ポンコツお義姉ちゃんは料理もできない

「ふう……大分綺麗になりましたね」


 掃除を始めて約3時間ほど。ようやく終わりが見えてきた。

 床に落ちている下着やタオル等は全て洗濯機に突っ込み、酒缶も全てゴミ袋へ。

 雑誌などはよく分からなかったので、大量の服で埋まっていた空っぽの本棚に並べて置いた。


 これでようやく、人が過ごせる部屋になった。


「すごーい! まるで引っ越してきた初日みたい!」

「むしろよく今まで暮らせてましたね……」

「凄いでしょ~」

「いや、全然褒めてないです」


 適当にあしらうと、冷華さんは不満そうに頬を膨らませる。

 その瞬間、部屋に大きなお腹の音が響いた。


 俺ではないので間違いなく冷華さんだろう。


「あっ……えっと……」


 チラッと彼女の方に視線を向けてみると、真っ赤になった顔で口をパクパクさせながら小さく声を漏らす。


 それは恥ずかしいのかよ。

 『つけていない下着に価値はない』とか言ってたくせに。


「お、お腹空いたよね! え、栄一くん何か食べる?」

「あー……。まあ……」


 時計を確認してみると、既に午後6時を示していた。

 夕食には少し早いかもしれないが、掃除で体を動かしていたので空腹ではある。

 

 だが……問題はそこではない。


「先生……料理できるんですか?」

「そんなこと言わないで! ちゃんとできるわよ! それと、“冷華さん”ね?」

「あ、はい」


 ついうっかり『先生』が出てしまった。

 やっぱりまだ慣れないな……冷華さん呼び。


 それにしても本当に料理なんかできるのか?

 正直、まだ疑っている自分がいる。本人は自信満々にエプロンをつけて台所に立ってるけど。

 ……というか、食器洗い場もかなり悲惨な状態だった気がするんだが。


「栄一くん、肉じゃがは好き?」

「あ、はい。好きです……」


 肉じゃが……特別難しい料理というわけではない。

 むしろ比較的簡単ではある。

 

 けど―― 


「――いった~!」


 ――ほらやった。

 冷華さの叫び声を聞いて、何なら少し安心した自分がいる。


「あああああ! 指切っちゃった!」

「本当に期待を裏切りませんでしたね……」


 ここまで綺麗にフラグを回収することがあるだろうか。

 少なくとも、この人以外で見たことが無い。


「絆創膏はあるんですか?」


 期待せずに尋ねると、こちらも予想通り。冷華さんは切った指を口で咥えながら首を横に振った。


「とりあえずどいてください。先生は洗面所に行って、洗ってきた方がいいですよ」

「はぁーい……」


 ひとまず冷華さんをどかし、代わりに俺が台所に立って包丁を握る。

 小学校の頃に両親が離婚して、それから今まで父親と二人暮らしの俺。


 一通りの家事はできるという、現代らしい特技を習得していた。


 俺は包丁でじゃがいもの芽を取り、皮を丁寧に剥いていく。

 後は牛肉としらたき……玉ねぎ……。


「栄一くん……料理できるの?」


 洗面所から帰ってきた冷華さんが、関心したような声色を発しながら俺のことを覗いて来た。


「まあ……父親と二人暮らしが長かったので」


 最初の頃はお弁当とか、スーパーの総菜などで済ましていたが、今後のことも考えて自炊しよう考えたのだ。

 確かあれは、中学1年の時だっけ。

 

 最初の頃はさっきの冷華さんのように包丁で指を切ったりもしたが、時間が経てば慣れてくる。


「ちなみに先……冷華さん。お米ってないんですか?」

「えっ?」

「賞味期限が切れてるやつだったらあったんですけど……」


 そう言いながら顔を伺うと、明らかに『やっちまった』という表情を浮かべていた。

 そして舌を出し、ぶりっ子のように自分の頭を軽く叩く。


「そんなことしても可愛くないですよ」

「そんなぁ~!」


 こんな人が……学校では冷酷な魔女って言われてるんだよなぁ。

 

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