第5話 ポピュア村①

 ───ポピュア村───


 階段を上った先につづく、白く広いみちの両側には、花や草がゆたかに生いしげり、大きな石の球体が点在している。

 そして中央にしずかに流れる小川と、みどり色の橋。

 ──のどかで独特な雰囲気がただよう村であった。


「リヨクー、あれなにかな?」

 オウエンは大きな石の球体をゆび差し言った。


「なんだろうね。さっきユウマと話してたんだけど、ドラゴンのたまごかな? って」

「えぇー! ドラゴン!?」

「タマゴであのデカさ、成長したら……」とユウマが話に加わった。


「うわぁ……」


 リヨクとユウマは、ドラゴンの大きさを想像し、圧倒されているオウエンの反応を見て楽しんでいた。


「リゼが話してる人、リゼのお兄さんかな?」

 リヨクはユウマに聞いた。


「どうだろ、髪色は同じだけど、顔はあんまり似てないし、おでこに“赤い宝石”つけてるし、身長も高いし、イケメンだし、ちがうと思う」

「んー、でも話してるときのしぐさ一緒だよ? 笑い方とか、手のうごきとか」

「……ほんとだ。やっぱ兄弟なのかな」


 まわりの子たちもがやがやと話あっており、女の子はかっこいい〜と目を輝かせていた。


 ──リゼがぼくらに近づいて来た。


「お待たせしました。それじゃ僕はここまでだから、あとは兄に任せます。またね」と言うと階段を降りて行った。


「やっぱりね!」リヨクは、ユウマにドヤ顔をした。


 その後リゼを見送ったお兄さんは、白い首ボタン止めのマントをなびかせながらぼくたちの前まで来て話し出した。


「ポピュアのみんな、はじめまして。私のことは『ルシ』と呼んでくれ。ここからは私が、この村の案内人として、君たちと一緒に行動させてもらうよ」


 リゼの兄、『ルシ』は、歩きながら流れるように村を説明していく。


 ──「ここはインザード様が君たちのために作った村なんだ。基本的にポピュア以外入ってはいけない事になってる。ここにいたら食べものに困ることもないし一生のんびりと暮らせるよ」


「この世界の食べものってなんだろうね」リヨク。

「ここ変わってるし、きっと食べものも変だよ」ユウマ。

「はらへった…」オウエン。


 ──「この橋は植物の始祖エドラという植物を使っている。この緑の国〈エドーラ〉の名前の由来にもなっている歴史の深い植物なんだ。たいへん丈夫で、枯れることもない。傷ついてもすぐ治るので、折れたり裂けたりする心配はない」


 リヨクは橋をさわり、植物であることを確認すると、なぜか妙な気分になりしばらくぼーっとした。


 ──「リヨク!」

「あぁ、ごめん」


 ──それからもルシは説明しながら村を進んでいき、大きな石の球体の前で止まった。


「このジグザグに並んでいる球体は、[クァンティラ]と言う変形する石なんだ。さわると思い浮かべたすきな形の家になるよう、“石術”のプロが設計してくれている」


 家と聞きリヨク、オウエン、ユウマは目を合わせ首をかしげた。


 灰色ロングヘアでお人形のような女の子が質問した。

「ドアも窓も、なにもないよ?」


「大丈夫。球体の中に素材が入っているから、ドアも窓も現れてくれるさ。

 それじゃ、ここに住みたい人はいますか?」


「はい!」

 オウエンがすぐ手を上げた。


「じゃあすきなものを思い浮かべてから、この球体に手をくっつけてごらん」


 オウエンはルシに言われた通り手をくっつけた。


 ──まわりの子どもたちは静まり返り、球体のようすをみている。


「うあ!」


 オウエンは声を上げ球体から手を離した。

 すると球体は、まるで生きているようにグニャグニャと動き出し、色があばれ、やがて虎の形となった。


「すごい。よく想像できたね」

 オウエンは虎の形となった球体をみて口をぽかんと開けている。


「ここが君の家だ。口が入り口みたいだ、入ってごらん? 中には、生活に必要なものが揃ってある」


 虎の形をした家に入ったオウエンはなかなか出てこない。

 気になって入ろうとする青髪の少年、オモトを引き止めるルシ。


「ここはオウエンの家だ。気になるなら君たちもはやく球体にふれてみるといいよ」


 ──子どもたちは球体目掛けて走り出した。


「ちゃんと思い浮かべないと変な家になるよー!」


 もはやルシの声はみんなに届きはしない。


 リヨクも家にする球体を選びだした。


(オウエンの隣はうるさそうだし…入り口から遠いのもなぁ…端っこだと中央に比べてにぎやかじゃないから、オバケとかに狙われやすくなりそうだし…)


 ──色々と考えすぎて中々決めきれずにいる間に、次々と形を変えていく球体。それを見てあせるリヨク。


 結局、最後にのこった球体が自分の家になった。


(結局、端っこになっちゃった。ま、いっか)


 すきなものを思い浮かべて──深呼吸をして球体に手をくっつける。


 ──すると、球体は形を変え出し、1分も経たない内にうごきが止まった。


「は? ……なにこれ」


 “カブトムシの角が生えた、歯を見せわらう女性の顔”になった。


 ──もう一度ふれてみるが、形はもう変わらない。


 これはまずいと頭を抱えるリヨク。

 家を見回っているオウエンとユウマが近づいてくる。


 ──「リヨクーー! え? 、なんだこれ」オウエン。

「これがいちばん変な家かも」ユウマ。


 2人に家を見られ、からかわれるリヨクであった。

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