第2話 神使ニヨワリの背

 ──リヨクとオウエンの元に騎士がやってきた。


「よう、お2人さん。『ポンド』だ。よろしく」


 騎士ポンドが身につけている鎧は、近くでみると葉脈が通っており、さわるとかたい植物である事がわかった。

 チューリップを逆さまにしたような形のかぶとからツンツンと2本のツノ髪がとびでている。


 リヨクとオウエンはポンドと握手した。

 緊張していたリヨクだったが、やさしそうなお兄さんだったので、ちょっと安心した。


「私のニヨワリを紹介しよう。ついてきて」


 オウエンはスキップしながらニヨワリの元へむかった。

 リヨクとポンドはその後ろをついて行った。


「元気な子か……めずらしいな」

 ポンドは、オウエンを見ながら、ボソッと言った。


 リヨクはポンドのつぶやきに少しひっかかったが、聞きかけてやめた。


 まわりを見渡すとほかの子どもたちも、各々の騎士の指示にしたがってニヨワリに近づいている。

 空気はワクワクとした緊張感に包まれていた。


 ──ニヨワリの元まで来たリヨクとオウエン。


 ニヨワリは、近くでみると馬というより、ゾウアザラシのような顔をしており、灰色の体はツルツルで、たてがみ以外に毛は生えていなかった。


「思ってたよりおおきいね」

 リヨクは、今からこれに乗るのかと不安になりながら言った。


「かっけー……馬のボスって感じ」と言い、ニヨワリを見上げるオウエン。


「かっこいい?」


 ──リヨクとオウエンはポンドに持ち上げられ、ニヨワリの背に乗った。


「よし! あとは出発するだけだな!」

 ポンドは、オウエンにふり返り言った。


「しゅっぱーつ!!」オウエンの目はたぶん開ききっている。


 前の二人が盛り上がってるなか、リヨクはみんなから少しはなれた場所にいる、やせ細った少年が気になった。

 ポンドもその少年が気になったようで、すぐ隣にいるリゼに話かけた。


「あの子、困ってないか?」


 リゼはまわりのニヨワリを見まわし

「おかしいな…22人のはずなんだけど」と小さくつぶやいた。


 やせ細った少年はリゼの前まで来て「1人のおれはどうすればいい?」と不機嫌そうに言った。


「んー、君なら細いし、僕の神使に乗れると思うよ」

 リゼがそう答えると、少年は「いい」と言い、首を短くふった。


「困ったな……」リゼはすこし考え、言いかける。

「それなら、ポンドさんの神使に―」


 ポンドは、言葉をさえぎるように笑顔で言った。


「乗りな!」


 ──やせた少年はリヨクとオウエンが乗るニヨワリにむかって歩いてくる。


 目の前に来たやせた少年に、リヨクは照れながら「やぁ」と声をかけるが、やせた少年は目もあわせず無視した。


「……」


「少し窮屈かもしれんが、がまんしてくれよっと」

 ポンドはきまずい空気を断ち切るように、勢いよく少年を持ちあげ、ニヨワリに乗せた。


「よし! 出発前にかるく自己紹介しよう!」


 ポンド、オウエン、リヨクが次々と自己紹介をした後、やせた少年は『ユウマ』とだけ名のった。

 彼からは強い警戒心が感じられ、リヨクは仲良くなれるか不安になった。


 リゼはまわりを再確認し、話し出した。


「よーし、みんな乗れたみたいだね。今から、君たちの住む村に向かいます。おっこちないようしっかりと立てがみを掴んで──さあ! 行こう!」


 リゼはマントをはためかせ、神使と共に上昇した。


 ──次々と飛び立つ神使をみて、リヨクは恐怖で全身に力が入っていた。


「じゃ、わたしたちも続こう。ちゃんとつかまって──3・2・1!」


 リヨクたちは勢いよく上昇した。


「うぉぉお!」


 オウエンは楽しげに、リヨクは怯えながら叫んだ。

 後ろにいるやせた少年、ユウマからは何も聞こえない。


 上昇が終わり、ようやく落ち着きを取りもどしたリヨクはつぶやいた。


 ──「あー、心臓がとまるかとおもった」


 すると、後ろから「おれもやばかった」と聞こえてきた。

 リヨクがふり返ると、ユウマはライオンみたいな髪型で口をポカンとあけていた。


 それを見ておもわず爆笑するリヨクだったが、少年も笑っている。


「え?」


 じぶんの髪をさわると、リヨクもライオンみたいな髪型になっていた。


「さっきからなにわらってるんだ?」とふり返ったオウエンもライオンみたいな髪型になっていた。


 3人はおたがいを見合い、爆笑した。


 ──笑い声が空中にひびき渡る中、神使ニヨワリは静かに飛び続け、着実に目的地にむかっている──笑い終えたリヨクは、安定した神使の背から、途切れることのない花畑をユウマと一緒にながめていた。


「フン。急に静かになって、笑い疲れたか?」

 と言い振りかえるポンド。


「この花畑どこまでつづくの? ずっとみてると目がくらくらする」ユウマは下を見ながら言った。


「白い花ばっかりになったね」

「あー、酔うから『空海そらうみ』のさかなでも見ときな」

 ポンドは空に浮かぶ水のかたまりをゆび差して言った。


「てかさ、なんで水ういてるんだ?」

 オウエンが聞いた。


「……空のポケットに水が入ってるのさ」

「なるほど!」オウエンはなっとくした。


 リヨクとユウマはかおを見合い、首をかしげた。


「あいつバカだな」ユウマは小さい声で言った。

 リヨクも小さい声で笑いながら言う。「そうだね」


 ──リヨクはオウエンの肩をかるく叩き、ポンドに質問してくれるようたのんだ。


「えーと、なんで、さかなたちの、カゲがない?」


「よく気づいたなリヨクくん」


 リヨクは、聞こえてたんだと思った。


 それは『人魚の汗』の影響だよ」

「にんぎょの…汗?」リヨクはハテナ顔で言った。


「うん、この世界には人魚がいてね、人魚の汗には不思議な力があって、光のうごきをすこし変えるんだ。だから影がうつらない」


 リヨクは「ふーん」と言いしばらく空海を見ていたが、人魚は現れなかった。


「うわ、でっかい木」

 オウエンはそびえたつ巨大な切り株をゆび差し、ポンドに聞いた。


「あれが木の中の学舎、ポムヒュースだ」

「あの木から生えてる巨大な花は?」

「それはついたらリゼが話してくれるよ」

「じゃああの木からおりてくる変な乗り物は?」

「さ、もうすぐ着くよ! しっかりつかまって!」

「あの木からおりてくる変な乗り物は?」

「しっかりつかまっててよー!」


 質問し続けるオウエン。再びこわばるリヨク。

 後ろからユウマの息を吸う音が聞こえる。


(ゴクン…)


 ──神使は急降下した。


「おれのちからは神をもこえる〜〜〜!!」

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