1-3 その質問を聞き返す

 その質問を聞き返す勇気がなかった。

 自ら国に語った事だけど、それは事実であって事実ではなくて、今となっては記憶が混乱していてよくわからなくなってしまった。

 あの時は正直気が動転していた気もするから、思うままに喋っていたか。

 確かに。確かにだが、大切だと思える人に出会い。そして別れた。

 別れてそれから今に至るその間は何度か彼女のことを考えた。1ヶ月に一回いや二回ぐらいだろうか、考えるだけ無駄だと感じながら彼女は何をしているだろうか。健康だろうか。笑っているだろうかと。

 でも考えるだけ虚しくなった。彼女には彼女の世界があり。僕には僕のーーいや私の住む世界があるこだから。


「結婚はしてないよ」

「本当ですか」

「嘘ついてどうする」

「まぁそれもそうですね」

 それ以上の質問は続かなかったが、正直ながら聞いてくれるなと、思い出させてくれるなと思うばかりだと心の中で悪態ついた。


 それから数日。

 やはり完全に思い出してしまった。

 かつての夢を見る日が増えた。

 あの日を夢想する日が増えた。

 ため息を吐く日が増えた。

 しかし仕事には集中出来た。

 紛らわそうと無意識になっているのかもしれない。

 いっそのこと記憶を無くしてみようかとも考えた。そういう魔法もあった。

 でも実行する事はなかった。やっぱり出来なかった。

 自分がどうしたいのかわからなかった。

 今はどうだろう。

 どうだろうーー。

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