第3話 白い街

 色とりどりの花畑から、真っ白な花畑にたどり着いたリヨクたち。


「「ハァハァハァ」」


 ひざに手を当て、げっそりしているリヨクとユウマ。

 そんな2人を見て、ピンピンしてるポンドとオウエンは笑っている。


「普通はこうなるんだけどね、オウエンはすごいな」


「……まぁね」

 ポンドに褒められ顔を赤らめるオウエン。


「アイツも照れたりするんだな」

「意外だよね」

 リヨクとユウマは、オウエンに気づかれないようにコソコソと笑っていた。


「いや、リヨクもすごいよ」

 照れ隠しなのか、オウエンは急にリヨクを褒めた。


「え…なにが?」

 思わぬ返しにびっくりして顔が熱くなっていくリヨク。

 しかし、上から聞こえてくる叫び声のおかげで、まわりに見られずに済んだ。


「きゃーー〜!」「わぁーー〜!」


 ぼくらのあとに飛び立った神使しんしが、次々と到着していく。


 神使からおりた子どもたちは、大体リヨクとユウマ同様げっそりしており、ライオンみたいな髪型になっていた。


 子どもたちは到着してすぐ、近くにある白い門にくぎ付けになっていた。


 リゼは、全員到着したことを確認し終えると、人面植物を顔に当て、話し出した。


「あの門を通ってポピュア村に行きます。僕たちについてきてください」




 ───白い門───


 次々と門を通過していく子どもたち。


 ──リヨクは、芸術的な門に心惹かれ足を止めた。


 門の形は、まるでミルクを横からぶっかけ、時を止めたようで、それがジグザグと交互に配置され奥へと続き、門全体がくねくねとした道になっていた。

 さわると軟式ボールのような感触だった。


「おいて行かれますよ!」


 リヨクは、女騎士の大きな声にビクッとしたが、話しかけられていたのは別の少年だった。


「『オモト』くん!」


 女騎士は、門にくっついている青髪の少年に呼びかけた。しかし、少年は笑みを浮かべながら門をさわり続けている。


「もう…わたしは先に行ってますからね」

 女騎士が青髪の少年をおいて門の中へ入って行く。


 リヨクは、まわりを見渡す───だれもいない。

 ──リヨクはオモトという少年と2人きりになった。


「……」


 リヨクはオモトと目が合ったが、軽く会釈えしゃくし、急いで門を通過する。


「カーン、カーン、カーン」


 大きなベルの音が鳴る。

 しかし、ベルらしき物は見当たらない──(!)

 音に気を取られていたリヨクは、ハッと我に返り、オウエンたちの後をおいかけた。


 門から続くくねくね道は意外に短く、リヨクはだれとも会うことなく一人で完走した。




 ───白い町───


「ふぅ…」


 門を抜けると、雪山かとおもうほど真っ白な町が視界にひろがった。


 地面や家、歩いている人々の服、そして町の先にそびえ立つ四角い建物も真っ白だった。


 ──軽自動車ほどの大きなヤドカリが歩いている。


 ヤドカリは白くて細い胴体に、うす緑色のやわらかそうな貝殻を背負っている。白以外の色はこれだけだった。


(ほんと、へんなとこ……)


 ヤドカリに夢中のリヨクは横から「わっ!」っと驚かされた。


「(‼︎)びっくりしたぁ」


 声の先にはオウエンがいた。

「あれ、ヤドカリじゃないらしい」


 オウエンは急に説明しはじめた。


「においを吸う植物らしくって、なんとか様はくさいのがきらいだから、飼ってるんだって。けど、デカいヤドカリも、この世界にはいるんだって」


 説明できてオウエンは満足げな顔をしている。


「え、でも歩いてるよ!?」

「うん、なんか、歩く植物もいるみたい」

「……へぇ〜、やっぱここって変なところだね。──他のみんなは?」


「あの中」オウエンは四角い建物をゆび差し答えた。


 リヨクは、オウエンと話しながら四角い建物をめざして歩きはじめた。


 ───四角い建物に向かう道中───


「気づいたらだれもいなくて、びっくりした」


「やっぱり! おれ、リヨクが困ってるとおもって、もどってきたんだ。ポンド、門に入ってすぐ『仕事が入った! すまない』とか言って、急にどっか行ったから」


「戻ってきてくれたんだ、オウエンのことだからてっきりみんなとはぐれたと思ってた」


「どうゆうこと」オウエンはむすっとした顔で言った。


「ごめん、じょーだんだよ。ありがと!」

 リヨクがそう言うと、オウエンは「…おう!」と言い、顔をそむけた。


 その後も歩きつづけるリヨクとオウエンは、たまに現れる白以外の色に目がいく。


 ──カマのような形の葉っぱで、大樽のようなみどり色のパイナップルを切っている人。


 ──もも色の茎からぶら下がるジャガイモを掴み、トランシーバーに話しかけるようにぶつぶつと喋っている人。


 ──背中から伸びた青くて長い植物を井戸の中につっこんでぼーっと立ちつくしている人。


 リヨクとオウエンは歩くたびに気になり、そのたびオウエンは質問して回ってくれた。


 しかし答えはえられず、2人は疑問をかかえたまま四角い建物の前にたどりついた。


「聞きたいことが山になってる、はやく入ろ」

「うん! ……でもどこからはいるの?」


 四角い建物の壁は、キズ一つない綺麗な白壁だった。


「とびらはどこなんだろう」と白い壁を触っていく──「うわ!」

 リヨクの手が壁にめり込んだ。


「リヨク!!」


 リヨクはオウエンに引っ張られ、尻もちをついた。

「ハァ、ありがと……」


 四角い建物の白壁に、さっきまでなかった細かいドット柄のような黒い点がポツポツと現れている。

 その黒い点はしだいに増えていき、白黒のモザイクのようにうごめきだした──そして、動きが止まると、白いキューブの中央に切れ込みを入れたように、上まで続くI字の隙間を作った。


 ──「おっす」


 壁の向こうに、手のひらを見せたユウマが立っている。


「「……」」


 ポカンとするリヨクとオウエンに、ユウマは手まねきした。


「はやく入れよ」


「「うん」」


 リヨクとオウエンは四角い建物の中に入っていった。

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