第11話:噴水に入ったら有名人になりました

 翌日。朝のホームルーム前。俺は自分の席で頭を抱えていた。

 つい昨日、高校入学を機に十数年前に離れ離れになった幼馴染と再会した。見た目はともかく、中身は昔と変わっていないことに安堵したまではよかったが、まさか一緒に噴水に飛び込むことになるとは思わなかった。


「昨日は大活躍だったみたいだな、五木」


 キヒヒと気色の悪い笑みを零しながら和田が早速声をかけてきた。表情と口ぶりとから察するにあの話は広がっているらしい。


「……一体全体何の話だ? 俺にはさっぱりわからないな」


 俺の気のせい、考えすぎという可能性が万が一、億が一あるかもしれないのでとりあえずすっとぼけてみる。


「惚けても無駄だぜ? 昨日、花園環奈と一緒に噴水にダイブしただろう? もう学校中の噂になってるぜ?」

「……やっぱりそうか」


 周囲から向けられている奇異の眼差しや、耳に入ってくるヒソヒソ話は俺の勘違いではなかったようだ。入学二日目にして早くも人気者になるとはな。


「昨日確認しそびれたんだが、五木と花園環奈って古くからの知り合いなのか? もしかして幼馴染とか?」

「もしかしなくても幼馴染だよ。最後に会ったのは十年以上前だけど」

「つまり感動の再会ってやつだな。噴水に入りさえしなければ完璧だったな」


 そう言って再び笑いながら肩を叩いてくる和田。朝から鬱陶しい絡み方をしてくるが、彼なりの気を遣ってくれているのかもしれない。触らぬ神になんとやらとされるより、こうしてからかってくれた方が俺としてもありがたい。


「まぁそういうところも含めて昔と変わってなくて俺としては安心したけどな」

「躊躇うことなく噴水に入る的なことを十年以上前からやっていたのか。それはそれで驚きの新事実だな」

木乃伊みいら取りが木乃伊になるところまで変わっていなかったのは驚いたけどな」

「違いねぇ。それで。その肝心の幼馴染様はまだ来てないみたいだけど一緒に登校して来なかったのか?」


 和田が視線を向けた先にあるのは環奈の席。だがそこに本人の姿はおろかカバンすら置かれていない完全な無人だった。


「もうすぐホームルームが始まるぜ? まさか二日目で寝坊して遅刻ってわけじゃないよな? それともまたどこかで人助けでもしているのか?」

「どうして俺に聞くんだよ、って言いたいところだけど朝一で連絡があったよ。今日は仕事の都合で休むってさ」


 ずぶ濡れになった環奈を自宅に招いて風呂に入らせたまではよかったが、その後調子に乗って誘惑してきたので制服が乾いたタイミングで即刻帰宅させた。

 小悪党よろしく〝覚悟の準備をしておいてください〟と言い残して去って行ったのだが、まさか学校を休むとは。これはさすがに予想外だった。さすがに学校をサボって仕込みなんてするはずないよな。


「花園環奈は社長で全国飛び回っているって話だからな。まぁそういうこともあるか」

「そう言えば環奈の会社が何をしているか聞くのを忘れてた。何をしている和田は知ってるか?」

「そりゃもちろん。というか昨日見せた記事をちゃんと読んでないな? あそこに全部書かれているから暇な時に読んでみろよ」


 きっと驚くぜ、としたり顔をする和田。当事者でもないこの男が自慢げにしていることに若干苛立ちを覚えるが後で確認してみよう。


「みんな、おはよう―――!」


 そんなことをぼんばりと考えていたらチャイムが鳴り響く。それと同時に教室の扉が勢いよく開き、担任の簾田先生がやって来た。


「昨日はよく眠れたかな? テンション上がって夜更かしして寝坊して遅刻した子はいない? ちなみに私は徹夜明けです!」


 ナハハと笑いながら教壇の前に立つ簾田先生。中学時代の恩師の口癖は〝教師仕事は疲れるからさっさと辞めたい〟だったので、この人は相当の元気自慢のようだ。単に恩師が不真面目という説もあるが。


「早速一人所用で欠席だけど今日からが本当の高校生活のスタートだからね。みんな、気を引き締めるように───っていないのは花園さんだけだよね? 笹月さんは来ているよね?」

「───先生、私ならここにいるよ」


 すぅと手を挙げながら、透き通ったガラスのような綺麗な声で自分の存在をアピールする一人の女子生徒。簾田先生を含む教室にいる全員の視線が彼女に集中する。あの子は確か昨日和田が話していた笹月美香さんか。先生の目の前に座っているのに認知されないのは気の毒だな。


「うん、来ているならよしっ!」


 その反応でいいのか、と俺は心の中で思わずツッコミを入れる。だが俺以外の生徒は何事もなかったように平然としている。もしかして環奈と同様に笹月さんの姿を認知できないのはこの学園では日常茶飯事なのかもしれない。


「それじゃ一日張り切って行こうか! 今日の予定だけどまずは───」


 田舎と違って都会にはいろんな人がいてある意味怖いな。なんてくだらないことを考えながら簾田先生の雑談混じり話を聞くのであった。



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【あとがき】

読んでいただき、ありがとうございます。


話が面白い!環奈可愛い!他のヒロインはよ!等と思って頂けましたら、

モチベーションにもなりますので、

作品フォローや評価(下にある☆☆☆)、いいねをして頂けると泣いて喜びます。

引き続き本作をよろしくお願いいたします。

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