石学 生態と接し方②

 ──メヒワ先生は、黒板代わりの大きな葉っぱの葉脈を動かし、細長い四角柱の絵を浮かび上がらせると、話しを続けた。


「オベリスクは、このような長方形の石柱のこと。

 上に向かって徐々に細くなり、頂点は小さなピラミッドのような形状をしています。


 一般的なオベリスクは、高さが約5メートルから40メートルと非常に大きいものが多いですが、今回みなさんが作るのは、高さ30センチの小さなものです。


 オベリスクは、太陽エネルギープロンを吸収し蓄えることができます。


 ──みなさんの体内にあるプロンを与える事で契約が結ばれ、先に触れると、いつでもオベリスクの中に溜まったプロンを受け取れるようになります。


 ──プロンは寝ている時に、自然と体内に蓄えられていきます。


『エベレル』と言う、我慢からうまれる反発で、自らプロンを生み出すこともできますが、大人でも完璧に習得することは難しく、溜まるまでに時間がかかります。


 ですが、このオベリスクにプロンを蓄えていれば、

 体内にあるプロンを全て消費してしまった場合、瞬時にプロンを得る事ができると言うわけです。


 ──オベリスクを作る方法は、非常にシンプルで簡単です。


 まず、①丸縞石インゼリア、②直縞石ボクソニア、③黒曜石オブシディアン、④黒硬石ウルツァイト、の順番で四方に置きます。


 そして最後に、火のエネルギーを宿した花崗岩かこうがんをその中に入れます。


 すると、効果が発生し、発生と同時に4つの石は、中に入れた花崗岩に吸収されていき消え、やがてオベリスクが完成するという流れです。


 ──メヒワ先生が、黒板代わりの大きな葉っぱの葉脈を動かし、浮かび上がらせた文字↓


 〝①丸縞石インゼリアは、花崗岩をやわらかくする効果がある。


 ②直縞石ボクソニアは[押力マテナ]を持っており、その力を使い花崗岩を上に引き伸ばす。


 ③黒曜石オブシディアンは、花崗岩を尖らせる。


 ④黒硬石ウルツァイトは、花崗岩を最後硬くする。〟


「配置する場所や手順さえ間違えなければ簡単に作れます。さっそく作ってみましょう」


 気がつくと、それぞれの葉っぱの机の上に、5つ石が入った石の箱が置かれていた。


 ──「なんかテンション上がるな! みてこれ、真っ黒」

「すごいね、見たことないよこんな石」


 リヨクとオウエンは、石を手に取りテンションが上がっていた。


 ──「あー、今気おつけてって言おうとしてたのに……みなさん! この黒い石、黒曜石オブシディアンは切れます。気おつけてください」


 メヒワ先生は植物を生やし、おそらく黒曜石オブシディアンで手を切った少年に、何かを塗ると、教卓に戻り、話し出した。


「今回作るオベリスクは、30センチと小さいものですので、手のひらサイズの石を使いますが、大きいサイズのものを作るとなると、それだけ大きな石が必要になります。


 では、ゆっくりでいいので、配置する場所と順番を間違えずに作ってください」


 ──リヨクは、黒板代わりの葉っぱに浮かぶオベリスクの作り方をチラチラと確認し、慎重に石を四方に配置した。


「うぉーー!」


 となりにいるオウエンの机からゆっくりと石が伸びていくのが見えた。


 興奮する子どもたちの声が次々に聞こえてくる。


 リヨクも、興奮を抑え、四方に配置した石の中に、花崗岩をゆっくりと入れた。


 すると、ゆっくりと花崗岩かこうがんが上に引き延ばされていく。

 ──四方に配置した石は徐々に小さくなっていき、やがて綺麗なオベリスクが完成した。


「できた……」


 興奮を共有したくなったリヨクは、完成したオベリスクを持ち、オウエンに話しかけた。


「オウエンもできた?」


「うん! できた! なんかちょっとちがうけど」


 オウエンは、細長いピラミッドを見せてきた。


「え、なにその形!」と言いリヨクが驚いていると、「おれもそれになった」と後ろからユウマが話しかけてきた。


「え? ユウマも?」

「うん、これってミスだよな」

「いや、かっこいいから成功だろ」


 とリヨク、オウエン、ユウマが話していると、教室を見回っていた先生が、ぼくらの前で足を止めた。


「ハァ、ここにも細いピラミッドを持った子がいたわ

 ②番と③番の置く場所が違ったからそうなったのよ。

 ま、それでも一応プロンは蓄えれるわ。

 リヨクくんは、上手にできてるわね」


 リヨクが作ったオベリスクを手に取りほめるメヒワ先生。


 リヨクは、また体の中に空気が一気に入って来るような感覚を味わった。


「これでも蓄えれるんだな」

「だな、ならこっちの方がかっこいいじゃん」

「うん、こっちの方がかっこいい」


 オウエンとユウマは、自分に言い聞かせるように、オベリスクを眺めながら話していた。


「いいだろー。リヨク、交換してやろっか?」


 オウエンは、リヨクが作ったオベリスクを羨ましそうに見ながら言った。


「いいよ」

 リヨクはオベリスクを持つ手を後ろに引いた。


 ──メヒワ先生が話し出した。


「まだ終わっていませんよ。

 オベリスクから蓄えたプロンを受け取るには、自分のものにする必要があります。


 オベリスクに、プロンを流してください」


 ──リヨクは、オベリスクにプロンを流した。

 すると、オベリスクに自分の名前が彫られていった。


「すご!」

 これは3人とも成功したみたいだった。


 ──「後は、プロンの光が当たる所に置いておけば勝手に吸収してくれます。


 実際には、オベリスク自体に吸収されていくのではなく、みなさんが与えたプロンの中に、プロンの光を外から蓄えていってくれるといった仕組みです。


 イメージとしては、湿度の高い森の茎木から、ポタポタと水が滴り落ちていることを想像してください。


 その下で動かないカエルが上を向き、口を開けて水を得ています。


 そのカエルの口の中に、筒(みなさんが与えたプロン)を入れ、その筒の中に水(プロンの光)が溜まっていく。


 そのようなイメージです」


「えー、カエルさんかわいそう」

 前列に座るポピュアの灰色ロングヘアの少女が言った。


「ですね。ですから、水が溜まったらお礼に体を洗ってあげてください」


「その前にカエルは窒息、もしくは脱水で死ぬ」

 前列に座る金髪短髪のポピュアの少年が言った。


「いいえ。私の想像だと、筒は、カエルの口半分の大きさです。それに、カエルは、皮膚を通じてでも水を吸収できるのでちゃんと生きられます」


「いや、死ぬな」


「そうですか。私の例が悪かったですね」


 ──メヒワ先生は、子どもたち全員に向け話し出した。


「プロンを受け取りたい場合は、オベリスクの先に触れるだけです。


 石術は、まるで火の上に石を乗せ、タネを置いておくと自然にポップコーンが出来上がるようなもの。


 石の上に火を乗せるような間違えさえしなければ問題なく術を発現させることができます。


 ──想像力を必要とする植物術とは違い、石術は、決まった手順さえ守れば術が発現します──」


 ──「キーンコーンカーンコーン」


「チャイムが鳴ったので、──石学ネランス の授業を終わりましょう。


 次の授業は17時。獣学ミュース 生態と接し方です。遅れないように」

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