第4話 筋肉包囲網

 オリエンテーション3日目は体育館を使ってレクリエーションのバレーボール大会だった。


「アターーック!!」


 俺がレシーブして岡本がトス、そして西野のスパイクという綺麗な三段攻撃が完成して相手コートに突き刺さる。


「いえーい完璧ぃ!」

「ナイス西野っ」

「鷹宮くんもナイスレシーブ!」


 西野と2人でハイタッチを交わした。


「ほら岡本くんも。いえーい」

「い、いえーいっ」


 ぺちりと岡本も遠慮気味に手のひらを合わせる。

 その調子で3人の連携による得点を重ね、試合に勝利し続けた。


「これにて優勝。いやー楽勝だったね」

「西野、めちゃくちゃ上手かったけどバレー部だったのか?」

 

 男女混合戦の中、小柄だというのに驚異的な跳躍と強烈なスパイクで圧倒的な活躍だった。


「ううん、ぜーんぜん」

「マジか」

「わたしって、センスだけで生き抜いてきたような女だから」

「才能マンだな」

「才能ガール!」


 やっぱり現役合格者はモノが違う。何事も器用にこなせるタイプなのだろう。


「てか優勝賞品地味に有り難くね?」


 優勝チームには一人一人に大学の食堂無料券が1週間分送られた。

 実益があって、それでいてガチになるほどでもないほどよいラインをついていると思う。


「さっそく学食で使おうぜ!」

「せっかくなら1番人気の第1行こうよ! 今日からやってるって聞いたよ!」


 居ても立っても居られない様子の西野と岡本に続いて学食を目指した。


 第1食堂。

 いくつかの本格料理店が立ち並ぶフードコートのような佇まいのその場所は、言うなれば先輩リア充たちの巣窟だ。グループ単位で常に席取りが行われているらしく、新入生にとっては非常に立ち入りにくい領域と言えるだろう。

 今日のところはサークル活動などで春休みを返上して登校している先輩たちのたまり場となっていた。

 幸い、席はいくらか空いている。

 岡本は先輩たちの視線にかなりビビっていたが、西野が臆せず我が物顔で席を取ってくれた。

 行儀の悪い大学でもないため、視線はあれど先輩たちから絡まれるようなことはなく、無事に食事にありつくことができた。


「んんー! なにこれ、イタリアンレストラン!?」

「クソうめー!?」


 西野はカルボナーラを、岡本は石焼ビビンバを食べながら感激してまるで雄叫びのような声を上げる。

 俺が頼んだナンカレーは本格的な味わいで、詳しいことはわからないがとにかく美味い。


「2人とも食べ回しいけるか?」

「いけるいける!」

「じょじょ女子と……間接キッス……!?」

「おま、そういうこと言われるとやりにくくなるだろ……」


 西野は乗り気だったが岡本がキモくなりそうだったので、結局食べ回しはしないことに。

 それでも、各自が頼んだメニューに大満足できたランチだった。

 少々値段が張ることだけがネックなため、食堂無料券は必ずここで使おうと3人で誓い合った。

 

 

 午後からはフリーとなっている。新生活の休養と共に、サークル見学や履修登録のための時間ということだろう。


 俺たちはそのまま3人でサークル見学をすることにした。


 キャンパスに出るとそこら中で先輩たちが新入生を捕まえてサークル勧誘に精を出している。


「ここらはアウトドアとスポーツ系が多そうだな」


 そもそも勧誘に積極的なのがその手のサークルなのだろう。


「2人は何か希望あるの? このサークルがいいとか」

「俺は特にないから2人に任せる」

「オレは女子がいるサークルならどこでも」

「明け透けにもほどがあるわ」

「うるせえやい」

「西野は?」

「私は、うーん、文化系かな〜」


 バレーボールの活躍を見た後だと少し意外だった。しかし他に希望はないし、それを優先しよう。


「じゃあ、ここはスルーしてサークル棟に行ってみよう」


「ありがと。そうしよっか」


 サクッと意見がまとまる。

 それからなるべく勧誘に巻き込まれないようコソコソと忍び足でサークル棟を目指そうとしたのだが……


「あっ、そこにいるのはもしかして——鷹宮くんかな?」


「げっ」


 突如として現れたのは同じアパートの先輩、椎名真里さんだった。

 引っ越し後からちょくちょく絡まれて、もはやお馴染みになった刺激的なセパレート姿である。


「ようこそ筋肉研究会へ! やっぱり入会してくれるんだね!」


「あんたを尋ねた覚えは一切ありませんが……!?」


 そっちから来たんだろうが!?


 気づいたら筋肉ムキムキの大男4人ほどに囲まれている。ガチ目の恐怖を感じた。


「嬉しいよ鷹宮くん。やっと私の愛が通じたんだね。君の筋肉は本当に素晴らしいんだよ。ぜひとも、ぜひとも、私に育てさせてほしい。もちろん、マンツーマンで、ね……」


 うっとりと囁く椎名さんは、まったく人の話を聞いていない。

 筋肉の話になるまでは普通の人だと思っていたのに……。


「おいてめぇ鷹宮、これはどういうことだ」

「はぁ?」


 今度は岡本に両肩を握って詰め寄られる。


「この腹筋バキバキの美しいお姉様は誰だって聞いてんだよ!?」


 こっちはこっちで面倒くさいなぁ!?

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