ポピュア村②

「ぷっ、アハハハハハ」、「やばい、腹ちぎれる」


 リヨクの家を見て笑い転げるオウエンとユウマ。

 ぼくは、そんな2人を何も言わず立ち尽くして見ていた。


 ──「おわった?」

 リヨクは、無表情のまま静かに言った。


「うん、くすん」オウエンとユウマは鼻を軽くすすった。


 ──「おーい、一旦家から出て来てくれるかー」

 ルシは子どもたちを村の中心に集めた。


「盛り上がってるところ申し訳ないが、ごはんの時間だ」


 ルシについて行き、村の奥に進んで行く───すると、大きな木が見えて来た。


 二メートルほどの高さがある門をくぐると、大きな木の下に、手入れされた芝生が広がっている。


 芝生には、ねじれた植物に持ち上げられた、大きさのちがう石のテーブルがポツポツとあった。


「みんな、適当にテーブルの前に立ってくれ、椅子は私が用意する」


 ──リヨクは入り口から一番近くのテーブルの前に立った。テーブルはおなかぐらいの位置だった。


「リヨク! 一緒に食べようぜ!」オウエンだ。

「いいよ!」

「おーい、お前もこいよ」

 オウエンは、ユウマと、一人でいた黒髪の少女を手招きした。


「おれは元々リヨクと食べるつもりだったんだよ」

 と言うユウマと、自分をゆび差し戸惑う黒髪の少女がやってきた。


 ルシはテーブルを順にまわり、リヨクたちのところにもやって来た。


「えーっと、君はこのくらいかな」

 ルシはリヨクを見てそういうと、リヨクの足元に手をかざす。

 ──すると芝生の一部が成長し伸びていく。

 どんどん伸びていく芝に合わせ、かざしていた手のひらを返し、巻き込むように手を上げる。

 ───伸びた芝は絡まり合い、一本の太いつなのようになっていった。

 ──芝生はルシの頭を超えたあたりで、成長が止まり、ゆっくりと手のひらを下に向け下ろしていく。

 ───すると、綱のようになった芝生はくるくるとうずを巻きながら下がり、やがて逆円すい型のくぼんだ椅子になった。


「すご、コップみたいなイスになった! ……今のルシがやったんだよな?」

「そうだよ、簡単な技だから君たちもすぐ出来るようになると思うよ」

「おれもやりたい!」

「今!? …わたしは教えるのがヘタなんだ。明日学舎で教えてもらってくれ」

「えー……」


 ルシが子どもたちみんなの椅子を作り終えると、テーブルに、ベル型の葉っぱが運ばれてくる。


「これって、料理にかぶすあれだよな?」

 ユウマがリヨクに聞いた。


「たぶん」リヨクは見たことない葉っぱを観察しており、適当に答えた。


「まだ食べちゃダメな感じ? 自由にっていってたし、もういいよな?」

 オウエンは開けたくてウズウズしている。


 ──「運び終えたみたいだね、じゃ食べよっか」


 ルシの合図と同時にオウエンは料理に飛びついた。


 リヨクも食べ始める。

 ──オープン! すると湯気と共に解放された匂い。嗅ぐだけで美味しいとわかる。


 湯気が消えると、そこにはリヨクの大好物があった。


「え! オムライス!?」


 ユウマと黒髪の少女からもおどろく声が聞こえてきた。


「寿司!?」

「あんわーう!!」


 どうやらそれぞれの好みに合わせた料理が用意されていたらしい。


「「いただきます」」、「いやぁます」


 リヨク、ユウマ、黒髪の少女は手を合わせ食べ始めた。


「これ、母さんの味だ……」

 リヨクは驚きながらも手を止めることなくぺろりとたいらげた。


「ふぅ……ごちそうさまでした」


 前を見ると、オウエンは寝ている。


(動物だ)

 リヨクは心の中でそう思った。


「ほんと動物みたいだなこいつ」

 ユウマはリヨクと同じことを思っていた。


「リヨクさっきいただきますって言ってたよな?」

「うん、言ったよ」

「日本人?」

「そうだよ、ユウマもそうでしょ?」

「うん、リヨクしってたんだ。おれ、リヨクのことオウエンといるから中国人だと思ってたよ」

「ちがうよ、この格好みてよ」

 リヨクが自分が着ている、小学生の制服をつまみ、話していると、同じテーブルにいる黒髪の少女がなにか言っているのが聞こえてきた。


「ん?」

「わらいも!」

「わらい? そんな話してないよ」横にいるユウマが変な子といった目をしながら言った。


「きみも日本人なの?」リヨクは少女に聞いた。


 うなずく少女。


「え? リヨクこの子がなに言ったかわかったんだ」

「うん、なんとなくわかった。この子たぶん耳が聞こえなかったんじゃないかな?」


 少女は何度もうなずいている。


「やっぱり」

「え、聞こえてるじゃん」

「たぶんこの世界に来てから、聞こえるようになったんじゃないかな?」

「夢だから?」

「わからないけど。リゼたちが来る前、花畑で足がある! っておどろいてた子もいたし、この世界に来るといろいろ治るのかもね」


「へぇ〜、じゃあ、これもそのうち消えんのかな」

 ユウマはお腹の火傷跡を見せながら言った。


「え……それってやけど?」

「そう。消えないかな」

「んー、ルシなら治す方法しってるかも」


 ──「みんなちゅうもーく」


 子どもたちは視線をルシに向けた。


 ルシのとなりに、みどりのエプロンを着けた、ふくよかなおばさんが立っている。


「みんなのごはんを作ってくれた『トリルト』さんです。

 この方は、ポピュア村の料理人として、いつでも皆に食事を作ってくれます。これからも、ここに来れば彼女が作った料理を食べることができます。──さて、もう日が暮れてきたし、家に戻るとしよう」


 やさしく笑うトリルトさんに見送られ、子どもたちはルシにしたがって食堂を出た。


 ──ルシは、ポピュア村の中央で足を止めた。


「あーそうだ、言い忘れてた。──家に入ると、棚の上にリュックが置いてあるはずです。

 明日、学舎見学に参加する人はそのリュックを持って、朝、ここに集まってください。

 学舎でリュックの中身の使い方を説明するので、中身は触らずそのままにしておいてください。それじゃ、また明日」


 子どもたちは「はーい」と元気よく応えると、それぞれの家に入っていった。




 ──カブトムシの角が生えた、歯を見せわらう女性の顔の家についた。


「はぁ……」


 リヨクは、ため息をつき、下の歯を押す。

 すると家の中に入れた。


「え、すご」

 ふざけた形の家だが、室内はまとも過ぎるほどよくできていた。


 真っ白な空間は、十畳ほどの広さがあり、天井は高く10メートル程。

 ──それと、綿わたでできたふわふわベッドが一つと、その横に、観葉植物。

 壁際に、長い、棚のような三つの窪みがある植物が一つあり、上段には葉っぱでできたリュックが置いてあった。


 リュックの中には3つ物が入っていた。


 1つは、厚みのある本。


 表紙に、『自然の生態と接し方ヤァフィムネリーピ』と書かれていた。

 チラッとページをめくると、植物や動物、人の絵が描かれている。

 見たことない文字で書かれているが、なぜか読めた。

 おそらく教科書なのだろうと思った。


 2つは、白い手帳。ゴムのような質感で、ハミ出している白いなみなみが交差し閉じられている。白い町の門とよく似たデザインだった。

 開いてみたが、紙には何も書かれていない。

(メモ帳かな?)


 3つは、植物の皮でできた黄みどり色の小袋。中に500円玉ほどの謎のタネがぎっしりつまっていた。


 リヨクは一通り部屋を見てまわると。ベッドに潜り込んだ。


「はぁ……」


 ふわふわで疲れが飛んでいく───。


 ──リヨクは不思議な一日を振り返っていた。


 どうやってここに来たっけ……そうだ、月に吸い込まれたんだ! じゃあ、ここは月の中ってこと?

 母さん心配してるのかな……けど、まだ帰りたくない。


 地球の時間に影響しないって言ってたし、大丈夫だよね。

 きっとあの天使がつまらない毎日からぼくを助け出してくれたんだ。


 地球に帰ったら嫌な毎日が待ってる。だから、この世界を飽きるまで楽しんでやる。


 リヨクは、わくわくしながら眠りについた。

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