第1話 自然世界

 〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜


 幻想的なメロディが、風とともに耳にとどいてくる。

 そのここちよさに、リヨクは目を開けずにいた──。


 突然肩を叩かれ、うっすらと目をあけると、ぼくをのぞき込む男の子がいた。


 ──くせ毛でえんじ色のカンフーシャツを着た、3くらいの子だ。


 カンフー少年は、「おはよ!」と言い、ぼくの手をひき起こした。


「え⁉︎…」


 突然うえにひっぱられ、驚くリヨク。

 立ち上がったぼくは、少年の背後に広がる光景に、圧倒された。


 どこまでも続く壮大な花畑───色とりどりの花々が、風にゆれている。


 ──そして、あまいキャンディーのような匂いをのせた、さわやかな風がぼくを通過する。


「うわっ…」


 後ろによろめき、空に目が移ると、巨大ななにかが飛んでいた。


「え、なにあれ…空に…鳥? …ちがう…クジラ!?」


 透きとおった巨大な水のかたまりが浮いており、その中を、未知の生物が泳いでいた。

 クリアすぎる幻想をみているようで、リヨクは目に焼き付けようと、これでもかと言うほど目を大きくひらいた。


 感動で、全身に鳥肌がたち、鳥になってとび立つ寸前だったリヨクは、ふと我に帰る。


「※▼○□▲」


 ぼんやりとカンフー少年の言葉が、耳に入ってきたのだ。


 ふたたび少年の顔を見ると、カンフー少年はぼくに向かって話していた。


「おまえも、ここがどこかしらないの?」


 一瞬の沈黙のあと、リヨクは答えた。「しらない」


「アイツらもしらないのかな?」


 花畑の中からポツポツと、いろんな国の少年少女が顔を出している。


「おかぁ〜ちゃ〜ん」と泣きわめく子もいれば、「ねぇ! わたし足がある!」と喜んでいたり、「あーあーいーいー」と声をならしている子なんかもいた。


 ほとんどの子たちは、まわりをキョロキョロと見たり、空の海を見続けていたりと、数分まえの自分とおなじ行動をとっていた。


 ──「あの子らも、しらないみたいだね」


「え、なんでわかるの!?」カンフー少年はおどろいた様子で言った。


「そんなおどろく? なんとなくだよ」リヨクはちょっと照れながらこたえた。


 カンフー少年は、えらそうに言いながら手を差し出してきた。


「おれの名は『オウエン』、ともだちになってやる」


 リヨクは一瞬戸惑ったが、オウエンの手をにぎり返しながら、すこし挑戦的な笑顔で言った。


 ──「ぼくはリヨク。よろしく」


 オウエンはニヤリと笑い「さすがおれがみとめた男」と言った。


 リヨクは、オウエンの発言にハテナを浮かべるもうけながす。


 オウエンは、まわりにいる子たちを数えている。


 ──「…20人ぐらい?」


「うん、なんかへんな服を着た子も多いね」


 リヨクは、なぜぼくらはここにいるのかを考えはじめた。


 花畑に…空にクジラ。───もしかしてここって……天国⁉︎

 突然、周囲の子たちは騒ぎ出した。


「なにあれ!?」「すげえ!!」


 遠くの空から、天馬のような生き物に乗った騎士たちが数10人、こちらに向かって飛んでくる。


 その光景に、驚きと恐れを感じたリヨクは思わず、オウエンの肩をつよく叩きながら言った。


「あそこに! ペガ…ペゴシ…えっと、つばさのついた馬!」


 リヨクのかみかみの言葉に、オウエンは爆笑した。


 いつもなら、笑われて少しすねていたかもしれない。しかし、今はそんなことを気にする余裕なく、リヨクは天馬に圧倒されていた。


 騎士たちはやがて地上に降り立った。


 ──そして、中央にいる水色髪の青年が、一歩前に出て下馬した。


 彼はほかの騎士たちとは異なり、鎧ではなく中世っぽい白い長衣と首ボタン止めの赤いマントを着ていた。


 ──彼は手から植物を出現させた。


 その植物は、ツボ型のデブい根から、自転車のグリップほどの太さの茎がのびており、その先に人面がっていた。


 彼はぼくらの前まで来ると、人面植物を顔に当て、話し出した。


 ──すると、花畑全体から若々しく、それでいてどこか品のある声がひびき渡った。


「皆さんはじめまして。僕の名はリゼ・ティアランカ・ザード。『リゼ』とお呼びください」


 どうやら人面植物は、マイクの役割を果たしているようで、子どもたちは花から聞こえてくる声に驚きながらも、視線をリゼにもどした。


「みなさんは、地球からこの世界にやってきました──ここでは、夢の中にいると思って自由に過ごしてください。

 地球に帰りたくなったら、私たちにお伝えください。

 すぐに目覚めさせましょう。

 この世界にどれだけいても、地球の時間に影響はありません。

 ですが、ここでの命も一つ。

 居つづけたいのであれば、命は大切に。

 詳しい話はこれから向かう先にある、木の中の学舎『ポムヒュース』でお話しします」


「夢のなか?」「木の中の学舎?」

 子供たちは不思議そうにささやき合っていた。


 リゼは天馬をさすりながら話しをつづける。


「これから皆さんが住む村へ、この神使しんし{ニヨワリ}で移動します。となりの子とペアを組んでください」

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