水の光に包まれて
水族館の中の淡い水色の照明はとても心地よく、そういう演出なんだろうけどまるで自分も海の中にいるように思えてホッとする。
そんな気持ちになると、人が太古の昔に海からやってきた、と言う話を実感するな・・・
「あ、イワシのトルネードがあるみたいだよ」
西館君が子供のようにはしゃいだ口調で言う。
見てみると、ひときわ大きな水槽内のどれだけいるのか・・・数百匹はいるであろうイワシの群れが一斉に動き出した。
一つの生命体にも見えるその整然とした動きは、見ていて目を奪われる。
「凄いな・・・」
西館君の夢を見ているような表情を横目で見ながら、思わず微笑んでしまう。
「え?何?俺、何か変な顔してた?」
僕の視線に気付いたのか、西館君が照れくさそうに言った。
「ううん。なんか・・・子供みたいで可愛いな、と思って」
「え!いやいや、勘弁してよ。俺、クラスやバイト先はそんなキャラじゃないんだから」
「あ、じゃあクールキャラなんだ」
「そうだよ」
「ふふっ、今は可愛いと思うけど」
「勘弁してよ」
そう言って照れくさそうに笑う彼の様子に、僕もクスクスと笑う。
夢のような時間はいつも駆け足で過ぎていく。
お昼ご飯を水族館内のフードコートで食べた。
西館君がカレーを頼んだので、僕も合わせたけど汗が沢山出たので(臭くなっちゃう・・・)と焦ってしまった事。
イルカショーを見ている時に、水しぶきがかかった僕の服を西館君がそっと拭いてくれたこと。
全部動画にとってずっといつでも見直せたらいいのに・・・と思ったほど。
僕らは最後にペンギンのコーナーを見ようと、そちらに向かった。
周りは偶然なのかカップルが多い。
僕らもそう見えてるのかな・・・
そんな事を思いながら歩いていると、西館君が急に立ち止まって僕の方をじっと見た。
・・・どうしたんだろう。
キョトンとしながらじっと見ていると、少しして彼はキツく目を閉じて言った。
「俺のこと・・・どう見える」
え?
どう・・・見える・・・って。
「それは・・・いつもと同じ西館君だよ」
「そう・・・だよな。うん、そうとしか言えないよな。ごめん」
彼はそう言うと、僕をじっと見てややあって絞り出すように言った。
「ちょっと外・・・歩かない?」
水族館は港に隣接しているため、僕らは近くにある臨海公園を歩いていた。
夕方の深い朱色は何とも言えない不思議で・・・妖しさを感じさせる色だ。
でも、その妖しさが西館君の様子もあって不安感をかき立てる。
「ねえ・・・何かあったの?」
おずおずと話す僕の顔を見ずに西館君は言った。
「俺・・・野球辞めたって言ったけど・・・先輩に暴力振るわれてたんだ」
え・・・何でその話?
「その時、助けてくれた奴がいた。俺はそれ以来居づらくなって部活を辞めたけど、代わりにもっと夢中になれる物を見つけた。でも・・・助けてくれたそいつは学校に行けなくなった。・・・俺のせいで」
僕は心臓が早鐘のように鳴るのを感じた。
全身から汗が止まらない。
なんで・・・それをここで言うの?
「そいつに会ったけど、俺を責めたりしなかった。そいつは、中学の時から俺を応援してくれてたんだ。こんな中途半端な選手の何が気に入ったのか分からないけど・・・最初は何とも思わなかったけど、いつの間にかそいつが見てくれてるから、頑張れるようになった。俺なんかを応援してくれてるんだ・・・と思って。でも・・・今、そいつは・・・」
西館君はそう言うと、両手をギュッと強く握って俯いた。
そして・・・
「えっ!」
僕は思わず声を上げた。
西館君はその場に土下座して大きな声で言った。
「ゴメン!君とはもう会えない」
僕は混乱する頭で西館君をボンヤリと見た。
そしてようやく言葉を出した。
「あの・・・どういう・・・」
「俺・・・多分そいつの事が・・・好きなんだ。・・・君を騙してた」
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