第4話 うさ耳の女性

 ───四角い建物の中───


「ひっっろ!」オウエンの声が大広間に反響した。


 建物の中は壮大に広がる、なにもない白い空間だった。


 大理石のような光沢をはなつ白い床には、青と金の幾何学模様が織りなされており、壁はまるで広大な花畑を四方に立てかけたように、多彩な花でぎっしりと埋め尽くされている。


 ──気づくと入り口は、花に埋もれて閉じていた。


「いいにおい……」


 やさしい香りが体のすみ々まで染み渡っていく───。


 リヨクは、”体がゆっくりと縮小拡大をくり返しているような不思議な感覚”になりながら奥にすすんで行き、花壁の前に集まっている子どもたちと合流した。


 花壁の中央に立つリゼと、左右に分かれ横一列に並んで立つ騎士たちは、ピンとした姿勢でなにかを待っているようだった。


 しばらくすると、花の壁は、ざわざわとゆれ動き出し、隙間から光が差し込んでくると、移動した花のあいだから水色のドレスを身にまとった女性が現れた。


 ──「うさぎさんみたい」

 くるくるパーマの女の子が言った。


 その女性は、頭から首にかけて垂れさがる大きな白いウサ耳をゆらゆらとさせながら、こちらに向かって歩いてくる。


 リヨクは、そのウサ耳の女性を見ても不思議とおどろかなかった。


 オウエンなんかが「えー! 宇宙人!?」とか言ってもおかしくない状況なのだが、他の子たちもだれ一人おどろくことなく平常心を保っていた。


 ──「ポピュア23名、お連れしました!」

 水色髪の青年リゼは、うさ耳の女性に報告した。


「ご苦労さまです、リゼ」

 そう言うと、ウサ耳の女性は、ぼくらの前まで来て話しだした。


「”地球の子『ポピュア』”のみなさん。緑の国へようこそ。わたしの名は、イン・ティスエルバ・ザード。『インザード』とお呼びください──」


 インザードの声は、やわらかくも威厳があり、その独特なひびきに、リヨクは自然と引き込まれていった。


「──わたしは知っています。みなさんが地球で、さまざまな障害に立ち向かっていることを。多くの苦労をしてきましたね。この世界では、何にも縛られず、自由に生き、あなたたち一人一人が持つ“特別な力”を見つけてください。──今日はいろいろあって疲れたと思いますから、村でゆっくりとお休みください」


 うさ耳の女性インザードが話し終えると、子どもたちはリゼに誘導され花壁の中に入って行った。


 花壁を出るとそこには白い階段があった。

 大人が100人横一列になっても少し余裕がありそうなほど広く、段数も相当ある。


「この階段を登った先に、ポピュア村があります」


 階段を登ると聞き、子どもたちはガクッと肩を落とした。


「ハァ……まだ着かないの? 最初からその村に呼べよな」

 ユウマは、果てしなく思える階段を見上げて、ぐちぐちと言い出した。


「ごめんよ。花畑で目覚めたのには理由があると思うんだ。もう少しだけガマンしてほしい」

 リゼは、ユウマに向かって申し訳なさそうに答えた。


「……ハァ。何段あるの?」


「この階段は1111段ある。君なら登りきれるさ」

 リゼは、ユウマの背中をポンポンとやさしく叩いた。


「これを登りきることができたものには、おいしいご飯がまってる。あともう少しだからがんばって!」


 リゼが疲れ切った子どもたちを励ますと、横から突風を感じた。


「うぉおおおお!」

 オウエンだ。


 リヨクも相当おなかが空いていたのでかけ足でのぼるが、途中で止まってしまう。


「「ハァ、ハァ」」


 オウエンの姿はもう見えない。


 リヨクは同じ段数で止まっているユウマと目を合わせ、うなずく。


「「よし」」


 なんとか登りきったリヨクとユウマは、ポピュア村を見てつぶやいた。


「「なにあれ」」

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