第19話 楽しい日々

  ──夢──


「きも」─「じゃま」─「ゴミ」─「*ね」─「きらい」─「だれ?」─「くさい」─「ブス」─「泣き虫」─「弱虫」


 いじめっ子の口からでた暴言ビームがリヨクに向かって飛んでくる。


 ──「ハァ、何回やっても同じだっての」と肩をすくめるリヨク。


 リヨクは、近づいてくる暴言ビームに、自ら向かっていき、いじめっ子の顔面にパンチを食らわせた。


 するといじめっ子は、火をまとい始め、シユラの顔になって現れた。


 シユラは怖い顔で、リヨクに向かって大量の火を放ち始めた。


 必死に避けるリヨクだったが、ついに火が体に当たってしまう。


(熱っ……くない?)


 火は、リヨクの体に当ると、ふわふわふわっと煙のように消えた。


「そっか、今のぼくには『オウエンのフルアーマー』と『ユウマの大剣』があったんだった!」


 リヨクは、背負っていた大剣を取り出し、シユラに向かって走った。


 ──ズバッ!


『ユウマの大剣』で、斜めに斬られたシユラは、バタッと前に倒れた。


 勝利し、『ユウマの大剣』をカチャっと背に戻すリヨク。


「これじゃ相手にならないね」と捨て台詞を吐き、ぼくは、シユラを無視して前にすすんで行く──。


「コンコン、リヨクー。コンコン、リヨクー」


 ──オウエンの声が家の外から聞こえてきた。


 リヨクはベッドから起き上がり、ドアを開けた。


「おはよ!」リヨク。


「おはよ! リヨク、なんか今日元気だな」オウエン。


「そう? てか、ユウマは?」

「先に行っててって」

「ふーん、また休むのかな?」

「わからない、ま、いこーぜ」

「うん!」


 ──ポムヒュース、1階──


 芝を成長させ、上に昇っていくリヨクとオウエン。


「もう笛使わなくても3階に上がれるようになったね」とリヨク。


「ほんとだ、最近笛全然使ってない」とオウエン。


 ──下から、シユラたちも昇ってきた。


 シユラはオウエンに、「まだアルドに行ってなかったのか」というと、返事を聞かずに先に3階に上がって行った。


「っ、なんだよ」とオウエンは、3階に上がっていくシユラを見ながらボソッとつぶやいた。




 ──大庭──


 前からシユラたちが来た。


「なんだよ、そんな嫌そうな顔で見ないでくれるかな」とシユラ。


「お前が会うたびにずっとわけわかんねーこと言うからだろ」とオウエン。


「アルドのことか?」と笑いながら言うシユラ。


「あー、もういこーぜ、リヨク」と言いオウエンは進もうとした。


 しかし、シユラは、「【ヴァル】」と唱え火を放ち、オウエンを通せんぼした。


「あぶねっ!」


 ──オウエンの目つきが変わった。


「おい、やる気か? 火なんか怖くないぞ」とファイティングポーズをとるオウエン。


「じょーだんだよ。話してる途中で急にどっかいくからさ」


「……」無言で近づいていくオウエン。


 オウエンの剣幕に押され後ずさりしていくシユラ。


「ケンカうっといてそれかよ、リヨク、こんな弱っちーのほって飯食いにいこーぜ」と言い進んでいくオウエン。


「アルドに行けばお前はボコボコにされるね」

 と、後ろから聞こえてくるシユラの声。


 オウエンは、無視して歩き続けた。


「行けば君は自分の弱さを思い知る」シユラ。


 オウエンは、舌打ちをし、振り返り言った。


「武術でおれが負けるわけないだろ?」


「いや負けるね。先生に聞いたが、今からでも転校できるらしい。けど怖いよな」


「全然怖くない」オウエンは、シユラを見てキョトンとしていた。


 そして、オウエンは頭を傾げ「お前は、もっと観察ってやつ磨け、じゃないと弱いままだぞ」と言い、続けてリヨクに「行こ」と言うとまた、前に進んで行くオウエン。


 オウエンは、道中、シユラがいかにバカかをリヨクに説明しながら歩いていた。


「あいつ、おれが火にビビると思ったのかな? 怖いとか言ったり、ほんと観察力ないな、あいつ」


 リヨクは、シユラに観察力がないと思わなかった。むしろ、オウエンの性格をよく理解していると思っていた。


「リヨクと比べたら、こんぐらい差があると思うな」

 オウエンは手を大きく広げて言った。


「何が? 観察力?」


「うん、そう。おれはリヨクと初めて会った時、観察力がすごいと思ったんだ。

 おれは師匠にいっつも『観察力を磨け』って怒られてたから、リヨクの事すごいって思ったんだ」


「そうだったんだ……じゃ、あの時のさすがはおれが認めた男ってそうゆうこと?」

「たぶんそうゆうこと!」



 ──ポピュア村──


 青い夕暮れの中、石の球体家々の窓からポッポと灯りがと灯り始める。


「ハッ‼︎…ハッ‼︎…ハッ!! …」


 ──リヨクは、オウエンの正拳突きを見ていた。


「オウエンまだ?」とリヨク。


「ハッ!! …ハッ!! …ハッ!! …」


「オウエンうるさーい!」リタ。

「オウエン、何してんの」バヤン。

「……」タカシ。


 ポピュアの子たちは、ドアから顔を出しオウエンを睨んでいる。


「オウエン、みんな怒ってるよ?」リヨク。


 ──「ふぅ」オウエン。


「終わった?」とリヨク。


「うん。…リヨク、おれ、アルドに転校するよ!」


「…え! ほんとに?」


 唐突すぎるため、リヨクはの冗談だと思った。


 しかし、話が進むにつれ真剣だとわかっていく。


「おれさ、考えたんだ、多分あいつシユラはおれをどっかに行かせたいんだろうな。けど、おれ行かなかったらビビってるって思われるのもムカつくし、行って全員倒してすぐ戻ってくるよ」


 オウエンが戦い好きな事は知っている。


 その方がオウエンは楽しんだろうなと思う。


 けど、オウエンがいないと少し寂しいと思った。


 けどリヨクは最終的に、「わかった、全員やっつけてシユラをびっくりさせてやろーぜ!」と拳を突き出して言った。


「うん。なんか、リヨクがっていうの変だな」と言いオウエンは笑った。


「いいじゃん別に」リヨクは顔が熱くなるのを感じた。


「ま、シユラがなんかしてきたら、パンチしてやれ! シュッシュッ。こんな風に、シュッシュッ。って」


「うん」


「明日、先生に言ってみる」とオウエン。


「明日言うの?! なら、ユウマにも言いにいこーよ」

「……ユウマ起きるかな?」

「コンコンだけしに行こ」


 ──ユウマの家。


 リヨクがドアをノックすると、「どうしたの? …」と眠そうな顔のユウマが出てきた。


「ご飯食べに行こ」リヨク。

「おれもう食べたよ」

「えー。1人で行ったの?」

「うん」

「……まぁいいじゃん、オウエンが大事な話があるって」

「転校のこと?」

「え、知ってたの?」

「いや、知ってたわけじゃないけど、まぁいいや、いくよ」



 ──ポピュア村、食堂──


「あら、また来たのユウマくん」とユウマ見ておどろくトリルト。


「うん、腹は減ってないけど」ユウマはボソッと言った。


「話したの?」トリルト。

「今から」ユウマ。

「そう」

「リンゴジュースでいい?」

「うん」


 テーブルに着いてから、一言も話さない3人。


 2人を見てると、何か嫌な予感がするリヨクだったが、

「ユウマ、オウエン明日アルドって学舎に転校するんだって」と、口を開いた。


「……おれは明日、地球に戻ることにしたよ」とユウマ。


「なんで?」

 リヨクは、そこまで驚かなかった。そんな気を感じていたのだ。


「ほんとに地球の時間に影響しないのかわからないから…かな」ユウマ。


「大丈夫だと思うよ」とリヨク。


「シユラに言われたんだ、地球に戻ったら家族が亡くなってた人がいるとか色々。

 嘘かも知れないけど、もしそうなら、弟が心配なんだ。

 おれがいないと…」


「そんなのシユラの嘘だよぜったい」リヨクは、自信たっぷりに言った。


「けど、わからないじゃん。

 そんなこと考えてたら、楽しめなくなったんだ。

 ……おれ、今日帰るよ」


 オウエンはすべて知っていたようで、神妙な面持ちをしていた。


「…わかった。ついていくよ」と言いリヨクは立ち上がった。

「ありがとう」とユウマ。

「おれもいく」とオウエン。

 2人も立ち上がり、ユウマはトリルトを呼んだ。


 ──「トリルト、やっぱおれ今日帰ることにしたよ」

 とユウマが、伝えると、トリルトは、「わかったわ」と言い、1メートル程の筒型の植物をブワッと生やすと、

 その植物に向かって話し出した。


「もしもし、インザード様──失礼します」


 リヨクは、この植物がこの世界の電話だとわかった。


 トリルトは、筒型の植物をシュルシュルと地面に戻すと

「いきましょうか」と言い、インザードが手配したニヨワリの背に3人を乗せ、飛び立った。




 ──インザード邸──


 暗くてあまり見えなかったが、白い町と同じ素材でできた曲線が多いデザインの建物だった。


 屋敷内に入り、広くて白い吹き抜けの廊下を進むと、中庭を挟んで奥の廊下に、餅つきをするインザードがいた。


 ──3人とトリルトは、近づいていく。


「おっす!」とオウエンは、インザードに声をかけた。


「トリルトさん、屋敷に入る前に連絡を頂きたかったです」

 とオウエンを無視して冷たく言うインザード。


「すみません!」深く頭を下げるトリルト。


 インザードは、「冗談よ」と微笑み、餅をつく手を止め手の甲で汗を拭うと、ユウマに向かって話し出した。


「地球とこの世界の魂は、多少リンクしてるから家族と会いたいという感情は満たされているはずなんですけどね。どうしても帰りたいの?」と首を傾げるインザード。


「いや、会いたいとかじゃないんだ。心配なだけ」とユウマ。


「そう? 地球に帰っても、時間はここに来る前のままだけど」と徐々に近づいていくインザード。


「いいんだ。俺は帰る」とユウマは力強く言った。


「わかったわ。他の2人は戻ってなさい。

 この子を地球に帰します」とインザードは、パンっと膝を叩き言った。


 ──「ユウマ! また地球であそぼう!」、「またあそぼーぜ!」

 と手を振る2人。


「うん! 遊ぼう! ほんとに楽しかったよ、おれの分まで楽しんで!」ユウマは、今にも泣きだしそうな顔で手を振っていた。


 ──「それじゃ、私たちはポピュア村に帰るとしましょうか」と言いトリルトは、鼻をすすった。


 トリルト、リヨク、オウエンは、ニヨワリの背に乗り、飛び立った。




 ──そして次の日。オウエンは、アルドへ出発した。


「じゃあな! すぐ帰ってくる!」オウエン。


「うん! シユラをギャフンと言わそうぜ」リヨク。


「あ、また


「いいって、じゃあね!」


「おーう!」オウエンは、ニヨワリと共に飛び去った。

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