思わぬお客様

佐和子さんのアパートでメイクを落としてもらった僕は、家まで送ってもらい部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。

身体が鉛のように重たい。

お風呂に入りたかったけど、どうしても身体が動かない。

明日は特に予定は無いからこのまま寝ちゃおう。

佐和子さんの家庭教師も明日は無いから。

まるで3日にも4日にも感じられるくらいの一日だった・・・

携帯を確認すると、西館君からラインが入っていた。

今まで怖くて携帯を見れなかったのだ。

内容は、今日の映画館のお詫びだった。

そして、良ければまたカフェに来て欲しい、と言う物で映画やデートの事は全く書かれていない事にホッとした。

西館君にしてしまったことや、佐和子さんからの言葉・・・西館君とのこれから、の事がグルグル頭を回っていて、デートとか映画はキャパオーバーなのだ。

僕は「私こそご免なさい。またカフェには行きたいので、よろしくお願いします」と、ボンヤリする頭で何とか返事を返し、それで力を使い果たしたかのように、そのまま眠りに落ちていった。


翌日は、前日の非日常感の穴を埋めるようにいつも通りのルーティンを忠実になぞった。

朝起きてイチゴに水をあげてから朝食を食べ、部屋に戻って携帯でゲームやユーチューブの動画配信を見たり、読書したり。

その後は勉強をして過ごす。

佐和子さんからはラインは無かった。

言葉通り、僕からの返事があるまで待ってくれているのかな?

あの人の性格だと、明日の家庭教師の日もいつもと変わらない様子で接してくれそうだ。

「あれ」はどうしよう・・・

先日、西館君にはカフェに顔を出すとは言ったけど、まだ辛かった。

野球を諦め、どんな心境でカフェでKJ:3333バイトしてるんだろう。

そんな事が浮かんでしまう。

ため息をついて、参考書を閉じる。

そして、引き出しから小さな鏡を取り出す。

ゆっくりとのぞき込むと、そこには切れ長の目と小さな鼻。プックリとした唇。肩まで伸びた髪を持っているけど、紛れもない男子の顔が映っていた。

軽く目を閉じキスをするような表情を作ったが、すぐに恥ずかしくなり苦笑いと共に鏡を引き出しに仕舞った。

その時、ふと玄関で何か話し声が聞こえる。

何だろう?来客かな?

耳をそばだてるけど、誰の声かまでは分からない。

すると、階段を上がる足音が聞こえてきた。

僕?

緊張が走り、身体を思わず硬くするとドアが開き母さんが顔を覗かせた。

「良樹、今ちょっと大丈夫?」

「え?何・・・」

僕への来客なんだ。

先生かな?と、しか考えられない。

それか、不登校児のための何かの機関?

でも、母さんの言葉に僕は思わず目を見開いた。

「隣のクラスの・・・西館君って子が来たんだけど。どういう関係?」

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