呼び出した理由
「な、何やってるんですか? 先生……」
旧視聴覚室。
ここは冷酷な魔女が巣窟とされている場所で、生徒たちが使用している教室から最も離れている場所。
だから絶対に生徒は寄り付かないし、俺も好きで着たりはしない。
ここにやってきたのは何を隠そう冷酷な魔女――冷華先生に呼び出されたからだ。
だが……。
「だってだって! 今日の授業いつもより皆集中してなかったし! これってボイコットの前触れよね! 私の授業を聞かないっていう意思表明よね!」
当の先生はお菓子を買ってもらえなかった子供のように泣きじゃくり、俺に抱きついてきている。
今の彼女に冷酷な魔女どころか、教師の面影すら感じられない。
「とりあえず先生、中入ってください。誰かに見られますよ」
いくら人が来ない場所とはいえ、教室前でやってしまってはリスクが高まってしまう。
俺は引きずるようにして先生を教室の中へ連れて行く。
そう言えばこの教室に入るのは初めてだな……。
元々、急視聴覚室だし。魔女の巣窟だし。
いったいどんな部屋が待ってるのか……。
「え?」
入った瞬間、視界に入ってきたのは大量の酒瓶だった。
それらがまるでプラモデルやフィギュアのように飾られている。
「先生……まさか学校でお酒飲んでるんですか!?」
いくら酒好きだからと言って、ここで飲むのはやり過ぎだろ。
「ん~? あ、これはただ飾ってるだけよ」
「飾ってる?」
「そう~。家で飲み終わったお酒を洗って持ってきてるだけ」
「何でそんなことしてるんですか?」
そう尋ねてみると、先生は俺に抱きついている手をプルプルを震わせ――
「だって! 学校じゃお酒飲めないじゃない!」
力強く叫んだ。
「そう……ですね」
完全に呆気にとられた俺はその言葉を返すので精一杯だった。
駄目だ、この人……。
ポンコツなだけじゃない。ポンコツで、それに加えてめちゃくちゃな酒カスだ。
「でもさすがに他の先生とか来たら怒られるんじゃないですか?」
「それなら問題無いわ。私、浮いてるから」
「そんな堂々と言わないでくださいよ」
メンタルが強いのか弱いのかよく分からない。
どうして孤立していることを自信満々に言えるんだよ。
世の中には体育の授業で二人組を作れない人間もいるというのに……。
俺も大樹がいなかったら――
なんて、そんなことはどうでもいい。
「ちなみにどうして俺を呼び出したんですか?」
危うく本題を忘れるところだった。
すると先生の方も、ハッとした表情をして俺から離れる。
……まさかこの人も忘れてたのか?
「ねえ、栄一くん……」
そして先生は何故かスカートを少したくしあげ、薄く顔を赤らめながら問いかけてきた。
その仕草から俺の視線は強制的に先生の足に向けられ、細くて白い綺麗な足が視界に映る。
さらにスカートがたくし上げられたことにより、そこに隠れていた部分が少しだけ露となった。
「私の足って……どう思う?」
照れくさそうに呟く先生。
授業中にも、家の時にも聞いたことがない甘い声色に俺の心臓が一気に高鳴る。
待て待て待て待て待て待て待て待て。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
心の中で何度も自分に言い聞かせるが、繰り返せば繰り返すほど沼にハマっていく。
「ねえ……どう思う?」
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