第11話 ノコノコと近づいてくるマヌケ
「で、何で俺に着いて来るわけ?」
「別に深い理由があるわけじゃないさ、たまたま同じ帰路についているだけだ。意外と僕たちは住んでいる家が近いのかもしれないね」
というのは黄畠の弁。この豊満な男装美少女ボーイは何とは無しにそう言ってのけた。
何で、と理由を聞いてみたが、正直なところ別にそこまで興味は無かった。ついて来たいのならばそれが勝手にすればいいし、こちらも何と無くただ理由が知りたかっただけなのだ。
「僕はね、今日という出会いを大切にしたい。君と友達になりたいんだ。折角隣の席になったのだから、親交を深めたいと思うのはおかしいことかい?」
「いや、別におかしかないけど……。お前って意外に強引なんだな」
「そうかな? 僕は昔からこういう感じなんだが」
昔からね。こういう言い草はとある人物を思い出す、二年間を共にした親友のあいつを。
顔は全然似てないんだけど、中身がな。基本的に真面目なのに、どこか天然が入っていた勇者を。
ま、今はそんなこといいか。友達になりたいって言うなら断る理由もない。
話せないことは多いが……、これからのアドバイスでもしてやろうか。こいつの体が元に戻ることはおそらくないだろうからな。これでも罪悪感は十分にあるつもりだ。
「じゃあ早速友人として一つ忠告させてもらうが」
「うん、何だい? 是非言ってくれ。友人としての最初の言葉、心に刻んでおきたい」
やっぱ変に熱い奴だなぁ。
最初にこいつに抱いていた、クール系学級委員の印象が薄れてしまったが。だからといって別に悪い奴じゃないから何も問題は無いか。
「下はともかく、上の方はきっちり女物を買った方がいいぜ」
「下? ……上? 一体何のことを言って」
「だからさ、お前胸がデカくなったろ? ブラはちゃんと選んで着けた方がお前の為だって事」
流石にこいつの聡明な頭でも理解するのが難しかったらしい。だから今度は丁寧に教えた。
それでも一瞬間が空いて、そうしてだんだん顔が真っ赤になって行く黄畠。理解したと共に羞恥心が湧き上がったようだ。
「な!? あ、いやっ。……だ、だが僕は女性の見た目になったとは言え性別が変わったわけじゃない! べ、別に気にする必要は無いんじゃないかな?」
「いやきっと苦労することになると思う。胸が前に突き出た分、服に擦れるようになってその内痛くなるはずだし、それでも放置したら血が出るぞ」
こいつも今はDカップ程の巨乳だ。恥ずかしいだろうがブラジャーを着けないのは不味い。乳首が服に擦れるのを防ぐ為だけじゃない、デカくなった分きっちり固定しないと乳腺が圧迫されて将来垂れる可能性だってあるし、あと単純に胸周りが痛くなって来るはずだ。
「俺は分からないが、将来的に結構苦労するらしいぞ。悪いことは言わない、ここはダチの忠告を素直に聞くべきだ」
「君の言い分は分かった。し、しかしだな。僕は見た目以外男な訳で、そんな人物が女性向けの下着を買いに行くなど。それはぁ……あぁいやちょっと……」
確かにこいつの性格上、これ以上ない程に厳しい話だろうな。このドモりようからも納得しても実行に移す勇気が見えないのが分かる。
向こうの世界だと、俺に依頼する男も多かった。パーティーメンバーにバレない程度の小遣い稼ぎに引き受けていたが、その手の連中はむしろ嬉々としてどんな服やら下着やらを身に着けるかを楽しんでいたな。そういう事をするのも目的だから俺に依頼して来たんだろうが。
でも黄畠は違う。完全な不可抗力で体が変わってしまったんだし、覚悟を決められないのは仕方がないのかもしれない。俺の責任だから放っておく訳にもいかないしな。
「買うのが恥ずかしいなら身内から借りるか? お前の母親か、姉妹がいるならそこからとか」
「いや、そっちの方が恥ずかしいよ! ……あ!?」
黄畠が急に大声を上げる。声も女になってしまったせいか、野太い感じがしないな。
しかし、一体何がどうしたんだ?
「そうだ、僕はこの姿のまま家に帰らなきゃいけないんだ! 家族にどうやって説明をしたら……病気だと言っても納得しづらいだろうし、そもそも信じてくれるかどうか」
ああそうか、確かにその問題もあった。この姿のままいきなり家に帰ったら誰かわかんないだろうし、冷静に話が出来る第三者が必要かもしれない。俺も一緒に行った方がいいかもな。
「そうだな、俺も一緒に行って説明してやるよ。今日からの付き合いとは言えお前には世話になったし。これからの服やらないやらは、それをクリアしてからだな」
「江野君、君って奴は……なんて友達思いなんだ!! 今日という日をきっと忘れないだろう、君という親友にめぐり逢えたこの日を!」
「いや、大袈裟だって……」
お前が親友と呼んだ男はお前に対して相当酷い事をしてるわけで。罪滅ぼしで動いてるだけの男なんだよな。それを口に出すわけにはいかんが。
一人熱くなる黄畠を連れたって、俺は黄畠の家族への説明をしにこいつの家へと向かうのだった。
――のだが……。
「おい、そこの冴えないツラしたヤツ。随分イイ女連れてるじゃねぇかよ。ゲッヘッヘ」
「あん?」
不意に浴びせられる下品な笑い声。どうやらひと悶着がやって来たみたいだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
申し訳ございませんが、当作品は予告通り今回を持ちまして終了とさせていただきます。
今回で最後になりますが、応援、フォロー、★等をしていただけると嬉しく思います。
では、またどこかで。
異世界帰りの男は知っていた、何事も力で解決した方が手っ取り早い~容赦しない事を覚えて来た男の蹂躙伝~ こまの ととと @nanashio
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