同居!?

「いや~。まさか冷華さんが栄一の担任だったとは! こんなことあるんですね~」

「凄い偶然ですね! 博文さん!」


 顔合わせを含めた食事会。

 父親と花子さんは、その話題で持ちきりだった。


 ……まあ確かに驚きの事実である。


 正直、俺もまだ信じられていない。

 自分のクラスの担任が義姉になるということを。


 チラッと冷華先生の方を向いてみると、先生はきっちりとした姿勢を保ったまま美しく食事をしていた。

 その動作は一切淀みない。


 やっぱり家でもこんな感じなんだな……。


「ねえ、栄一君」

「は、はい!」


 突然名前を呼ばれて思わず大きく返事をしてしまう。

 呼ばれた方を向いてみると、花子さんが微笑みながら俺のことを見ていた。


「学校での冷華ってどんな感じなの?」

「あ……冷華……先生ですか」

「そうなのよ。この子もう家を出ちゃってるから、仕事のこととか何も知らなくて~」


 へえ……。先生一人暮らしってことか。

 でも確かにイメージ通りかもしれない。


 第一印象こそ冷華先生の母親――花子さんは『淑やか』な感じだったが、話してみると大分気さくというか、父親に似ているところがある。


 いかにもピシっとしている冷華先生とは相性良くないだろう。


「それで? どうなの、栄一君!」

「あ~。えっと……」


 誤魔化しながら視線だけ先生の方を向く。

 すると冷華先生は、鋭い眼光を俺に向けていた。


 『余計なことは言わないように』と忠告をするように。


 俺は怪しまれないよう小さく頷き、


「厳しいですけど、めちゃくちゃ良い先生ですよ……」


 少しだけ声を上擦らせながら答えた。

 確認のために再び先生の方に視線を向けると、何事もなかったかのように食事を続けている。


 これは……及第点ってことだよな?


「あらそう~。良かったわ~。この子、頭が固いから生徒に嫌われてるんじゃないかと思って~」

「アハハ……」


 その時、隣に座っていた父親が突然背中をバシッと叩いてきた。


「いった!」

「まあ何はともあれ、丁度良かったな!」

「丁度良かった……?」


 いきなり何を言い出すんだ?

 ってか、背中めちゃくちゃ痛いんだけど。


「栄一、明日から冷華さんのところで暮らせ」

「は、はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あら良いじゃない~。幸い、二人は教師と生徒だから大丈夫でしょう?」

「いやいやいやいやいやいやいや! 花子さんも何で納得してるんですか!」


 爆弾発言にもほどがあるぞ。

 ただでさえまだ『義姉になる』って言うのが受け止めきれてないのに、その上二人で暮らす!?


 昔からどこか狂ってると感じていた父親だったが、まさかここまで頭がお花畑とは。


「良いだろう? 父さんたちだって新婚気分を味わいたいんだ」

「そのためかよ!」


 それだけのために息子を追い出すとか、それでも親か!


「――私は別に構いませんよ」


 瞬間、今までの流れを全てを断ち切るような一言が響いた。


 俺も父親も花子さんも、その衝撃的な言葉を放った本人に注目する。

 しかし当の本人は何食わぬ顔をして食事を続けていた。


「ほら! やっぱり大丈夫だろ!」


 これ見よがしにバシバシと背中を叩いてくる父親。

 もはや痛みを感じる余裕はなかった。


 おいおいおい……マジかよこれ。


 夢なんじゃないかと思うが、段々と伝わってくる背中の痛みがそれを否定していた。


 クラス担任が義姉になる。


 それだけでもノックアウト寸前だというのに、まさか『二人だけで同居』まで決定してしまうとか……。


「漫画かよ……」


 そう言葉にするので精一杯だった。

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