第18話 『ポァ』第1予選
──さらに1ヶ月後。
リヨクたちは、4年生の『ポァ』予選会場にいた。
石でできた会場は、まさにローマのコロッセオそのものだった。
観客席は満員。
期待に胸を膨らませた観客たちは、試合開始を今か今かと待ちわびていた。
「《ラフィア》が赤になりました。それでは第1予選を始めます!」と校舎全体に響き渡るアナウンスとともに、4年生たちが入場してきた。
「キャーキャーうるさいなぁ」とつぶやくユウマ。
「やっぱり第1試合は注目されてるね」
グオは、観客を見渡しながら言った。
「どういうこと?」と言いリヨクはグオに耳を近づけた。
「あのオレンジ色の髪の男の人と、石のベストをきた男の人、あの2人は優勝候補って言われてて、今から第一試合で対戦するんだ」
「ふーん」リヨクはその2人を見ながら言った。
「ふつう、予選は実況しないんだけど、この第一試合だけ注目度が高いから実況するんだって」
「そんなに注目されてるんだ」リヨクは、観戦が少し楽しみになった。
──アナウンサーの声が響き渡る。
「第一試合、『ンメ・パルコス』VS『ナノ』ーー!」
試合が始まると、観客の空気が一変し、緊張感が場を包み込んだ。
「お互いの出方を探る2人……おっと! ナノが一瞬の隙をついて先手を打った!
おぉ〜しかし、さすがはンメ。彼の反応は雷のように速い。冷静に身を交わし、ナノの剣技を見事にかわした。
ンメは
その後、ンメは華麗に舞い上がり、地面に種をまくと、瞬く間に4本の柱のような植物がブワっと一気に成長させた。
そしてンメは、石を先につけた
ナノは、高速の剣技を放つが、ンメはツルを柱に巻き付かせて移動し、ナノの攻撃を次々と避け続ける。
そして、気づいたときにはナノは植物のツルに絡まり、拘束されてしまい、身動きが取れなくなっていた。
観客が息を呑む中、実況者が宣言する。
──「勝者! ンメ・パルコス!」
「あのナノって奴よえーな」ユウマ。
「いやー、ぼくもびっくりしたよ。ナノは3年生の時優勝してるし、強いはずなんだけどなぁ」
「え、じゃあ、ンメって奴強すぎ」
「多分、ンメに対策されてたね。ナノがどう動くか分かってたみたいだったもん」
「もうすぐボクらもやるって思うと、なんか緊張してきたよ」と言いリヨクはため息をついた。
「おれらっていつだっけ?」オウエンがグオに聞いた。
「1年生は、一週間後だね」
「まだまだじゃん」
──1年生の予選の日。
1年生全員、この日のために設けられた控え室=巨大なキノコの中にいた。
「やっとこの日がきたぜ。で、おれは誰とやるんだ?」とオウエンは肩を回しやる気満々だった。
「もう少し待てば発表されるよ」グオ。
──メヒワ先生が控え室にやって来た。
「この学舎に来て初めての『ポァ』です。緊張しているのも無理はありません。
特にポピュアの皆さんにとっては、こういった大会は全く新しい経験でしょう。
ポピュアの皆さんには、地球で培ってきた力を発揮していただきたい。
自分を信じて、全力を尽くしてください。
あなたたちの力は、今日試されます」
それからメヒワ先生は、対戦カードを発表すると、大会で扱う植物と石の選択をしに控え室を出て、デブくて大きな花の中に向かった。
──デブくて大きな花の中──
曲面の壁沿いに植物と石が並んでおり、
奥には、目玉のピアスとチョーカーを身につけた、禿げたお爺さんが立っていた。
「あの不気味な人だれ?」リヨクはグオに小声で聞いた。
「
「え、あんなに細いのに?」
「リヨクっ聞こえるよ」
「ごめんっ」
──
「バトルに持って行けるのはこの中から、3つ。
植物はすでに成長しているものでも良いし、タネのままでも良い。
ただし、この中にないものを会場に持ち込んだり、3つ以上持ち込んだとわかった場合、腕を引きちぎる。以上じゃ。
全員選び終わったらゆうてくれぃ」
──「あ、あった!」リヨクは、『芝』のタネを3つ手に取った。
「グオ…」リヨクは小声で話しかけた。
「なに?」
「大丈夫だよね」リヨクはグオに手の平にある芝のタネ3つを見せた。
「うん、同じものでも3つなら大丈夫だよ」
「よかった。ありがと」
──「終わったかの? それじゃ、荷物を全てここに預けて、この服に着替えてくれ。全員着替えたらゆうてくれぃ」
──「よし、準備が整ったようじゃの。それではルールの説明をする。
えー、まず、決められた植物、石の中から3つ……これはさっき言ったの。
勝利条件は、相手を戦意喪失させる、または、動けなくすること。
そして、22分以内に決着がつかんかった場合、審査をして下さる先生方のポイントにより勝者を決定する。以上! 健闘を祈る」
──1年生の予選が始まった。
「ぶっ飛ばしてくる!」と言い、オウエンは入場した。
「第5試合ゾクニカVSオウエン、向き合って〜始め!」
「お、始まった」と前のめりになるユウマ。
ゾクニカは開始早々、葉っぱのナイフで切り掛かった。
しかし、オウエンは、素早く後ろに下がり身かわした。
「あぶなっ、やるー」ユウマは、拳を作り見入っていた。
ゾクニカはまたオウエンに向かってナイフを突き刺した。しかし、何ど刺してもオウエンはスッスッスと避ける。
「あいつ、笑ってる」と言うユウマも笑っていた。
オウエンは、ゾクニカにボディーブローを決め勝利した。
試合を終えたオウエンと3人はハイタッチした。
「余裕だった?」とユウマ。
「うん、全然物たんないよ」とオウエンは、肩をすくめた。
──「ユウマくーん」
「フゥ。行ってくるよ」
──「第7試合ルエロVSユウマ、向き合って〜始め!」
ルエロは、風植物を扱い、ユウマに強い風を送った。
「あれじゃユウマの得意な火使えないな」とオウエン。
ユウマは、腕で顔を隠しながら前に進んでいく。
しかし、ルエロは、ポケットから砂を取り出し、風に乗せた。
顔に砂がかかったユウマは、ゴロンゴロンと転がった。
──オウエンは転がるユウマを見て横で爆笑している。
ルエロは、芝を成長させると、ユウマにどんどん巻きつかせていく。
──すると、暴れていたユウマはバタンと力が抜け倒れた。
「先生! 勝ちましたー!」とルエロが叫ぶが、先生は試合を止めない。
ルエロは、え? という表情をした後、恐る恐るユウマに近づいていく──ブワッ。
「えっ!」と立ち上がるリヨクとオウエン。他の観客も立ち上がった。
「勝者、ユウマ!」とメヒワ先生がユウマの手をあげるなか、ルエロは、先生たちに連れて行かれた。
「あの子、大丈夫なの?」とリヨクはグオに聞いた。
「あれぐらいなら大丈夫。ヘチ先生が治してくれるよ」
──そして、リヨクの番が来た。
「よし」と気合を入れるリヨク。
3人に応援される中、入場した。
──「第7試合リヨクVSクロスケ、向き合って〜始め!」
リヨクは、全く緊張していなかった。
なぜなら、このクロスケが弱いことを知っていたからだ。
試合が始まるとクロスケは突進してきた。
リヨクは、手のひらをクロスケに向け怯ませると、その隙に芝のタネを地に撒いた。
リヨクが何もしてこないとわかったクロスケは、また突進してきた。
リヨクは、クロスケが目の前まで来ると、
「芝アッパー!」と言い、増殖が完了した芝を一気に上に成長させ、クロスケを上に持ち上げた。
降りて来れないクロスケは負けを認め、リヨクは勝利した。
「さすが成長1位って感じの戦い方だったね」とグオ。
試合を終えた3人は、グオの試合を観客席で待っていた。
「グオ、がんばれ!」
「うん!」
入場してきたグオの対戦相手を見て3人は驚いた。
「え! グオの相手って、シユラだったの!?」リヨク。
「まじか」ユウマ。
「おー、楽しみ」オウエン。
──「第32試合グオVSシユラ、向き合って〜始め!」
──『ポァ』第1予選から一週間後。
ユウマとエーテルは、学年ランキング入りしており、旧楽園の子たちから一目置かれる存在になっていた。
リヨクは、シユラが
〝火 5位ユウマ
風 5位エーテル〟
「ユウマ! また順位上がってるよ、5位だって!」
リヨクは、シユラに聞こえるようわざと少し大きな声で言った。
「ほんとだ、多分これ使いこなせるようになったからかな?」
ユウマは、自分の首にヘッドホンのようにかけてある、オレンジ色の植物を指さして言った。
「それってランキング入りしたお祝いにって、メヒワ先生がくれたやつだよね? どうやって使うの?」
リヨクは、ヘッドホンのような植物を不思議そうに見ながら言った。
「みてて──《ヴァル》」
ユウマは、手から火を出した。
近くにいる子たちはみんなユウマに注目し始めた。
「え? 今、手から火出さなかった?」と驚くリヨクとオウエン。
ユウマは「ふふん」と笑い、片手でヘッドホンのような植物を指さし、もう片方の手のひらを見せてきた。
「この《メブト》っていう植物と一体化したんだ。完全じゃないらしいけど」
ユウマは、それから、棒のような植物を生やして燃やし、火の剣を構えるヒーローのようなポーズをとった。
「ファイアー!」とユウマ。
「それってファイアソードの真似?」リヨクは笑いながら言った。
「そう、いいだろ、これ」ユウマは、自分の手を見ながら言った。
「ユウマ、シユラより火の使い手になったんじゃね?」オウエンが言った。
ユウマは、植物の皮を顔に包帯のように巻いているシユラを見て、「いや、まだ負けてるな」と言った。
──グオが来た。
「え、グオ? ケガ治ってる……」と驚くリヨク。
「うん、あの後、医療の街『ミーウ』に行って繋いで貰ったんだ。完全に元通りさ」
「不死身のグオだな」オウエン。
「完全に死んだと思ってた」ユウマ。
「もー大丈夫。シユラにしてやられて悔しいけどね、みんな、敵討頼んだよ」
──「それでは、
──「《
「《
リヨクは、火を浮かすのに苦戦していた。
「リヨク、まだできないのかー?」とドヤ顔で、火を上下に浮かすオウエン。
「あいつら笑ってる」とオウエンはシユラたちを指さした。
「ほっとこ」とリヨクは、オウエンの指を下げた。
──「ハァ…ぼくにはムリ。
リヨクは、諦め、芝生に座り腕組みをした。
──全授業が終わり、葉っぱを使って4階から1階に降りていく道中──
「おれは{
オウエンは、2階にいる、茶色い巨大な獣を見ながら叫んだ。
すると、ほとんど同じタイミングで降りていた、シユラが、「イーデランガと戦えば死んじゃうよ?」とオウエンを煽った。
「あ? おまえはむりでもおれは勝てるんだ」オウエンは、目を細めて言った。
「口だけだね」シユラはニヤッと笑いながら言った。
「は?」
──空中で口喧嘩を始めるオウエンとシユラ。
「じゃあ戦わせてくれよ、おれが先生に頼んでもダメって言われたんだ、かわりに言ってくれるのか?」
オウエンは、シユラの葉っぱに飛び移りそうな勢いで言った。
「じゃあ、アルドに行ってイーデランガと戦ったらいいだろ」シユラ。
「アルド?」と首を傾げるオウエン。
その時、グオがぼくらに追いつき、「何話してるの?」と言った。
すると、シユラは降りるスピードを上げ、去っていった。
「あいつ、まだグオにビビってるよ。やっぱまぐれで勝ったんだ」とユウマは、上から下にいるシユラたちを見下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます