんかきもちわるいね」クロスケは、口にシワを作りながら言った。


「うん、なんか笑ってるようにも見える」

 と言い、リヨクは近づいていく──。


 ──「あんまり近づかない方がいいかも……」

 後ろにいるクロスケは心配そうに言った。


 しばらく『アダム像』と目を合わせるリヨク。


 ──「リヨク‼︎」


 集中していたリヨクは、クロスケの大声にビクッとし、我を取り戻した。


 2人はふたたび図書館を目指した。


 ──「ここだね」クロスケ。

「開いてるのかな……」リヨク。

「入ってみる?」

「うん」


 2人は、苔と蔦が絡まる古めかしい石のアーチをくぐり、館内に足を踏み入れた。


 ──緑の街ピプロヌにある図書館──


 高い天井と壁一面には花々が咲き乱れ、窓から光の柱が差し込んでいた。


 古書の香りが漂う静寂の中で、本を読むおじいさんたちの姿はあったが、学生の姿はどこにも見えなかった。


 リヨクとクロスケは、ジェスチャーで喋りながら奥へと進んでいく。


 一体何を調べたらいいのか、まったく定まっていなかったリヨクは、ふと一冊の本に目を止めた。



 ──「クロスケ!」


「なに?」


「これは?」


 リヨクが指差すその本には『爆発ヴァドゥザ』という単語が表紙に記されていた。


「爆発!? ……シユラ死んじゃうよっ」

 クロスケは、薄高い声で言った。


「大丈夫。脅かすだけだよ」リヨクはニッと笑い言った。


 2人は、茎木の椅子に座り、その本を読み始めた。


 ──『世界の爆発物ビョーヴァドゥザピ


『錬成』と書かれた項目をめくっていくと、[爆発石ウオラトトマ]と書かれたページに辿り着いた。


 〝八角に花崗岩を8つ同時に置くと錬成できる。


 注意 衝撃を加えると爆発する。〟


「これならたぶん作れるよ」リヨク。

「ルエロとタカシに手伝ってもらわないとだね」クロスケ。


 2人は、さらに探した。


 ──1時間後、図書館の深い沈黙の中で[石術ネランハ]についての本を読み進めていた。


 ページをめくるごとに、2人の知識が広がっていく。


 ──「みて」リヨク。

「えー! こんなのどうやって作んの?!」

「わかんない」


 そして、[時間引力ティヒジオン]に辿り着いた。


「これどう?」

 と言い、リヨクはクロスケに考えを伝えた。


「なるほど! ……でも、さっきのやつもだけど、どうやって手に入れるの?」




 ──3日後。ポムヒュース4階、大庭。


 リヨクは、石の円に座りながらシユラたちを観察していた。


「10分じゃないか…30分も長いしな……」とリヨクが独り言をつぶやいていると、ルエロたちが来た。


「よ! 何してんの?」ルエロはリヨクの肩に手を置き言った。


 リヨクは振り返り、「前言ってた作戦だよ」と小さく言った。


「おー! 流石だなリヨク」ルエロは目を開き、静かに言った。


「3人の力も必要なんだ。今日の夜、ぼくん家に集まろうよ」

「聞かれるとやばいから?」

「そう!」リヨクはニヤッとしながら言った。

「おっけい!」とルエロが小さく言うと、クロスケ、タカシも目を輝かせ、頷いた。


「それとさ、おれたち今からシユラたちのとこ行かないといけないんだけど…」ルエロは気まずそうに言った。


「うん全然いいよ、みんなもシユラの動き観察してて」リヨクはシユラたちを見ながら言った。


「「「わかった!」」」



 ──ポピュア村、リヨクの家の中──


 ──リヨクは3人に計画を話した。


「えー、成功するかなそれ」ルエロ。


「ぼくもまだ作ったことないし、威力もわからないからわからない。…けどぼく、オベリスクうまく作れたし、作れる気がするんだ」リヨクは自分を信じていた。


「リヨクがそうゆうなら、成功しそうだな」ルエロ。


「リヨクくん、次の授業で花崗岩いくつ持って帰る?」クロスケ。


「持って帰らないよ。次の授業は、だれか1人休んで、先生が石を取ってくる場所を見つけるんだ」


「そこから盗むの?」クロスケ。

「うん」

「えー、大丈夫かな」

「たぶん大丈夫。石学の授業をしてる時間は、塔の周りに誰もいない。調べたんだ」リヨク。


「うぉー、リヨクすげー」ルエロ。


「ぼく、最近休みすぎてるからさ、明日代わりに誰か、先生がどこからもってきてるか見ててくれない?」


 タカシが手を上げた。


「じゃ、タカシお願い」

「どこかわかったらおれが侵入するよ」ルエロ。

「えー、いいの?」リヨク。

「うん、任せて」


「それじゃ、明日から作戦開始だね」

 4人は拳を合わした。


 ──2日後の夜。


 リヨクと3人は、材料をもってポピュア村の端っこに来ていた。


 ──「だれもいないよね?」リヨク。


「いなーい!」

「よし…」

「《リベク! 》」クロスケは、光を放つ植物を成長させた。


 ──「ただいまより、『ウオラトトマ』の錬成に入る」


 ルエロが手術を行う医者のように手を上げて言った。


 リヨクは、『世界の爆発物ビョーヴァドゥザピ』に挟まっていた、『広げるとすぐに八角形がなぞれる!』と書かれた付録をポケットに入れて持って帰っており、それを広げて枝でなぞり、八角形を描いた。


 そして、4人は、500円玉ほどの花崗岩かこうがんを両手に持った。


 ──「よし。それじゃ、この角に3.2.1で一緒に置くよ? 3─2─1」


 ──何も起こらない。


「ぼくたぶんちょっと遅れた…」クロスケ。


「じゃあもう一回」リヨク。


 ──6回目にやっと成功した。


 石術ネランハが発現すると、「お!」と言い口を押さえる4人。


 八角に置いた500円玉ほどの花崗岩かこうがんが赤い煙を上げながら徐々に小さくなっていき、中心に真っ赤な石が出現していく──。


 ──そして、[爆発石ウオラトトマ]が完成した。


「うぉ〜。できた!」と言い、[ウオラトトマ]を触ろうとするルエロの手を掴むリヨク。


「そーっとだよ。キズが入ったら爆発してみんな死んじゃうかもしれないから」


「これそんなすぐ爆発するのか?」ルエロ。


「どれくらいで爆発するか、ぼくも今見たばっかりだからわからないけど……。

 とりあえず置いとこ、爆発の音が大きかったらすぐ逃げないといけなくなるし」リヨク。


 ──「次は[時間引力ティヒジオン]を作るよ」リヨク。


 リヨクは、持って帰ってきたもう一つの付録

(円の中に7方の円が描かれた型紙)を広げ、それに沿ってで綺麗な円を作り、その中にで、7方に小さな円をなぞって描いた。


「この円(7方の小さな円)の中に、まず、なんでもいいから小石を入れるんだって。


 その後に、血を垂らすんだけど、点と点を結んだら三角になるところに垂らすんだ」


「え、血がいるなんて書いてた?!」と言い目を大きく開くクロスケ。


「書いてたよ」リヨクは、冷静に言った。


「おれがやるから大丈夫」とルエロはクロスケに言った。


「ここと、こことここに垂らす、とか?」

 ルエロは、7方の円を指さしながら言った。


「いや、それだと変な三角になるよ。細いピラミッドみたいな形になるように…例えば……」


 リヨクは、3人に説明した。


 ──「こんな感じで、点と点を結んで、細いピラミッドが3つできるようにするんだけど、


 三角が一つの場合、10分後。

 二つの場合30分後。

 三つの場合1時間後に、この7つの石が中心に、シュッて集まるんだって」


「へぇ、やってみよーぜ」ルエロ。


 リヨクは、小石の円の中心に、[ウオラトトマ]を置いた。


 ──「それじゃ、ルエロ、こことここと、ここに血を垂らして」


 ルエロは、自分の指を葉っぱで切り、3つの石に血を垂らした。


 リヨクたちは、空に浮かぶ時計ラフィアを見ながらじーっと待った。


 ──10分後。


 7方の石が一気に中心に集まり、[ウオラトトマ]が爆発した。


「成功したけど、これだと威力よわいね。

 次は、もう少し大きいウオラトトマを作ろう」リヨク。

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