もしかして……ポンコツ?
「……ここが先生のアパートですか」
Gというの名のゴキブリを対処した後、改めて入った部屋を見渡した。
ちなみに外に倒れて行った段ボールたちは、とりあえず玄関のところに積んである。
だって……他に置く場所が無かったから。
玄関でもヤバいと思っていたけど、部屋の中はもっと悲惨な状態だった。
机の上や床には酒缶が転がっており、ごみ袋は縛ったまま放置されている。さらに脱ぎっぱなしのTシャツや使い終わったタオル等も落ちている。
とてもじゃないが、人が生活している部屋とは思えない。
……本当に先生の部屋だよな?
未だに信じられない自分がいる。さっき、一応ちゃんと聞いたはずなのに。
「ぷは~! やっぱり昼間から飲むお酒は最高ね!」
「何でこの状況で飲めるんですか!」
「ええ? どうしたの栄一君~。飲みたいの~? 駄目だよ、高校生なんだから~」
アハハと声に出して笑いながら、再び先生は浴びるように酒を飲み始める。
「そうじゃなくて、さすがにこの部屋で飲むのは良くないですよ。冷華先生!」
「止めて! 休みの日まで“先生”って呼ばれたくないの!」
そう言いながら冷華先生は耳を塞ぎ、体を震わせる。まるで大型犬に怯える小型犬のように……。
うん。見れば見るほど“冷酷な魔女”の要素が無くなっていく。
「とにかく掃除しましょ! 俺も手伝うので……」
とりあえず落ちている服やタオルから片付けようと、適当に手を伸ばしたものを見て、俺は思わず固まってしまった。
まるで綺麗な薔薇のように鮮やかな赤。形からしてこれは恐らく女性がつける下着の一つで――
「あ、そのブラ洗濯機に入れておいて~」
「やっぱりそうですよねぇ!!!」
俺は叫びながら思い切りブラを壁に投げつけた。
まさか生まれて初めてブラを触るのが、今日になるとは思わなかった。
……くそっ! 何でこんなところで経験してしまったんだ!
予想よりも硬かったとか、重さを感じるとか……絶対に今覚えるべきではない知識を身に着けてしまった。
「というか、下着を床に放っておかないでくださいよ!」
「でも、つけてない下着に価値はないでしょ?」
「何ですかその謎理論! ほら。手伝うので掃除やりましょうよ! 先……冷華さんは下着を拾ってください」
強めの口調でそう指示を出すと、冷華さんはまるでハムスターのように頬を膨らませながら睨んできた。
おいおいおい……教師としての威厳はないのかよ。
そんなことを思っていると、冷華さんは渋々床に落ちている下着を拾い始めた。
どうやら堪忍したらしい。
「冷華さん、この辺の雑誌とかはどうしますか?」
とりあえず安心しながら散乱している大量の雑誌のことを尋ねる。
見るからにもう読まなそうではあるが、一応聞いてみた方が良いだろう。
「うーん? どれ~?」
冷華さんは体をこちらに向け、一歩踏み出す。
無防備に踏み出された右足に待っていたのは、床に転がっていた酒缶であった。
「きゃあ!!」
完全にバランスを崩した彼女は、思い切り右足を上げながら後ろに転ぶ。
それだけでなく、転んだ際に酒缶を思い切り蹴っ飛ばしてそれが宙に舞う。
それが転んだ冷華さんの頭に当たり、コツンッという音を奏でた。
「……だ、大丈夫ですか?」
あまりにも芸術的な光景に思わず魅入ってしまった。
漫画やアニメでもここまでうまく行かないぞ……。
「いたた……」
「あっ」
俺はあることに気づいてしまい、小さく声を漏らす。
「冷華さん……その右手……」
「えっ? どうしたの?」
俺が指摘すると、彼女は自身の右手の方に視線を向ける。
そこには狙ったかのように接着剤が置かれていて、手で踏んでしまった衝撃で中身が大量に出てしまっている。
しかも若干指に付着してるし。
「もうヤダ~! 栄一くん! あとは掃除やってよ~!!」
まるで子供のように泣きわめく冷華さん。
“冷酷な魔女”の姿は一ミリも感じられない。
まさか……冷酷な魔女が、家ではこんなにポンコツだったとは。
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