何でその恰好なんですか!
「……何やってたんですか」
スーパーに寄って米を買い、なるべく急いでアパートに帰ると冷華さんは部屋の前で体育座りしていた。
それだけならただ待っていただけなのだが、スーツや頭に猫の毛がついている。
すると冷華さんは涙一杯で震えている瞳をこちらに向けながら、あわあわと口を開いた。
「栄一くん……。私って動物に嫌われてるのかな」
「……また逃げられたんですね」
問いかけると、冷華さんはゆっくりと首を縦に動かした。
その様子は本当に子どものようで、やはり感覚がおかしくなってくる。
年上……付け加えるなら担任の先生のはずなのに、どこか可愛いと思ってしまう。
庇護欲をかき立たせるというのか。
それともこれが所謂『母性』というものなのだろうか。
「とりあえず家入りますよ。お米も買ってきたので」
思考を回せば永遠と考え過ぎそうなので、程々のところで切り上げてから玄関を開ける。
……俺が最後に家出て良かったな。
もし冷華さんが後に出たとするならば、今度は家の鍵を閉め忘れていたことだろう。
「俺はご飯温めておくので、先生はシャワー浴びた方が良いですよ。猫の毛めちゃくちゃついてるので」
「栄一くん本当に優秀だね……。もう私の専属メイドにならない?」
「そこはせめて執事にしてくださいよ……」
適当なツッコミを入れつつ冷華さんを浴場へと誘導し、俺はリビングへと向かった。
帰りにラーメンを食べてしまったので、スーパーで安くなっていた総菜を見繕ってきた。
「……何が好みか知らないけど」
買ってきたのは唐揚げとアジの南蛮漬け、そして何となくのサラダ。
このラインナップなら外れることは少ないだろう。
おかずの準備はできているので、用意するのは米だけだ。
一応昨日の段階で炊飯器は洗っておいたので直ぐに使える。
米を洗って炊飯器にぶち込み、そしてスイッチを押す。
「……さて」
後は炊き上がるのと冷華さんが出てくるのを待つだけだ。
シャワーだからそんなに時間はかからないと思うが。
「色々あったなぁ……」
天井を見上げながら小さくぼやく。
ここ最近の出来事を振り返ると、『色々』という言葉では片づけられないかもしれないが。
一番衝撃だったのは、やはり冷華さんの変化だ。
学校と家では別人レベルで変わっている。
「あれでよくやって行けてたな……」
この家に来てまだ二日目。
たったそれだけのはずなのに、この家には俺が来てから変わったものが多すぎた。
……と言っても主にゴミを片付けただけだが。
「でもあのままだったら本当に死んでたんじゃ――」
「ふう~。さっぱり~」
その時、まるでスキップでもしているようなテンポで話す冷華さんの声が聞こえてきた。
「あ、まだご飯炊けてないので……ええっ!?」
自然に声が聞こえた方に顔を向けたが、彼女の恰好を見て大きな声が漏れる。
それは部屋中に反響し、まるで山びこのように帰ってきた。
「ん? どうしたの?」
しかし当の本人はまるで気にしていないようで、きょとんとした顔をしている。
「どうしたのじゃないですよ! 何で服着てないんですか!」
そう。今の冷華さんは大きめなバスタオルを体に巻いているだけで、何も着ていないのだ。
もちろん主な部分は隠れているが、問題はそこではない。
「早く服を着てください!」
「え~。私いつも風呂上りはこの格好なのに……」
「今はもう俺がいるんですから! 少しは気を遣ってくださいよ!」
一人だったら別にどんな格好してもかまわない。
けど今は健全な男子高校生が一緒なのだ。
風呂上り。ただでさえ肌のハリが向上していて火照っているのにも関わず、タオルだけなんて心臓と目のやり場に悪すぎる。
「とにかく俺もシャワー浴びてくるので、ちゃんと服着ておいてくださいね!」
目を瞑り、さらに念には念を入れるようにして両手で目を覆いながら浴室へと向かった。
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