青天の霹靂
西館君が・・・
僕は少しの間頭が真っ白になり、すぐに返事が出来なかった。
「どうしたの・・・大丈夫?とにかく、せっかく来てくれたんだから挨拶くらいしなさい。それか、上がってもら・・・」
「ダメ!今日は・・・無理!」
「そんな失礼なこと出来ないでしょ。追い返すなんて。リビングで待っててもらうから、早く来なさい」
母さんは軽くため息をつくと、ドアを閉めた。
冷や汗でシャツがグッショリと濡れてしまったせいか、ヒンヤリして気持ち悪い。
顔の血管がドクドクと大きく脈打っているのが分かる。
バレた・・・
もうそれしか考えられなかった。
でも何で?
僕はその考えを打ち消した。
何でも何もない。
この前、化粧が崩れたとき意外考えられない。
それか、その後の声か振る舞いか・・・
とにかく、会わなきゃ。
会って確かめないと。
身体が酷く冷えるのはきっと濡れた服だけのせいじゃない。
こんな格好で会いたくない。
って言うか、本当は瀬能良樹として会いたくない。
不登校の引きこもりで、好きな人を騙してもてあそんでいる、こんな人間として。
でも、そうも行かないので僕はノロノロと服を着替えて、鏡で出来るだけ髪を整えた。
せめて、少しでもマシな自分で・・・
酷く重い足を無理矢理持ち上げるように階段を降り、リビングに行くと紛れもなく西館君だった。
珈琲の優しい香りの中ソファに座って、所在なげにカップを口に運ぶ西館君を見ると、心が浮き立ってしまう。
普段、何とも思わない珈琲の香りが部屋の空気も変えているように感じる。
こんな状況なのに・・・
僕はどうしたらよいか分からず「こんにちは」と出来るだけ低い声で言った。
西館君は弾かれたように僕の方を向くと、ぎこちなく「こんにちは」と言って、微笑んだ。
どうしよう・・・
僕は向かいのソファに座るとあらためて頭を下げた。
「あ、あの・・・今日は何で?」
ばか!来てくれた人にいきなりそれ?
僕は自分のぶしつけな言い方に自分の頭を叩きたくなった。
でも・・・もう冷静な考えは出来そうに無い。
(なんで騙してたの?)
(一体どういうこと?)
そんな言葉が来ることにひたすらビクビクしていた。
一刻も早くこの場を終わらせたい。
そして土下座でもして謝って・・・もうカフェに行くのはやめよう。
「あの・・・」
西館君が小さな声で言った。
来る・・・!
僕は胃の中の物が逆流しそうな不快感を抑えながら、じっと彼の顔を見る。
そして西館君は・・・
「ゴメン!」
そう言って立ち上がると、深々と頭を下げた。
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