幼馴染み
「莉奈……!」
目の前に現れたのは幼馴染みの
俺の実家の近くに住んでいる子の中学三年生。
家の近くだったから両親が仲良く、小さい頃からよく話していた。
そして……両親の離婚についても知っている、数少ない人物だ。
「やっぱり栄一お兄ちゃんだ!」
大きな声で叫びながら莉奈は俺の方に走ってきて、そのまま思い切り抱きついて来た。
……こいつは会うといつもこうだ。
小さい頃から甘えてくる方ではあったが、その勢いは年を重ねる度に増している気がする。
一人っ子だから兄弟に憧れてるのかな。
「莉奈は……部活帰りか?」
「うん! そろそろ引退試合だから遅くまで練習してるの!」
「引退……」
そっか。もうそんな時期なのか。
莉奈は陸上部に所属していて、いつも部活を頑張っている。
前回の大会ではもう少しで県大会というところで終わってしまったと、悔しがっていた。
引退試合……見に行こうかな。
「ねえ、何でさっき家入ろうとして止めたの?」
そんなことを考えていたら、まさかの莉奈に痛いところをつかれてしまった。
まさか見られていたとは。
いやでも、莉奈になら話してもいいかもしれない。
幼馴染みだし、両親の離婚のことも知ってるし。
「実は……最近親父が再婚してさ」
「えええええええええええ!? そうだったの!?」
「ちょいちょい、さすがに近所迷惑だから!」
「う~!」
想像の5倍くらいでかい声で叫ばれたので、俺は急いで莉奈の口を手で塞いだ。
「ぷはっ! もう~いきなりびっくりするじゃん!」
「びっくりしたのはこっちの方だって。そんなに驚くなよ」
「だって……栄一お兄ちゃんのお父さんって……」
「まあ……言いたいことは分かる」
俺だってめちゃくちゃ驚いた。
あれが再婚できるなんて思ってなかったから。
「まあ、結局親父が結婚して今は『新婚生活を楽しみたいって』言われて追い出されたんだよ」
「それじゃあ今はどこに住んでるの?」
「ああ。お相手の方の娘さん……義姉の家に住んでる――」
「お義姉さん!?」
なぜかその単語に対して過剰に反応した莉奈が顔をめちゃくちゃに近付けてきた。
すっっっごい鼻息が当たっている。
どうしたどうしたどうした?
かつてこんなにも興奮した莉奈を見たことがあっただろうか。
「お義姉ちゃんってどういうこと! いま一緒に住んでるの! いつから! 年はいくつなの! どんな顔してるの!」
「お、落ち着け莉奈。分かった! 説明するか――」
その時、ポケットに入れておいたスマホが震えて振動が伝わってきた。
パッと手に取ってみると、画面には『冷華さん』という文字が表示されている。
「莉奈、ちょっと待っててくれ」
電話だと一言断って、俺はスマホを耳に当てる。
『はい、もしもし――』
『栄一くーん! 鍵忘れちゃったぁぁぁぁぁぁぁ!!』
電話に出た瞬間、泣き喚く冷華さんの声が聞こえた。
……さすがはポンコツ。学校が終わった途端に発揮するとは。
俺は一度大きくため息をついてから再び声を出す。
『分かりました。今から帰るのでちょっと待っててください』
『あとお米も買い忘れた……』
『それも買っていくので!』
そう言って半ば強引に電話を切った。
「莉奈ごめん、ちょっと直ぐ帰らないと」
「えっ? あ、お兄ちゃん、説明は!?」
「また今度するから!」
さすがにこの暗い時間に冷華さん一人を外に放っておけない。
俺は全力で走り出し、アパートへと向かった。
……ああ。途中でスーパーにも行かないと。
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